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ノートPCは儚い(小説版)

実習室を覗くとトシが椅子に座ってガクンと肩を落として茫然としていた。

「どしたの?」
「エツ~…ノーパソがウィルス感染でクラッシュしちまって、今日コジマに持ち込んだら修理代が5万だって…迷ってるんだよな…修理すべきかどうか…」
「高っ!変なサイト行きまくってるからだな」
「ま、まぁ…そのせいかもしれない。でもわからないのです…」
「まぁ、元気出しなよ!高校の同級生の話だけどエロ動画見過ぎて、請求50万きて、親に『将来、医者になるから許してください』と土下座したやつがいてだな」
「うんうん」
「そいつはそれをバネに猛勉強して、本当に医大に入学したんだ」
「ほーっ!」
「今のトシの損害はその十分の一だし、それをバネにしてがんばろう!てか修理しないとなんにもできないし、いつか修理するなら結局かかるお金は一緒だから、今すぐ行けー!」
「おおう、ちょっと修理出してくる」

私のよくわからないアドバイスに背を押されたトシはノートPCを気前よく修理に出したという。


それから一週間。
私はトシの家に遊びに来ていた。
部屋に入って瞬時に目についたのはフローリングの上にズンと直置きされたノートPCだった。

「パソコン修理出したんじゃなかったの?」
「あぁ、なんか意外に早く帰って来てさ。今日受け取りだったんだよね。だからさっき戻ってきたばかり」
「そうなんだ!直ったようでよかったね!結局5万したの?」
「うん、でもエツの言うとおりだったよ!5万円なんて安い。買い替えれば20万はくだらない」

トシがしゃがんでノートPCのモニターを立てて電源を入れる。

そして、むくっと立ち上がって

「快適快適ィィィ!」

とノートPCが直ったことへの喜びから浮かれて、独自のステップを踏みはじめた。

それにしてもこんなにこやかなトシの表情を見れるなんて、あのとき、瞬時に浮かんだよくわからないアドバイスが功を奏したようでほんとに良かったと安心する。

バリィ!!!

「あっ!」
「あおうあっ!!!」

嫌な音と嫌な光景が私の耳と目に飛び込んできた。
嫌な感触がトシの足裏に走ったことであろう。

さっきまで軽やかにステップを踏んでいたはずのトシの左足がノートPCの液晶モニター上にあった。
足をゆっくりあげたが既に遅く、バリッバリに液晶が割れていた。

修理に5万円もかかったノートPCが返ってきたのもつかの間に自ら踏んづけてぶっ壊すとはまさかの奇跡的展開。
こんなことが起きるなんて1分前まで予想できなかった。

崩れ落ちるトシ。

その背中からは今にも泣きそうなショック症状が伝わってきて、部屋にいずらい空気が漂う。
もうトシにかける気のきいた言葉は絞り出せなかった。
私は自分の無力感を噛みしめながら、笑いを堪えるのに必死だった。



文・挿絵:ETSU

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