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町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」/救いはどこかに必ずある。

2021年本屋大賞受賞作。
実の母と義理の父から壮絶な虐待を受けていた主人公が、同じように虐待を受けている男の子と出会う。

52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラ。何も届かない、届けられない、この世で一番孤独だと言われている。
自分の人生を家族に搾取されてきた女性 貴湖(きこ)と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる。

解説より

子供への虐待、それは
閉ざされた空間で、まだ1人で生きる力のない子供に対して行われる、この世で最も残酷で卑劣な犯罪ではないかと思います。

主人公は、親からの虐待という壮絶な経験を経たのち、全てのしがらみを断ち祖母が残した大分の古い家に1人移り住みます。
そこで出会った、声を失った少年を救い出す事に奔走する中で
自分の生きる道標を見つけていく。そんなお話でした。

主人公の、生きる力の強さが凄い。
時折過去の記憶に苦しみながらも、
少年を救うため力を尽くす。その事が、逆に彼女を救ってくれたのかもしれません。

しかし、もしこの少年と出会っていなかったとしても、この主人公は、自らの力で乗り越えて行く力を持っていたのではないかと想像しています。

少年の祖母夫婦を探し出す事に力を尽くした貴湖。
結局は、この祖母夫婦の温かい愛情に、2人は救われます。
貴湖自身も少年も、そうやって、人の力も借りながら、人生の光を見つけて行った。

決して諦めない事。
いっとき逃げてもいいけど
全てを悲観しない事。
明るい未来はある。ないかもしれないけどあるかもしれない。
最もしてはいけない事は、無理だと決めつける事。それを私も再確認しました。

親からの虐待経験が元で声を失った少年は、52ヘルツの声で歌を歌う孤独なクジラのように、声にならない声を抱えて未来に絶望していた。
しかし彼をこのままにしてはおけないと立ち上がった主人公によって救われた。
なんとなく感じる彼女の強さはどこから来るのだろう?

手前味噌ですが、
私自身も何処か強さを持っていると自負しています。
それは例えば、事故か何かで指を失って楽器が弾けなくなったり、目が見えなくなったり、いろんな試練が待ち構えているかもしれないけれど、そうなったら別の、出来る事を探して生きていくだろうと、漠然とですがいつも心の奥底の方で考えているからかもしれません。
そういうポジティブさが自分にあるのは、もしかしたらどん底を味わったからかもしれないとも思います。(短大時代が私の人生のどん底で、我が家が最大の困窮に見舞われた2年間でした。家にある食料は米のみで、友人が大量の野菜や卵を買って届けてくれた事もありました。)
元々は悲観論者だったのに今はこんなに逞しい老女^^;に成長?するなんて。自分でもとても不思議です。

さてこの物語は、辛い場面が多く、
誰にでもお勧めできる本ではありません。
ただ、どこかに助けてくれる人は必ずいる。その微かな光を見つけだす力が、人には必ずあるという事を思いました。
現実があまりに辛く、いっときの気の迷いで人生を捨ててしまう選択をしてしまう若者に、伝えたいお話でした。


最後までお読み頂き
ありがとうございました❤︎

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