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光り続けていて、あの星のように。

ある日の帰り道。
残業でヘトヘトな体に鞭打って、近所のコンビニへ。
夕飯を求めて店の前に立った私の目に飛び込んできた1枚のポスター。
蘇る、若かりし日の記憶。
懐かしい声、耳に触れる三線の音色。
気付けば夕飯も買わず家に帰り、記憶が薄れないうちにスマホを開いた。
ネットにつながるのが、いつもより遅く感じる。
急いた気持ちを押し殺しながら、震える指で目的のサイトを探す。

”Double Circle"


……


というわけで。
ORANGE RANGE LIVE TOUR 022-023 ~Double Circle~
参加してきました。


小学生の頃、周囲は空前のオレンジレンジブーム。例にもれず私も少なからずオレンジレンジに触れてきた。そして周りの熱が冷めるとともに、私の熱も少し下がり、新曲が出ればとりあえず聞く、気に入ればCDを買う、ぐらいの熱量を保ってきた。

転機が訪れたのは、大学生の頃。
通ってた大学の近所にあった別の大学の学祭に、オレンジレンジが来たのだ。
「オレンジレンジ好きだったよね?○○大学の学祭に来るんだって。アンタ大学近くなかったっけ?」
小学校のころからの顔なじみから久々に来たメール。
すぐにTwitterをひらくと、学祭実行委員のツイートに、確かにオレンジレンジの文字。


知り合いが全くいない大学の学祭に一人で行く勇気はなくて、大学で最初にできた友達にお願いして一緒についてきてもらった。始発電車に揺られ、まだ暗い車窓を眺める。道中、友人が前もって貸しておいたオレンジレンジのアルバムを返してくれた。彼女はあまりオレンジレンジに触れてこなかったそうで、

「せっかく聞きに行くなら、ちゃんと知っておきたい」

と、誘ったときに言ってくれた。返されたアルバムは薄いオレンジ色の袋に入れられていて、彼女のそういうちょっとした気遣いが嬉しかった。

「この曲、好きそうだなって思った」

そう言って彼女がアルバムジャケットを見ながら指さした1曲。
私のこと、よく分かってるじゃん。
何故か私が得意げに言うと、彼女はいたずらっ子の様に笑った。

そこから、私のオレンジレンジ熱は小さく、しかし確実に再燃した。
かといって何か変わるわけでもなく。以前同様、新曲が出たらとりあえず聞く。その繰り返し。
小学生時代から変わらない、ファンと呼ぶにはあまりにも烏滸がましい。けれど、こんなに長い間曲を聴き続けたアーティストは、オレンジレンジ以外にはいなかった。

……

私は恥ずかしながら、この年になるまで所謂「ライブ」というものに行ったことが無い。一人で行くことの抵抗がすごかったから。
ライブという場所は、陽キャの巣窟というイメージがすごくて、陰キャの私がぼっちで参戦するのはかなり抵抗があった。誘えば付き合ってくれるだろう友人もいることはいるが、無料で見れる学祭と、お金をかけて参加するライブは違う。

今までだって、何度もあったオレンジレンジのライブを、何かと言い訳をして見送ってきた。
けれど私もアラサーに差し掛かり、これまでお一人様で色んなことを経験した。この期に及んで、何を躊躇うことがあろうか。
昨今1人でライブ参戦なんてよく聞く話だし、みんなアーティストを見にきているのだから、誰が誰と来ようが知ったこっちゃない。


『推しは推せるときに推せ』

いつまでも、アーティストたちが活動を続けてくれるとは限らない。それに、自分が行ける距離でライブを今後開催してくれるとも限らない。
ありふれた言葉だけど、まさに一期一会なのだ。
推せるタイミングで、近くに推しがやってくるのだ。

