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ビジネスで大切なことは全部いけばなにつまっている:MiLI荻野淳也さんとの対談

日本のビジネス界へのマインドフルネスの第一人者である、Mindfulness Leadership Institute (MiLI)の荻野淳也さん。メディテーションやランニングなどのマインドフルネスの実践を日々自ら行いながら、世界の最新の研究や実践事例を踏まえ、企業やビジネスリーダーにマインドフルネスを伝えていらっしゃいます。いけばなとマインドフルネスの間に通底するものを感じ、数年前から時々花をいけにIKERUに来てくださっており、この度「いけばなと経営学の重なりを探求する」マイプロの二人目のゲストとして、軽井沢の野草をいけた後、対談をさせていただきました。(対談は2022年7月5日)

淳也さんの作品

今ここで、自分そして花と対話し、自分と深くつながる

まゆか:一年以上ぶりのいけばな、いかがでしたか。

淳也:整いましたね。ランニングやメディテーションで「整う」感覚と同じです。花をいけている時は、自分の深いところにつながりながら、過去を振り返っているわけでもなく、未来を見ているわけでもない、まさに「今ここ」にいる、という感じがします。

まゆか:ランニングやメディテーションは自分だけなのに対して、いけばなはそこに花が介在しますよね。その違いはありますか?

淳也:自分自身との対話をし、そして花との対話をしている。この子(花)はここでいいのかな、この子はこの子を邪魔してないかな、この子いかしたいよね、この子いかしたいなら葉っぱを切るといいかな、とか。さらには、ここは風通し悪いな、とか。そういうのを一つ一つ感じながらずっと対話している。それで自分とも深くつながっていく。

今日は、船みたいな花器をたまたま手に取りました。船だから帆に風をうけた感じの作品にしていくといいのかな、というような意図を持っていけ始めていくと、その意図が邪魔をしてしまって、いかんいかん、と。そうではなく、手の中にある花材と花器と全体の場と、それをただ感じるだけに戻っていこう、というのを繰り返していました。うん、一人ダイアログだよね(笑)。

まゆか:いかんいかん、という感覚をちゃんと持てるのがよいですね。

淳也:別の表現で言うと、花材や花器をいかしきれていない、いかせていない、そういう感じが伝わってくる、ということです。分析しているのではなく、感じている。

まゆか:最近、ちゃんとその方の作品の正面に座って見なくても、横から一瞬見るだけで、流れがつまっているな、とかわかるようになってきました。何なら見なくても空気感でわかる。

その組織に風は通っているか

淳也:空気感、そしてそれを感じられるかどうかが大事だよね。組織づくりも事業構築も同じ。風が通っているか、つまってないか、流れを受けているか、流れを創り出せているか、というのを感じる能力こそ大事だと思います。

まゆか:組織において風が通ってない、つまっている、というのは具体的にはどういう状況ですか?

淳也:その組織に傷ついている人がいる、苦しんでいる人がいる、ネガティブな感情を抱えている人がいる、疲弊している人がいる、そういうことだと思います。僕は人からアプローチしていく仕事の仕方をしているので、そういう事象がまず目に入ります。

これは事業面から見たら、高すぎる目標・予算設定に対して、イノベージョンではなく、従来通りの生産性を搾り取るようなマネジメントでごりごりやっている、という背景があります。

もちろん◯%成長すればいいけれど、事業環境、世界情勢、社員のウェルビーイングなどを踏まえたらその予算設定は本当に妥当なのか、というところを誰も問わず、株式市場や親会社などどこかからのプレッシャーを気にして、とにかくその◯%でやらなきゃいけないよね、となっている。社員がだいぶ疲弊しているから今年はこれくらいにとどめておこう、といったことは考えずに。

まゆか:戦略や目標設定の見直しなくして、社員を大切にすることも、ウェルビーイングを高めることもできないですよね。

余白がないと新しいアイディアも生まれない

淳也:日本の部長の平均給料がタイより低く、平均年収は韓国より低くなっている、それが今の現実です。つまり、生産性のレベルがどんどん落ち停滞している、ということ。ごりごりとたくさんのタスクをこなせば成果がでる、という意味での生産性向上を目指そうとしているけれど、それはもう限界を迎えていて、知の深化・探索から出てくる新しい業務プロセスの創出や商品開発が必要になっている、ということなんです。

今本当に日本の企業がしなければいけないのは、働き方を含めて新しいことを生み出していく創造性を高めること。そしてその創造性は探求心や好奇心から生まれます。でも、従来型の搾り取る・追い詰めるという仕事の仕方をしていて、余白が全く、そういった発想が生まれる状況でもない、という現実があります。

まゆか:余白って本当に大切。いけばなでも、そこに余白がなければ花はいきない。

淳也:企業でマインドフルネスの研修をしていますが、忙しくてマインドフルネスのセッションに出られない、ということがよく起こります。これは本末転倒なのです。マインドフルネスを通じて、生産性を高めるための創造性開発の学びを得ようとしているのに、目の前の仕事が忙しすぎて、新たな学びを得られずに、これまでと同じやり方を繰り返してしまう。だから生産性も変わらない。

