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去りゆく選手へ3

間もなく新体制発表会見です。発表になった西部選手と伊藤選手について少しだけ綴らせてください。私は選手とは個で仲良くせず、ライターと選手というある程度の緊張感を保って取材するスタンスですので、今だから話せる個人的エピなどはありません。オフィシャルライターとして、公平にそして与えられた中で見てきたこと、聞いたことは定点観測に近いものがあります。同じカレンダーで過ごしてきた1人の思いを残すというイメージで読んでいただけましたら幸いです。おそらくサポーターの皆様の方が強い想いをたくさん持っていらっしゃると思います。それぞれのお気持ちを大切にされてください。


自分の感情よりも先に、落ち込む人の顔が何人も浮かびました。この決断をするまで、本当に苦しかったと思うし、悔しかったと思うし、本当にいろいろ考えた末の決断なのだろうなとコメントからも伝わってきました。戻って来たときに、エスパルスで引退するつもりであることは明かしていましたから。在籍した12年間の中でも本当にいろいろありました。最初にエスパルスから去る時も、戻ってきた後も。それでもいつでも変わらない。川崎から戻ってきた時に、いかにビルドアップを求められていたかわかるほど足元がとてつもなくアップデートされていて驚いたのも正直な話です。

私は彼以上に凄いプロ入りプロセスの人にお会いしたことがありません。彼は中学の時「このままだと担任の先生から行く高校ないぞ」と言われ、キーパーなどやったことがないのに、言われるままにキーパーグローブを持って、帝京三高のキーパーテストを受けて合格し、無我夢中でサッカーに没頭した結果、実質3年間でプロサッカー選手になってしまった人。何人かの選手が言っていました「西部さんの経験弾は子供たちに話しちゃいけない」って(笑)大多数の選手がかけもちであっても小さい頃からサッカーはやっているんです。努力して勝ち抜いて、プロへの扉を開けた人ばかりなんです。他の選手から見ると、西部選手はありえないことを並外れた運動神経と集中力と努力で成し遂げてしまった人ということになるのだと思います。

とても多趣味で、様々なことにも興味を持っているので、富山と聞いて氷見ぶりとホタルイカか…とイメージしてしまったことは素直に認めます。試合に出ていないときでも、彼はできることをエスパルスのためにしてくれていました。ある日「アンチがいるからさ」と笑っていましたが、そう笑える強さもまた西部選手の魅力ではないかなと思います。

ピッチにいたいと思うのであれば、そのチャンスがあるのであればいた方がいいと、いろいろなOB選手に話を聞いて思っています。富山のみなさんに愛されて、ゴールマウスに立つ西部選手を楽しみにしています。


平墳迅選手と滝裕太選手と共にユースから昇格した伊藤選手。忘れもしないのは、トップ昇格直後のルヴァンカップダービーマッチに出場し、輝かしいデビューを飾った直後に負傷離脱したことでした。「おぉ~~~い!」と突っ込みたくなりました。苦笑。ここからと思ったその年の秋には数か月離脱するような大けがをしてしまい散々なルーキーイヤーだったのがとても切なくて記憶に残っています。ある程度自分の中で気持ちの持っていきようを考えなければいけなかったと思うし、一度失ったチャンスを奪いに行くことがどれほどエネルギーがいることなのかもよくよくわかっています。でも、与えられるのを待つのではなく、奪いに行かなければ得られないのがプロの世界。だから今シーズン末の契約終了のお知らせは受け止めるしかありませんでした。彼はグランパスの育成からエスパルスユースへ加入してきてくれた人。しかも貴重な左サイドバックです。もっとピッチで活躍してくれる姿を見たかった。沖縄ではレギュラーをとって試合に出続けてくれるのを楽しみにしています。


プロサッカー選手になる選手の多くが、最初に見た夢を叶えた人ではないかなと思います。その秘訣を知りたくて、ずっと選手に問いかけてきました。変わりゆく時代の中で、人々の考え方も、生き方も、きっと新しいものが取り入れられていきます。その中で今まだ夢の途中にいる人たちは戸惑いの中にいるはずです。2020年、選手たちは戸惑いながらも、ピッチでサッカーができるということに喜びを感じ、プロとして何ができるのか?考えながら戦っていました。再開後は過密日程過ぎてやりたいことより、体調管理と試合への準備で精一杯でしたがそれでも前を向いて戦おうとする集中力はさすがプロだなと思いました。先のことはわからないのがプロの世界。明日怪我をするかもしれません。その中で日々出し切ろうと頑張る選手のたゆまぬ努力には頭が下がります。しかし、最大の努力だけではプロサッカー選手として成功することができません。「運」や「縁」もとても重要であることはまた否定しようのない事実かなと思います。

エスパルスに縁あってきてくれた選手がそれぞれの道で幸せでありますように。

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