それに、単純に聞きたかった。
オレンジレンジの生歌。
学祭で聞いたときのあの高揚感、一体感。
あれをもう一度、味わってみたかった。

半ば自分を納得させるように、チケットを申し込んだ。もし、これで抽選に外れてしまったらスッパリ諦めよう。

そんな思いをよそに、見事抽選に当たってしまった。


……


物販開始の約30分前に会場に到着し、あたりを見渡す。
同年代や少し上の世代の方がちらほら。ほとんどが友人同士やカップル、家族連れで、お一人様は見当たらない。少しアウェイな感じが否めないが、今更なんだ!と自分を鼓舞してみる。
物販開始の時間になり列に並ぶ。あらかじめグッズを調べ、目星をつけていたタオルとアクリルブロックを購入。10分もかからなかった。
この時点で、入場開始時間まであと2時間。早く来すぎた。
結局、1時間くらい外をぶらぶら散歩していた。
初めて訪れた柳川。1時間もあるとかなりの距離を散歩できた。
のんびりとした時間が流れる田舎道で、大学生のころ住んでいた田舎町を思い出した。

道すがら、同じライブに行くのであろうお姉さんとすれ違う。
今年のツアーTシャツを着て歩くその姿。カッコいい。
ツアーTシャツ。憧れの一つだ。物販に並んでいたとき、悩みに悩んで結局買わなかった。そんな心が今更揺らぐ。
ライブの日しか着ないでしょ!という私と、ここで買わなかったら二度と買えないよ!という私。勝ったのは、後者の私。

予定より早めに水都やながわに戻り、先ほどより長い列に並んでTシャツを買った。ダウンを脱ぎ、Tシャツに袖を通す。これまた悩んで長袖の黒を選んだが、正解だ。カッコいい。タオルを肩にかけると、一気に会場に溶け込めた気がした。
会場を少し歩き、さっきは見逃していたポスターを撮影する。


満員御礼。いい響きだ。


入場開始時間になり、自分の席に座って驚いた。
だってなんだか、すごくいい席なんだもん。
そんなに前列ではなかったけれど、位置がほぼ真ん中だった。
しかもコンパクトな会場ならではなのか、ステージとの距離が思ったより近い。結構良席では?3次プレだぞ??

今考えてみると、奇数列だと二人組と二人組の間が1席余るから、空いているところに滑り込めた感じなんだろうなぁ。

周りにも次々お客さんが入ってきて、人の流れを見てたら急に緊張してきた。まわりが古参ファンばっかりだったらどうしよう、知らない曲があったらどうしよう、全然ノリ方分からなかったらどうしよう。

始まるまで、ずっとそんなことを考えてた気がする。

会場のBGMが止んで、ギターやドラムの音がステージから聞こえ始める。
すぐそこに、いる。
オレンジレンジが、いる――――


曲が始まった瞬間、肉眼で、メンバーの顔を捉えた瞬間、その声が、耳に届いた瞬間。さっきまでの緊張や不安が一気に吹っ飛んだ。

自然と体がリズムに乗る。手を挙げて、振って。見よう見まねでカチャーシーを踊って。初めてオレンジレンジの曲を聞いた頃の記憶が、鮮やかによみがえってくる。

知らない曲も1、2曲あったけど、全然問題なかった。意外とそんなもんだ。これまでもいろいろ初めてのことに挑戦してきたけど、やる前にしていた心配のうち、大半は取り越し苦労で終わるのだ。

あっという間にライブは終わった。
約二時間立ちっぱなし。終わるころには足は疲れていたし、二の腕は痺れていた。でも、悪くない疲労感。
人込みに流され、会場の外に出る。外気の冷たさが、汗ばんだ体を急激に冷やす。

少しでも余韻に浸りたくて、帰り道にもオレンジレンジを聞く。
大好きな曲。
生で初めて聞けた曲。
たくさんの思い出がある曲。
友達が、「好きそう」と言ってくれた曲。

僕らの想いもいつか誰かの胸に
光続けようあの星のように
*ASTERISK / ORANGE RANGE


生まれ変わってもまた、貴方達に出会えますように。


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