創作怪談 『海で見たもの』

私は海が好きで、季節関係なく海に行く。
もちろん、寒い時期に海に入ったりはしないし、
夏場でも、何となく海を眺めるのが好きだった。

数年前、友人達と、1番近場の海水浴場へと足を運んだ。
何故かその時強く海に惹かれた。
特段何か楽しいことがあった訳でも、感動した体験があった訳でもない。
その海水浴場が特別綺麗だった訳でもない。
でも、その後からしょっちゅう足を運ぶようになったのだった。

休み前日の仕事終わり、一旦帰宅をして着替えて車を走らせる。

 結構1番近場とはいえ、それなりに時間がかかる。

遅い時間になってしまったが、今日は満月で、月が水面に映っていてとても綺麗だった。
調度良い岩場に座ってボーッとしていると、視界の端に何かがチラチラ映る。

そちらの方を見やる。
なんだろう?

少し近づいて見てみる。
近づくと言っても、その揺らめいているものは海の中で、結構遠い。
何となく白い布のようなものがゆらゆらしているように見えた。
最初は月の光が水面の揺れで、そう見えているのかと思ったのだが、どう考えても違う。

水面の揺れの動きと違った動きをしているように見える。

ものすごく気になってしまい。
その揺れている白い何かをじっと見つめる。

なんだろう。
なるべく近寄ってみようと、岩から降りてそちらの方に向かう。
ちょうど真正面になる位置に着いた時、その白い何かは、まだゆらゆらと揺らめいていた。

もう少し近づいてみようと、波打ち際ギリギリに立ってみる。

ほとんど意味をなさないと思うが、手をかざして、目を凝らしてそれを、じっと見る。
少しの間そうして見ていると、どうやらそれは近づいてきている。
ゆっくり、ゆっくりと、こちらに近づいて来ている。
ある程度近づいて来た時に気がついた。

 水面から腕が生えている。
 青白い腕が1本、肘より上ぐらいだろうか、浮いている訳では無い、海の中から生えている。

ゆらゆらとしているのは、手がおいでおいでとするように動いているからだ。

そう気がついた時に、ハッと我に返る。

身体の半分が海水に浸かっていた。

その揺らめく白い手がこちらへ来たのでは無い。
私がそちらへと向かっていたのだと言うことに気がついた時、外気の寒さ海水の冷たさだけではない、ぞわりとした感覚が私を襲った。

急いで浜に上がろうと、踵を返そうとするとする……が、身体が上手く動かない。
一瞬、その揺らめいていた手の他にも何かいて、体を掴まれているのか……
とも考えたのだが、その日は寒いかったということもあり、着込んでいた服が水を吸って動きづらいだけだった。

走って車に戻る。
ガチガチと歯がなっている。
寒さと恐怖から手も震えて、なかなかエンジンがかからない。
どうにかエンジンをかけて、暖房もつけ、車を走らせる。

 気が急いてはいるが、どこか冷静に、安全運転を心掛けたおかげか、無事に家に帰り着くことが出来た。








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