練乳は何に使われたのか?

卒業式も過ぎると、家電や雑貨が大学に集まる。
引っ越し前、家庭の不用品を後輩などに譲渡するために、皆が持ち寄るのだ。
粗大ゴミみたいなものもあれば、お宝もあった。
この日も新たに実習室の黒板前の机に紙袋が並んでいた。
なんだろう?と中身を覗くと、調味料や雑貨がぎっしりと紙袋に詰まっていた。
とそれらを眺めていると、キナコが後ろから話しかけてきた。

「私、引っ越し決まったんだよ!だからもう使わないものがいっぱい出てきてさぁ!」
「あぁ、そうなんだぁ。あの部屋ともおさらばかぁ。悲しみ」
「ねぇ~。みんなでよく集まったね!」
「うん。思い出がいっぱいある」
「それでさぁ。これらをエツに全部あげようと思って?使うかな?」
「ほんとに!?いいの?使うー!助かる~」

私はキナコからたくさんのおさがり生活必需品を授かった。
するとそのタイミングで

「おっはよー!」

とトシが現われた。
私たちの方へ一直線に向かってくる。
そして紙袋の中身をじーっと覗いた。

「エツ、これなに?どうしたの?」

「キナコが引っ越しすることになってさぁ…」
「私がエツにあげたんだよ!」

「そうなんだぁ。いいな~!」

トシが紙袋の中身をガサゴソと物色する。

「エツ、そういえば練乳苦手だったよね?」
「うん。好きじゃないね」
「これ貰ってもいい?」
「いいよ!他にも欲しいのない?」
「いや、これだけもらえれば十分だよ。ありがとう!」

そう、私は練乳の味が大嫌い。
おそらくトシはそんな私を気遣ってくれたのだろう。
トシは森永のチューブ入り練乳だけを袋から取り出すとリュックへに入れた。

それにしても、キナコのあの部屋でもうみんなで集まれないと思うと淋しくなる。
いろんなエピソードがあった。
3人は思い出話に浸った。


翌日。
私はトシの家でダラダラしていた。
「ブシドーブレード弐」というレトロゲームを楽しんでいた。
プレイステーションのソフトで、侍や忍者が戦う3D格闘ゲーム。
体力ゲージはなく、一太刀で決着がつくこともある。
手や足を切りつければ、ちょん切れてしまう残酷な描写もある。
手足を切り落とされた場合は、芋虫のように地面を転がり続けるしかなかったりする。
現実志向のようで、てんで非現実的なゲームである。
いささか悪趣味なゲームであるが、突っ込みどころも満載で、ゲラゲラと笑いながら2人は無益な時間を過ごしていた。
しかし、それを4時間も続ければ飽きてくる。

流石に疲れたので、私は何気なくトシのロフトベッドへとよじのぼって横になってみる。
そして心地よい体制を求めてゴロンと寝返り打った。
すると視界にあるものが飛び込んできた。
それは一般的に寝具上では、見慣れないものだったので目を疑った。
赤と白のデザインのチューブ。
絵具ではない。

森永のチューブ入り練乳だった。
そう、それはまぎれもなく昨日、カナエから譲渡された練乳だ。
それがなぜか枕元に転がっているので不思議でならない。
私は早速それを手に取り

「あれれー?なんでこんなところに練乳があるのかなぁ?ふっしぎー!?」

と尋ねてみる。

瞬時にトシが「あっ!」とした表情に変わる。
動揺を隠せないようだ。
しどろもどろになりながらトシが口を開く。

「ちょっと苺をたべてて…」
「えっ?ベッドの上で?」
「そうだよ…苺を食べたんだよ…寝る前に…」
「それって、もしかして文学的な表現?」
「……」
「練乳を何に使ったのか、そろそろ正直に答えてもらおうか?」
「……」

以降トシはだんまりと口を閉ざした。
黙秘権を行使したらしい。
沈黙の時間が過ぎていく。
気まずい空気が流れる。

これは怪しい…怪しいけど、もうこれ以上聞いても埒が開かないと判断した私は問い詰めるのをやめた。
そしてポケットから携帯電話を取り出すと、静かにレンズを練乳に向けた。
それに気づいたトシがやっと沈黙を破る。

「それはいけません!」

と慌てふためきながらロフトベッドに駆け寄ると、私の撮影を妨害してくる。
よほど撮られてはまずいのだろう。
こう抵抗されては仕方がない。
次のシャッターチャンスを待つことにしよう。

私は何事もなかったようにロフトベッドから降りると、またプレイステーションのコントローラーを握りゲームを再開した。
一旦は写真をあきらめたフリをして彼に安心感を与える技にでた。
したたかにもトシが用を足しに行くタイミングをじっくり狙うことにしたのだ。


案の定その瞬間はすぐに来た。
まずロフトベッドの淵に練乳を置いた。
しかしながら、それでは直接的過ぎて表現に角がたつかもしれないので、テーブルの上にあった小瓶の七味とうがらし・さんしょう、チューブのわさびを一緒に並べた。
そして、証拠写真をパシャリ。
とりあえず私はキナコに一報の写メを送る。

トイレから帰ってきたトシはもう観念していた。
トシは「またエツにやられた!」と思っただろう。
私は「またトシがやらかした!」と思っていた。

ところで、練乳は何に使われたのか?
真相は今も藪の中だ。



文・挿絵・写真:ETSU

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コメント6件

いいね、ありがとうございます。絵と文のサブカル感がたまらないです…よろしくお願いします。ベッドで苺を食べるっていう言葉が、卑猥(文学的?)に聞こえてきました笑
いいね!コメントこちらこそありがとうございます!くまちゃんシリーズたまらんですね!このクオリティを毎日…すごい!ベッドで苺を…ってとても意味深な表現ですよね?ほんとに何があったのだろう??クセの強い絵と文かもしれませんが、こちらこそ宜しくお願い申し上げます!
文はまだあんまり読めてないんで、これからちょっとずつ読ませていただきます!ありがとうございます〜くまちゃんは息抜きに描いていますので暇な時に読んでください!ストレート過ぎず、絶妙な表現でクセのある絵と文が好みです、またお邪魔します(๑・̑◡・̑๑)
ありがとうございます!最近文章が多いので、またたまには小ネタをマンガで表現しようと思ってます!最近デジタルにも慣れてきたんですけど癖の強さは治らず…でもそう言ってもらえてありがたく思います。私もまだ読めてないマンガがあるので追って行きます!
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