見出し画像

やっぱり父が好き

この歳になって恥ずかしげもなく言うけれど、わたしは父が大好きです。父は今年で70歳になります。子どもの頃から父のことが大好きで、「父のパンツと一緒に洗濯して欲しくない」という時期はわたしには訪れませんでした。

わたしは3人兄弟の長女で、下に弟が2人います。弟二人も父のことが大好きなはずです。なぜわたしたち姉弟はそろいもそろって父が好きなのか。それは、父がわたしたちに惜しみない愛情を与えてくれていることがヒシヒシと伝わるからです。

わたしたち3人が大人になり、いつだったか父がぼそっとこう言ったことがありました。

「子どもっていうのは何歳になっても失敗しそうで怖いんだよな。だから転ばぬ先の杖を渡そうとしてしまう」

わたしには子どもはいないので、父がこうつぶやいたときの感情を味わうことなく今世はおわる(はず)。でも、しみじみとそうつぶやく父の言葉に嘘が一ミリもないことは容易にわかります。


2月末、父が小学校からの同級生と4人で東京観光にきました。友人のうちの1人が人生で一度も新幹線に乗ったことがないということで、70歳での初体験に同級生が付き合うというのが旅の目的です。

父の時代の田舎では大学に進学するという選択肢は一般的ではありませんでした。一人は中学を卒業して大工に、二人は高校を卒業して地元の企業に就職。父は工業高校を卒業後、家業の電気屋を継ぎ自営業に。

そこから50年以上。家族のために働きづめで、70歳になってようやく人生初の新幹線に乗る機会を得たと思うと、なんだかジーンとしてしまいました。

だからこの旅の計画を聞いたときからできるだけ協力しようと思っていたし、絶対に楽しい旅にしてほしいなと思っていたのです。

旅の段取りはほとんど父がやりました。メインははとバスの東京湾クルーズ。東京駅ではとバスに拾ってもらい、クルーズとクルーズ中の昼食、東京タワー、浅草観光がついてきたようです。このツアーを見つけて4人分予約したのは父です。

ホテルの予約も父がしました。といっても、実際にはどこに宿泊したら旅程がスムーズになるか父から相談を受けて、安くて良さそうなホテルを見つけたのはわたしですが(笑)

東京に来ると移動はほとんど鉄道 になるので が必要です。父は友人たちがsuicaを持っていないので4人分のsuicaを入手しようと奔走もしていました。

半導体不足の影響でカードのsuicaって今は手に入らないんですね!父から相談を受けたことでわたしも知りました。わたしも都内の主要な駅の窓口にいってsuicaが売っていないか確認してみたのですが結局手に入らず。

(モバイルsuicaをすすめましたが、田舎の70歳にはハードルが高かったらしく、カードのsuicaが欲しかったみたいです。結局、父ともう一人はモバイルsuicaをスマホに入れることに成功。あと二人分はカードのsuicaを用意できたみたいです!)


2日目のランチは横浜中華街で食べたいというので、わたしは横浜出身の友達に中華街のおすすめレストランを聞いて父に紹介しました。そこからレストランを選んで予約したのも父です。

ほぼ全ての旅の手配を父(とわたし)がやりました。楽しそうに準備をする父を見るのも嬉しかったし、それを手伝えるのも嬉しくて全く苦になりませんでした。父の友人とは家族ぐるみの付き合いなので、わたしも子どものころからお世話になっていましたしね。

いよいよ上京当日。わたしは会社のデスクでドキドキしながらラインを待ちました。予定では東京駅に8時半くらいに着くはずで、着いたら連絡が来るかなと思っていたのです。

9時くらいにラインに写真が届きました。皇居の前で父と友人たちが笑顔で写っている写真です。

わたしはそれを見て無事着いたことに安心し、そしてまたジーンと泣きそうになりました。子どものころから知っている父の友人達が楽しそうにしてる姿が嬉しかったからです。でも、写真の中の父と父の友人たちはわたしの記憶にある姿より一回り小さくなったように感じました。こんなに小さかったっけ……。小さくなった彼らをみて少し寂しさも覚えました。

次にラインに写真が届いたのは午後の1時ごろ。東京湾のクルーズ中と思われるものでした。そこでも4人のおじさん(おじいさん)達は海風に吹かれながら笑顔でした。

1日目ははとバスに乗っていれば良かったのですが、2日目は自分たちで東京の鉄道網を使いこなして移動しなければいけません。当初は横浜中華街でランチを食べたあとは東京駅に戻って、新幹線の時間まで皇居の中を散策する予定でした。

だけどここまで来たらどうしてもスカイツリーを見よう! という話になったらしく、急遽横浜の馬車道駅からスカイツリーまで自分たちで行ってみることになったようです。

父から道順を聞かれたわたしは乗り継ぎ案内をスクショしてラインに送りました。大丈夫かな……正直不安でした。横浜からスカイツリーって結構な距離だし、乗り継ぎも複数回あります。

帰りの新幹線は東京駅発が夕方の4時台です。わたしは11時に横浜中華街でランチを食べて、スカイツリーに行ったあと、東京駅にまた戻るのは少々時間的に厳しいということも伝えました。

「みんなと相談してみる」

そうラインが入ったのが午前10時頃で、それから午後の3時くらいまで全く報告もない。おいおい、大丈夫かな。乗り換えに迷って時間を無駄にしたらせっかくの旅行がもったいないよ。心配しながら連絡を入れてみたところ……。

なんと4人は横浜での昼食後、ちゃんとスカイツリーにたどりつき、スカイツリーの頂上まで行っていました!それどころか、新幹線の出発の1時間前には 東京駅に到着して、お土産をかったり乗り場を確認したり、完璧に旅程を遂行していたのです!

ここでも父は私からの乗り換えのスクショを頼りにみんなを誘導したみたいです。すごい!

 
こうして、無事4人は帰路につきました。帰宅後、父から電話で「いろいろありがとう。仲間も〇〇(わたし)に感謝していたよ。ものすごく楽しい旅だった」と伝えられ、またまたジーン……。

あぁ、よかった。
楽しめたようでよかった!
大きなトラブルも無くてよかった!

わたしは新幹線どころか飛行機に乗って海外に行くこともしょっちゅうあります。でも、時代や環境がそれを許さず、70歳にして初めて新幹線に乗って東京に来る、そういう人もいるんだな……。改めて、自分が何不自由なく好き勝手に生きさせてもらっている環境に感謝しています。

そして、新幹線に乗って旅行にいく余裕もないほど、人生を家族のために費やしてきた父と父の友人を尊敬し、これからは時間を見つけて人生を楽しんで欲しいと心の底から思いました。

後日、父の友人たちが父に大変お世話になったからと飲み会を開催してくれたそうです。その場でも、本当に楽しい旅だったと何度も何度も話したとか。そして今度はLCC に乗って北海道に行こう!と計画しているんだと楽しそうに教えてくれました。

今、改めてわたしはまた思います。

「やっぱり父が大好きだ」と。

そしてつきなみな言葉ですが、くれぐれも体に気をつけて欲しい。旅行の準備なんていくらでも手伝うから。



この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?