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【#シロクマ文芸部】ショーウィンドウの少女

 始まりは少年が母のおつかいに街を歩いていた時だった。
 寒い雪の日の事だ。
 道に少しばかり雪が積もっていて、少年は転ばないように注意をはらいながら歩いていた。
 そんな時、ある店のショーウィンドウに目が入った。
 まともに掃除していないのか、汚れたガラスの向こうに少女の人形が立っていた。
 貴族のドレスを着て嫣然えんぜんとした笑みでジッと見つめていた。
 その蒼き瞳に吸い込まれた少年は人形の虜になった。
 どうしても手に入れたいと考えていたが、値札を見ると、少年の月のお小遣いでは足りなかった。
 そこで少年は靴磨きをする事にした。
 雨の日も風の日も。毎日欠かさず。
 少年は必ず人形が立っている向かい側の道路で行った。
 もしお客さんに「下手くそ!」とか言って蹴飛ばされたり、汚い言葉で罵られても、彼女の笑顔で挫けずにすむからだ。
 何ヶ月か過ぎて、ようやく買えるまでの金額まで貯めた。
 少年はバケツ一杯に入った硬貨を抱えながらそのお店に足を運んだ。
 だが、ドアに鍵がかかっていたので、ノックする事にした。
「はい」
 しゃがれた声が聞こえたかと思えば、ドアに僅かな隙間ができて、小さな目が少年を見ていた。
「すみません。ショーウィンドウに飾っている女の子が欲しいのですが」
 少年はバケツを見せてそうお願いした。
 小さい目は少年をジッと見た後、「どうぞ」とドアを大きく開けて中に入れさせた。
 少年はもうすぐ少女に会える事に胸を踊らせていた。
 ドアはパタリと閉まった。
 それから少しして、ドアが開き、中から少女が出てきた。
 ショーウィンドウと同じ姿をした子だった。
 少女は空のバケツを持って、ガラスの方を見た。
 その向こうでは、少年が飾られていた。
「ありがとう」
 少女はそう言って、嫣然えんぜんと微笑んだ。

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