和菓子屋『三日月』には即日完売スイーツがある。
　北海道産の小豆と沖縄産の黒糖を使ったあんこに、モチモチフワフワの生地を挟んだ極上のどら焼きだ。
　ただそのどら焼きを食べれるのは、三日月が出た日だけ。
　しかも、雨だったり昼間や朝に出てしまったら、即休業。
　夜にくっきりと三日月が出た場合のみお店が開くのだ。
　人々はこれを『三日月どら焼き』と呼び、開店するや否や、長蛇の列が出来て、あっという間に売り切れになる。
　私も何度もチャレンジしたが、食べれずに帰る事が多かった。
　そんなある日、和菓子屋から『三日月どら焼きファストパス』というものが出た。
　何とそのチケットを使えば、並ばずに購入できるのだ。
　偶然にもそのチケットを入手した私は早速お店に向かった。
　いつも通り、かなりの行列だ。
　私はツカツカと列の横を通り過ぎ、店員にチケットを見せた。
　丸眼鏡の女将がそれを見てすぐにこう言った。
「偽物だね」

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