創作怪談 『覗き見る』

寝室の襖がゆっくりと開く音が聞こえる。

なんとなく眠れなくて、その日は寝返りを打ったりしながら過ごしていた。
もうこのまま寝ずに過ごそうかと、ぼーっと天井を見つめていると。
グッと身体が固まった。
金縛りだ。

  こんなに急に固まるものなんだなと妙に冷静に、どうにか身体を動かせないかと、試行錯誤していると、襖の開く音がした。
ゆっくり、ゆっくり、スゥー……と開く音だ。

まるで私に気が付かれないように開けているかのように、こっそり開けるようなそんな開け方だった。
襖は最後までは開かず、途中で音は止まった。
だが、他に音が聞こえてきた。
規則的な息遣いだ。
何かがこちらを覗いているような視線も感じる。

誰だ?
なんなんだ?

恐怖が沸き上がってくる。

鍵を閉め忘れてしまったのだろうか?
どうして、こんな時に限って金縛りなんて……

そう思いながら、身体を動かそうと必死にもがくが、指先1つ動かせない。

息の主は、そのままこちらの様子を伺っているようだ。。
私に何をしてくるでもなく、家探する訳でもなく、ただじっと、襖の隙間からこちらを覗いているのがなんとなく気配でわかった。

そのまま、懸命にもがいていたのだが、いつの間にか意識を失ってしまったらしい。

  体感的には次の瞬間に 、明るい天井が見えた。
カーテン越しに、朝日が部屋を明るく照らしている。 
スマホのアラームが鳴っている。
どうやら起床する時間らしい。
ハッとして身体を起こせば、スっと動く、力を入れすぎて、変に勢い良く起き上がった。

襖を見れば、30cm程だろうか、開いていた。
昨日寝る時にしっかりと閉じたはずなのに、いや、もしかすると、寝れずに何度かトイレに行った時にしっかりと閉めずに、そのまま寝てしまったのかもしれない。

そう思いながら、アラームを止め、朝の支度を始める。

その日は、前日寝れなかったせいもあるのか、クタクタで、いつもより早めに布団に入った。

ふと、目が覚めた。
それと同時にまた金縛りだ。

今回は、襖の方を向いて寝ていた。
おいおい、まさか……
そんなことを思っていると、そのまさかが起きた。

スっ……と襖が開き出す。
焦って目をつぶる。
とはいえ、そこにいるのが何者なのか知りたい。
少しだけ薄目を開ける。
ぼやけているし、何より寝たままの体制では、開いた隙間の下の方しか見えない。
今朝見た時と同じぐらいの隙間が空いた時、またあの息遣いが聞こえてくる。

また、こちらの様子を伺っているようだ。

息遣いは聞こえてくるが、隙間の下の方には何も見えない。

なんなんだ……
ぞっとする。
きっと私の顔は青ざめていることだろう。
だが、恐怖と共に興味が湧いてきた。

これはなんなんだ?
誰がこの襖を開けているんだ?

息遣いがする方向、こちらを見つめる視線の感じる方向に、唯一動かせる目を上に動かす。

バチッ……と、音が鳴ったかと思うぐらい、しっかりと目が合った。

そこにあったのは、顔だった。 

その顔は宙に浮くようにそこにあった。

この顔は、こちらをじっと見下ろしていた。

その顔は、真顔で何を考えているのか分からない青白い顔をしていた。

その顔は私の顔だった。










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