まゆか:新しいものって計画通り出てこない。寝かせているうちに、物事がつながってぽこっとでてきたりするから、待てるか、というのも大切かと思います。

淳也:「それについては少し長めに考えてみて1週間後のミーティングで共有していいですか」と言えたら、その間にいろんなものが発酵して、こんな新しいアイディア、ブレークスルーが生まれた、ということになるかもしれない。でも上司から問われたらすぐに返さないと、自分が無能だと思われるという不安とおそれで、表面的なやりとりで終わらせてしまっている。

全部いけばなにつまっている

まゆか:風通し、余白、不安やおそれを手放して流れに身を任せると自ずと見えてくる、といった、今話しているようなことって、いけばなの中に全部つまっていると思うんです。

淳也:うん、ありますね。全部ここに。

まゆか:ここ、いけばなにある本質的なことをビジネスの世界に伝えたいと思ってIKERUをやっていますが、同時にこうした本質的なことは教わったらぱっとすぐできる、ということではなくて、自分が継続的に実践し向き合い続ける中で少しずつ身についてくる、というものでもあります。こことビジネスをつなげるにはどうしたらいいかしら…

淳也:マインドフルネスの研修で最初に見せているスライドが野中郁次郎先生のSECIモデルです。

暗黙知は身体知、今ここにあるけれど言葉になっていない知、気づき、インサイト(洞察)で、イノベーションの源泉です。その暗黙知はまさに僕がいけばなの間、花との対話の中で感じ取っていたこと。脳科学的にいうと、インスピレーションは言語を伴わず身体感覚として知らせてくると言われています。だから左脳のスイッチをオフにして身体感覚を高めておかないとインスピレーションやインサイトを感じ取れない。本来誰もがこの感覚を持っているのに、多くの日本人が忘れちゃっています。そしてそれがまさにいけばなにつまっている。

SECIモデルに基づくと、この身体知・暗黙知を形式知に転換するから、集合知にできます。マインドフルネスの研修では、メディテーションが終わったら、1-2分何もしないで自分の中の変化を感じてみた上で気づきや感想を書く、そしてグループで共有、ということをやっています。こうした振り返り・ダイアログ、one-on-oneのプロセスをIKERUでもやっていくと、いろんなところでイノベーションが起こりやすくなるんじゃないかな、と思います。

まゆか:一対一の対話、one-on-oneが企業でも普及していますが、あれはまさに言葉の通り、oneとone、人と人が人として向き合う、ということで、私の中ではいけばなで花と向き合っている感覚と同じなんですよね。

淳也:まさに同じですよね。本来、one-on-oneは業務以外のその人の日頃の心配や不安、キャリアについて聞く場。業務がアプリケーションだとしたら、one-on-oneはOSを整える場です。上司側は自分のOSを転換してからその人と向き合わないといけないのに、多くのケースでは通常のOSのまま行くから、業務についてさらに一対一で詰められる時間、みたいになってしまっている。

まゆか:メディテーションやいけばなをやってOSを転換してから、one-on-oneできるといいかも。

淳也:本当にできたらいいですね。

マインドフルネスを伝え続ける源泉は共感

まゆか:淳也さんが、毎日メディテーションしたり100マイルトレランしたり、自分自身がプラクティスするだけでなく、企業に対して働きかけ続ける源泉はどこにありますか?

淳也:源泉は、企業の一員として働いていた昔の自分を救いたい、昔の自分のような人を救いたい、というところですね。タスクでつぶれて半ばバーンアウトしている、という人たちを見ると、自分もそうだったから共感値マックスなわけです。

僕としては「そうだよね、そうなるよね。わかる。でもこっちにきてみなよ、こうやったら半年後、楽しくなっているよ」という道が見えるから、おせっかいしたいんですね。それが源泉です。

自分が同じような経験をしているからこそ、共感やコンパッションがマックスになる。そしてマインドフルネスの中にいろんなブレークスルーの種があるよ、と言っているし、もっと言いたいと思っています。

まゆか:最近「感情知性」を世に広めたダニエル・ゴールマンさんのPodcastを時々聴いているのですが、彼は1995年に本を出して25年以上経った今も、感情知性とは何か、という問いを考え続け、聞かれたら丁寧に説明をし続けていて、いやあ、すごいなあ、と思って。きっと淳也さんもマインドフルネスとは何か、を考え続け、答え続けるのでしょうね。

淳也:そうなるのでしょうね。日本でのビジネス・ビジネスリーダーのためのマインドフルネス、ということを僕は自分のお役目として担当しないといけないんだな、と感じています。

その一つが10/15-16に3回目の開催となる、マインドフルネスの世界会議の日本版、Wisdom2.0Japanですね。ゴールマンさんらと同世代でマインドフルネスを世界に広げた第一人者、ジョアン・ハリファックス博士も登壇してくださいます。

2022 10/15-16開催 Wisdom2.0Japan 

Junya Ogino
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事。合同会社Wisdom2.0Japan代表社員。多摩大学大学院MBA客員教授。慶應義塾大学卒。外資系コンサルティング会社やスタートアップ企業のIPO担当やヨガスタジオ運営企業の取締役を経て、2008年起業。2013年からはマインドフルネスを日本の社会、組織のOSとするべくMiLIを設立し、日本の大手企業やリーダーにマインドフルネスベースのリーダーシップや組織開発のプログラムを提供している。Googleで開発されたSearch Inside Yourselfの認定講師。『がんばりすぎない休み方』(単著、文響社)『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(監訳、英治出版)、など著書・関連書籍多数。


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