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ある暑い日の夜、荻窪のバーにて。

大学4年生の7月、とにかく単発のバイトを探していた。

というのも、6月は就活をしていて全然バイトをしていなかったので、
お金がマジで無かった。
就活終わって遊びたいのに。夏休みなのに。
だから、もうなんでもいいから日払いOKのバイトを探していた。


しかし、この時期はバイトが見つからなかった。
コロナ明け、夏休み、
シール貼りとか検品とかでよかったんだけど、
単発と言っても経験者の方が優遇されて、応募しても応募しても通らなかった。
もうなんでも良いから働かせてくれ…と求人サイトを眺めていると、



【オープンしたてのカラオケバーでホールスタッフ!!!カラオケ好きな人、飲食店経験者、大歓迎!!!!!!!】

みたいな求人があった。

カラオケは好きでも嫌いでもないけど、飲食店はめちゃめちゃ経験者だし、これなら通るんじゃね?と思って応募してみた。

勤務時間が23時~5時と、ゴリゴリの夜勤だったことだけちょっと気になったが、まあ22時以降の方が給料高いし♪と思えば全然オッケーだった。


応募はすんなり通って、23時15分前にお店に到着した。
エレベーターが開いた瞬間、

「あ、ミスった」

と確信した。



暗ェ。
バー。
バーっていうかキャバクラみたいな。
アー。
ミスった。

怖ェ。
面接担当だと名乗る男性がイカチィ。



「うちは触るのとかはダメってしてるんで、触られたら言ってください。
後は基本的にドリンク作って持って行って、お客さんが歌うのを盛り上げてればオッケーだから。」


まあそれくらいならできそうか、、、と思っていたけど、
いかんせん、客が来ねえ。
開店から30分経っても、1時間たっても、来ねえ。

それもそのはず、そもそもオープンして間もないし、
ド平日の深夜だし、
近くにカラオケまねきねこあったから、別に女の子触れるわけでもないのにわざわざ高い金払って、カラオケバーなんて来ない。



「じゃあチラシ配りお願い~」
その日はわたしともう1人、もう3回目だという年上の女の人がいて、その人と駅前でチラシ配りをさせられた。

地獄だ。
わたしも落ちるところまで落ちてしまった。


人、いないし。終電間際の荻窪で。
いたとしても、終電に乗るために走っている人か、
終電まで働いていて疲れていそうな人しかいない。


地獄だ~~~帰りたいよ~~~~~

それでもなんとか、もう一人のバイトが酔っ払った男女数名を捕まえて、店に戻ることになった。

お客さんがいれば、なんとか耐えられた。
お客さんが歌うときは適当に乗ったり手拍子したりして、
お酒を頼まれたらお酒をつくる。軽食を盛り合わせる。
それ以外はボーっとしている。
あ、これなら5時まで耐えらるかも。
と思ったけど、その男女は1時間半くらい騒いで、帰ってしまった。

深夜3時前。

「じゃあ、もう一回チラシ配りお願い~」




地獄だ~~~~~
3時にチラシ配る奴がどこにいるんだよ~~~~
今まで真面目に生きてきたのにな~~~~


で、サボった。駅前のロータリーでスマホいじってた。

そしたら、30代くらいのおじさんに話しかけられた。
細身でシュッとしていて、清潔感があるおじさん。


「こんな時間に、何しているの?」
「ここでバイトしてるんですけど、お客さん来なくてチラシ配ってこいって言われてて。サボっちゃってました。笑」
「へえ~こんなの出来たんだ。すぐに潰れそうだね笑」
「わたしもそう思います笑」
「行ってあげようか?」
「え、良いんですか?!」




来てくれた。
それからおじさんと店で二人、カウンターを挟んで色々なことを話した。

IT系の会社でエンジニアをしていて、明日も在宅勤務だから遅くまで友達と飲んでいたらしい。
野球が大好きで、今でも休日には会社の人たちと草野球をする。
奥さんはいたけど別れたって言ってたかな。

わたしも他愛もないような話しかしなかったけど、わたしの話もうんうん、と聞いてくれる穏やかな人だった。

ちょうど1時間くらいだっただろうか。おじさんは1曲も歌わずに帰った。
「また来ますね。何曜日にいるの?」
と言われて、適当な曜日を返した。

普段だったら絶対出会わないような人と出会って話して、良い時間だったな~と素直に思った。おじさんと話していた時間はとても楽しかった。



で、またチラシ配りに行かされた。(え~~~~)


もうちょっと余韻に浸りたかったのに…
と文句たらたらで駅前に繰り出したら、





「あっ」
「あれっ」
「…さっきはどうも。」


さっきのおじさんにまた会った。
そこで座って、また少し話した。

「普段はお酒飲むんですか?」と聞かれて、
「はい、好きですよ。」と答えたら、

「そうなんだ。よかったらまた今度、飲みに行きませんか?」
と言われて、ついつい連絡先を交換してしまった。笑



だって正直イケオジな方だったんだもん。
店で1時間きっかりで帰るのとか、全く触ったりしてこないでただ話してくれるのとか、店では何も言ってこなかったのにそのあとたまたま会った時に誘ってくるのとか、全部が好感持てたんだもん。


で、結局その日はそのおじさん以降お客さんが来なくて、朝の5時になった。
ちゃんと給料はその日にもらった。






結局わたしはそのおじさんとまた会うことはなかった。
飲みに行ってもいいかな~と思っていたけど、
バイトサークル友達大好き大学生だったわたしは忙しくて、
連絡はしたけど、予定が合わなくてめんどくさくなってLINEもブロックしちゃった。



行ってたらどうなってたかな?
美味しいもの食べて美味しいお酒飲んで終わりかな?
それとも、、



仕事で荻窪に行ったとき、あの暑い夜のことを思い出した。

気になって調べてみましたが、そのお店はまだ潰れてなかったです。人生経験として行ってみるのもアリだったかな、と思うけど、まあ良いや。



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