ペーーーーン!!!!!
バイトの面接を終えた僕は、その内容を反芻しながら自転車を漕いで帰路に就いていた。
カタン
と音がしたので漕ぐ足をとめて振り向くと、ペンが落ちている。
どうやら前カゴに載せているカバンからペンを落としてしまったようだ。
拾わなくては。Uターンして自転車をとめる。
すると向こう側からこれまた自転車に乗ったおっちゃんが向かってきた。
狭い道なので避けよう。
それにしても遅いなおっちゃん と思いながら、おっちゃんが通り過ぎるのを待った。
僕は目を疑った。
おっちゃんは僕のペンをゆっくり轢いていった。
ゆっくり、確実に、前輪と後輪で二度。
まるでそのペンが絶対に超えなければならない障壁であるかのように。
ペーーーーン!!!!!!
僕の大事なペンが、、
百均で急遽用意した大事なペンが!!
大丈夫か!!!!
すぐにペンに駆け寄って様子を見る。
幸い、息はしているようだ。
ペン、大丈夫だからな。僕がなんとかしてやる。
ペンを抱き抱えて手のひらに乗せる。
怪我の様子はどうだ。
見れば大きな傷がついているではないか!!!
なにか打ち付けたような痕が、銀色の美しいボディに汚点を残している。
これはまずい。なにか応急処置をしなければ。
カバンを漁ったがバイトの募集要項プリントしか入っていない。今日の用事がバイトの面接ではなくペン救護講習会であったならば、また結果は違っていただろう。
僕はなにもできない。
僕には何もないな。参っちまうよもう。
とっておきのセリフも特別な容姿も。
おっちゃんの方を見れば自転車のミラーにわずかに顔が映っていた。ペンを轢くやつがミラーをつけるな!!
僕はあのおっちゃんを訴えることにした。
裁判は、ペンの傷がおっちゃんが轢いたときにできたものなのか、僕が落としたときについたものなのかどうかが主な争点として争われた。
物的証拠はペン自身の傷のみである。
おっちゃんの弁護士は言う。
「ペンには打ち付けたような痕があります。
もしおっちゃんがこのペンを自転車のタイヤで弾いたならば、擦れたような跡になるはずです。したがってこのペンは〜」
「そんな、僕がペンを傷つけたなんて!
馬鹿げている!!!
名誉毀損だ!!!訴えてやる!!!!」
僕は法廷で叫んだ。
静粛に。 裁判官が厳格な声色で僕を注意する。それはひどく冷淡で非情なものに思われた。
僕の弁護士が、訴えてやるつったって今訴えてるとこでしょうが、となにか言っている。
からだは関係ないほどの心の関係〜♪
言葉が邪魔になるほどの心の関係〜♪
電話だ。
「ちょっと、電話の持ち込みは禁止されています。速やかに切ってください」
僕は咄嗟に電話に出てしまった。
「ええ!バイト合格?!はい!ありがとうございます!!!」
やったー!!!
僕はバイトに合格した!!
初バイトは居酒屋のホールだ。緊張するけどがんばるぞー!!
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