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シェフはロビー活動をしちゃいけないの?

こんにちは。
またしても「レストランのあり方」について考え続けています。
というのも、いよいよ来週、3月25日に「アジアのベストレストラン50」の授賞式が開催されるからです。

「世界のベストレストラン50」の前哨戦とも言うべき、世界的なレストランコンペティション。その存在は年々話題を呼んでおり、今ではミシュランと双璧をなす存在として知られています。
今回の舞台はなんと日本! 昨年完成した「ザ・カハラ ホテル&リゾート横浜」に、海外勢は無理ながら国内のスターシェフたちが集結します。

日本という国は、レストラン業界に視座を置いて眺めてみれば世界でも非常に特殊な立場にあり、
ミシュランの星を持つ店は、本国フランスはもちろん、世界中でどこよりも多い
のです。びっくりじゃないですか? こんな狭い国なのに、ですよ。

さらに、シェフたちが優秀すぎるのも特筆すべきことだと思います。
フレンチ、イタリアン、中国料理、スペイン、韓国、ベトナム、タイ、など、あらゆる名店がひしめく国、日本。
そのいずれの厨房にも日本人シェフがいて、彼らは世界各国で修業を積み、こんな極東の小さな国で、その腕を武器に店を営んでいるわけです。
中には、ミシュランの星を持つシェフもたくさんいる。
当たり前だと思いますか? いーえ、とんでもないことです。

だって、例えば食の都、パリを見てください。世界の中心地、ニューヨークを考えてみてください。

その地の「日本料理店」で活躍する日本人以外のシェフは果たしてどのくらいいるだろうか?

フランス人のシェフがフレンチを作り、中国人の料理人が中国料理を供するのがまだまだ多数派という現代において、どんだけ貪欲でダイバーシティーなんだ、日本のシェフたちって。

ところがその一方、日本の飲食店というのは、世界的に見ても打たれ強いというか、ドMというか、神なのか、なかなかしんどい立場にあります。

例えば、フランスではシェフ、特に三ツ星シェフなどはもう英雄扱いもいいところで、人間国宝的な眼差しで見られることも少なくありません。
欧米のレストランの多くでは、ユニオン(組合)がしっかりしてるのも珍しくなく、料理従事者にはまぁまぁきちんとした補償がされています。

日本だって、スターシェフはいっぱいいるじゃないか

と、私自身も思っていましたが、いえ、それはメディアが作り上げたきらめき。
国は「日本の宝、和食を世界に」などと謳う一方で、料理界の人間国宝はまだいません(一部の料理界の重鎮たちによって、現在是正の動きが進んでいるそうです)。

どんなに有名店でも、企業に比べると規模は大変に小さく、コロナ禍で経営が厳しい店が大半です。
そりゃそうです、内部留保に余裕を持つ店なんて、あまり聞いたことがありません。その時その時を必死に回して今日を乗り切る、有名店でさえそのような状況の店が少なくないと聞きます。

そんな過酷なレストラン業界で働く料理人たち。
ですが、若い世代を筆頭に、SNSを用いたり、世界中のレストランシェフたちと交流を深めたりして、徐々にシェフのスタイルも変わってきました。
私は、今後の飲食業界の発展のためにも、シェフが発信したり海外の飲食事情を得ようとしたりするのは、素晴らしいことだと思っています。
もう少し言うなら、ミシュランや冒頭に述べた「Best50」などのコンペティションで高い位置を狙うために活動することも、
日本の、ちょっと特殊で過酷すぎる飲食業界のあり方を変えるためには必要なことではないかなぁ
と考えています。

ですが、世間ではこれをロビー活動と呼んだりする

ことが往々にしてあります。

日本の料理人が海外のシェフとコラボレーションしてスペシャルでクローズドな食事会を開催したり、
海外や日本のブランドと組んで、レストランラヴァー以外の広い層に注目されるような活動を展開したり。
海外ではそういうのを、国が率先して国費を投じて推進していたりすることも珍しくありません。
お隣の国、韓国などは、
映画、KPOPだけではなく、ここ数年はすさまじい意欲と勢いをもって、
自国のレストランに他国のメディアを呼ぶ活動を推進してきました。
その結果、シェフたちもそれに呼応してどんどん国際的に活躍するように。

そろそろ、日本のいわゆる「食通」たちや食文化を推進する役職にある人たちは、
営業力や発信力、つまりビジネスセンスに長けたシェフを大切にする姿勢を持たなくてはならないんじゃないでしょうか

ロビー活動、つまり根回し。
私たちはこの言葉を、なかば揶揄する意味合いで使うことが多いのですが、
ビジネスをディレクションし、盛り立てていきたいなら、必要不可欠です。
そして、これらを狭い国の中で行うのではなく、海外も見渡し、俯瞰して行うことこそ、真の根回し。

亡くなったジョエル・ロブションや、旺盛に活躍を続けるアラン・デュカス、4月にはついに銀座の「GUCCI」レストランをプロデュースするマッシモ・ボットゥーラなど、
世界を股にかけるディレクター・シェフがこの国から出現するのはいつになるだろうなと、世界的な食のコンペティションシーズンになるたびに考えてしまうのです。

#料理 #食の仕事 #COMEMO




フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。