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丹波哲郎、最後の芝居(2)

丹波哲郎演じる源頼政と大杉蓮の源行家は、皇族の命令たる【以仁王の令旨】を出させ、弱いながらもオフィシャルなカタチで反平家連合を作り上げ、実際に全国的なムーブメントを起こした存在としてもっとクローズアップされるべきだと思います。
結局、義経の「なんか世の中に痕跡を残したい」という若き欲望も、頼朝の「このまま終わるわけにはいかない」という父に誓った執念も、さらに言えば東国武士団の世の中に対する不満も、すべて頼政と行家2人の死を賭して提示したプランに情熱のはけ口を求めていくわけですから。
現代の感覚でいうと、こういうプロデューサー的な動きというのは結構評価される部類に入るんですが、日本史ではそういう目立った存在ってあんまりいないんですよね。

坂本龍馬はそうですかね。愉快なキャラクター、得意のビッグマウス、そしてグラバーのバックアップで幕末に長州と薩摩の反幕同盟を作り上げた。
石田三成はもっとすごい。戦国時代末期、家柄も何も持たない官吏の境遇から諸大名に提案し、調整し、金の工面をつけ、255万石を有する徳川家康に拮抗する10万人以上の軍隊を作り上げ、関ケ原で戦いを挑んだ。凄いですよね、プロデューサー冥利に尽きるのではないでしょうか?

丹波哲郎はそのダイナミックでバタくさい前半生に対して、後半生は『大霊界』プロデューサーとなって、死後の世界と現実世界を結ぶアンバサダー的な仕事をし、霊界の素晴らしさを世に広めました。大口もたたいた。
「あの世が本当の世で、この世は仮の世に過ぎない。だから死んだら『誕生日おめでとう』みたいにケーキにろうそくを立てて拍手してやらなければいけない」
と言っていたほどでです。
しかし息子の丹波義隆は父について、本当は誰よりも臆病で、死を怖がっていたんじゃないかと思うと話しています。丹波の母親が亡くなった時には母の遺体にすがり付いて嗚咽しており、「おめでとう」と言う余裕は無かったし、97年に自分の妻が亡くなった時には母親が亡くなった時以上に号泣し、更にこの時を境に霊界への言及も止まってしまったのです。

そのようにいろいろあって、一役者に戻った丹波哲郎。
あの、清々しさ

「人の最期を演じる」ということについて、我々の及びもつかない境地から考えていたのかもしれません。
いや、ホントそんな感じでした。必見でございます。

『007は二度死ぬ』ショーン・コネリーと並んでも全然プレゼンスで負けてないよね。


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