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「俺のこと好きになっちゃだめ」って。

わたしは日本の大学を辞めて、カナダの大学に入り直すことを決め、年末年始は1人、大学のある北海道に戻り、借りていたマンションを引き払ったりしていた。

悩んだ末に心を決めたから、一歩を踏み出したのだが、北海道での心細さは想像を絶した。
大学の友人たちに会うと
自分だけ道を外れていく怖さ、孤独感は、ずぶずぶと心に入り込んでくる。
みんな、応援してると言ってはくれるけれど、結局は他人の人生、他人事なわけで。ああ、もうこの人には一生会えないかもなあ、なんて思ったりもすると、無性に寂しくなる。

引っ越しだって、心にズキズキ来る。
自分が心地よく暮らしていた部屋を自分で壊して、
自分がそれまで大切にしていた物たちは一瞬でガラクタになり、
家具は少しずつなくなっていき、がらんとした部屋に一人取り残されていく…。
お正月も、その侘しくなっていく部屋に一人。

1人でごはんを作る気にもならず、適当に鍋に食材を放り込んで、何日かそれを食べ続ける。あまりにおいしくなくて、おかげでちょっと痩せた。

そんなとき、ある男友達に救われた。
ただ一緒にいてくれるだけで落ち着く人だった。
別に特別なことをしなくても、会うとほっとした。

夢、やりたいこと、不安なこと、嫌だったこと、そんなことをわたしが勝手にしゃべって、彼はひたすら聞いてくれた。
温かかった。心地よかった。

引っ越し前で不足していくものを借してもらいに部屋に行っていたけれど、ただ、側にいたかったのだと、後から気づいた。

けっして、恋をするつもりも、恋をしているつもりもなかったけれど、
でも、一緒にいてほしいと思うのは止められなかった。
「1人で進んでくの怖いよ、寂しいよ、不安だよ、そばにいてよ、愛してよ、大丈夫だよと言ってよ…。」

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でも、結局、年末に会ったのが最後になった。
ぎゅってして
頑張って、応援してる って言ってくれた。

でも、そのあとは、もう、どんなに頼んでも会ってくれなかった。
「俺のところにとどまってないで、前に進みなよ。
俺にできることはもうないと思う。
もう会っちゃだめだよ、振り返っちゃだめだよ。
また会ったら、友達のままではいられなくなっちゃうよ。
俺のこと好きになったりしちゃだめだよ。」

優しい人だったから、そんな言い方だったけど、訳すと、
「おまえもう甘えるの辞めろよ。
ちゃんと自分で立てよ。
ここで弱音吐いてたら、カナダ行ってからどうすんだよ。
けじめつけろよ。」
そんな感じ。

ふつうの友達にさよなら言うのも悲しいのに、
その人にそんなこと言われて、めちゃくちゃ寂しかった。

応援してるじゃなくて
「大丈夫だよ、側にいるよ。」そう言ってほしかった。

めっちゃへこんだ。

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でも
しばらくして、なんとか引っ越しも終わり、北海道から実家に帰ってきて
冷静になって、
ああ、ほんとに良い友達だな と思った。

突き放してもらってよかった。

あのとき、本気で恋まで発展していたら、
ふつうに北海道を去ることなんてできなかっただろうし、
カナダに行く不安がふくらむのを止められなくて、その弱気に負けていたかもしれない。
自分が何をやりたかったかなんて分からなくなっていたかもしれない。
ただただ、温かくて居心地がよいところで、甘え続けてしまっていたかもしれない。

今は、
自分で、いろんなことに挑戦するって決めた。
目をちゃんと開いて見ると、わくわくすることで溢れてる。
ときどき、ちょっと寂しくもなるけど。

…いつかまた会えるかな。

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