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「思いやりメシ」にはかなわない

友人の料理家で、

「異常に成婚率が上がる料理教室」

と異名をとる料理レッスンを主宰する小平泰子さんという方がいます。

妙齢男女がキャッキャ言いながら通う料理教室ではなく、
ご自宅開催のレッスンということもあって、生徒は女性メイン。真面目な教室です。
が、ここに通って料理を習い始めると、
なぜかその後
結婚が決まっちゃったという人が続出しているといいます。
その数、すでに数十組。

友人のよしみで彼女の家で手料理をいただいた際に、
その謎はすぐに解けました。
出てくる料理がほぼすべて、
自分目線というよりは相手寄り。

「日本酒が好きやいうから、
ハンバーグはお酒に合うようにソースやなくて山椒と醤油で味付けといたよ」

「明日も会社でしょ? お腹にごはん入れないと二日酔いになるから、最後にこれ食べとき」
(というセリフと共に、炊きたてごはんに刻み鱧と薬味とホカホカ出汁巻きをのせたのが出てくる)

京都をベースに活動する生粋の京女、小平さんは、
やわらかな京言葉と共にせっせせっせと料理を出してくれます。
超高級食材を使うでもなく、
卓越した熟練技で勝負というわけでもなく(すみません)、
しかし、

いい味醂を使っているんだろうなぁ

この胡麻、どこで売ってるんだろう?

という、ワクワクするような好奇心が後から後からあふれるような食卓。
そして何より、しみじみするような温かい美味しさがあります。

ここに通う生徒さんたちは、
レシピを習いつつ

他人に料理を作る時の極意

を身につけているんでしょうね。
料理の目線をどこに合わせるか、という。
もちろん、今後はこの極意、
主夫や料理男子も習得する人が増えるでしょう。

レストランで出合う料理、あれは、
お客様の健康を考えてとか
昨今のヘルシーブームを受けて

………などのエクスキューズもつきますが、
基本的にはハレの日の一皿です。
その料理でお金を稼ぎ、今後につながる評価を得るために、
料理人たちはしのぎを削って
皿の上に己のすべてを表現します。

しかし、私たちはそんなプロの料理にワクワクしつつ、
自宅でもそれを求めているわけではない。
ホッとしたいし体調を整えたいし、喜びたい。
そんな普段着の食卓には、それはそれで必須条件があって、
それが小平さんが作るような「思いやりメシ」なんだなぁと思うのです。

お母さんが口でふーふー冷ましながら子供に食べさせる離乳食とか、
二日酔いでヨタヨタのパートナーを叱り飛ばしながら作ってあげる梅干しと卵の雑炊とか、
こういのも「思いやりメシ」の延長ではないでしょうかね。
かなうわけがない。

やっぱり、ベーシックな部分で料理の腕を上げたいなぁと心から思います。

#料理 #フード #令和時代にやりたいこと

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。