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映画のはなし:ウィーンで『ビフォア・サンライズ』聖地巡礼したい願望

せっかくハコを作ったので、映画の話。

音楽の都・ウィーンは絶対に行きたい場所のひとつなのですが(ザッハトルテも食べなきゃいけないし!)、実はこの街に行くことがあれば、もうひとつやりたいことがあるのです。

それは、『ビフォア・サンライズ』の聖地巡礼。

「『ビフォア・サンライズ』ごっこ」ができたら言うことないけど、こんなのとてつもなくハードルが高いと自分でもちゃんと分かっているので、聖地巡礼でがまんします。

映画や海外ドラマは好きでちょこちょこ観ているのですが(でも最近は全然観れてないな……)、あんまり率先して観ないジャンルがラブストーリー。だいたいの作品にロマンス要素もある場合が多いので、それで満足しちゃってる部分もあるかも。
でも私の少ないラブストーリーレパートリーのなかでも好きな作品が、『ビフォア・サンライズ』。
いまの正式名称は『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』。
でも私は『ビフォア・サンライズ』のみのタイトルが好きなので、死ぬまでこれで貫き通す所存です。
シンプルでとっても素敵なタイトルだと思うんだけどな。

ブダペスト発パリ行きの列車で偶然知り合った、パリに帰る大学生のセリーヌと、欧州旅を終えウィーンからアメリカに帰るフライトに搭乗予定のジェシー。
ふたりは車内のドイツ人夫婦の喧嘩をきっかけに意気投合し、ジェシーが「一緒にウィーンで降りて明日の朝まで街中を散歩しないか?」とセリーヌを誘う。そして一晩中ウィーンの街を歩きながら会話を重ねることで互いを知り、魅かれあっていく。
翌朝、発車直前のパリ行き列車の前で半年後の同じ日に会う約束をし、連絡先も交換しないままそれぞれ自分が戻るべき場所に向かってふたたび歩きだすーーという、夕方から夜明けまでのラブストーリー。

久しぶりに観て、いまでは考えられない別れ方だなぁ、でも、こういう別れ方って素敵だなと思いました。いまなら「LINE交換しよ」ってすぐ言っちゃいそう。便利になった半面、情緒がなくなっちゃった。

映画の大半を占めるのは、イーサン・ホークとジュリー・デルピーの会話。過剰な演出もドラマティックな展開もないけど(列車で知り合って途中下車して一晩中街を歩く、というのが劇的にドラマティックですケド!)、リアルとファンタジーの絶妙な境目にいる映画。

セリーヌは学生特有(と思う)の自分の死について常に考えていたり、そしてジェシーは人生に対してちょっと斜に構えた態度だったり。
なので、「実際こういう会話ばっかりするカップルいやだよ。もっと気の抜けた会話したいよ」と思うような会話が続くんだけど、でも随所に秀逸なセリフが散りばめられている。

なかでも私が強烈に好きなのが、

「もしこの世に神がいるのであれば、人の心の中じゃない。人と人との間のわずかな空間にいる」
「この世に魔法があるなら、それは人が理解しあおうとする力のこと。たとえ理解できなくてもかまわないの。相手を思う心が大切」

という、セリーヌのセリフ。
人を愛せる自信はあるけど、その反面、自分は死ぬまでに何かを成し遂げたいしそのほうが大切な気もする、と言うジェシーに対しての言葉。
できた大学生だな、とセリーヌよりだいぶ年上になったいまでも思うのですが、若いからこそ言える言葉でもあるのかもしれない。
それでもやっぱり、このセリーヌの言葉のようにいろんな人との関係性を築きあげたいな、と改めて感じたり。

薄紙を剝がすようにシームレスにお互いのことを知っていくふたりだけど、このシーンからジェシーの心が一気に柔らかくなって、さらにお互いの距離が近づく感じがして、大好きなシーンのひとつ。

とにかく、夕暮れの観覧車からウィーンの街並みを見下ろしたり(こんなシチュエーションならキスしちゃうよね!)、早朝にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」が聞こえる窓の前でダンスしたり(明け方にチェンバロ弾くお父さんも不眠症だったのかな。てゆーか、家にチェンバロって!)、もうなんか、全部が完璧にリアルなファンタジー。
もちろんイーサン・ホークとジュリー・デルピーも、すべてに負けないほど美しい。

そして何より、監督のリチャード・リンクレイター&脚本のキム・クリザリンも同じような経験をしている、というエピソードもすごい。
リンクレイター監督はフィラデルフィアで出会った女性と、脚本のクリザリンもパリに向かう電車で出会った男性と一晩中街を散歩した思い出があるそう。

なにそれ!
なにその嘘みたいな実話!!!
そんなこと本当にあるの!!?

でもリンクレイター監督は、一緒にフィラデルフィアを歩き回った女性と連絡が取れなくなってしまったのち、交通事故で彼女が亡くなっていたことを本作の公開前に知ったそうです。なんて悲しい……。
全く関係ない私ですら、ぜひ彼女にもこの映画を観てほしいと思うのに。
本当に悲しかっただろうなぁ。

『ビフォア・サンライズ』以外に、『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』と、「ビフォア三部作」になっているけど、やっぱり群を抜いて最初の『ビフォア・サンライズ』が好き。

初めて観終わったとき、「このふたり半年後に会うのかな?でも会わないほうが素敵な思い出のままでいられるのかな?でもすっぽかすこと出来ないよね!えー!どうしたらいいんだろーーー!」と、クッションを抱きしめてゴロゴロ悶えたくなっちゃったくらい、素敵な終わり方。

ふたりだけの世界に飛び込むのではなくて、お互いにしっかり自分の道を歩きながらも寄り添える関係を選択する、というのがこの映画の美しいところだと思う。
もちろん、周りが見えなくなるくらい夢中になれる人に巡り会えるなら、それはとても素敵なことだと思うけど(そんな経験したことないなー)。

とりあえずこの作品、イーサン・ホーク登場の瞬間に「わかっっ!かっこよ!」って驚くところから始まるから。

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