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無意識を意識する。【取替用レバー錠】開発のお話

介護保険で住宅改修費が支給される工事の種目は、以下の通りに定められています。

  1. 手すりの取付け

  2. 段差の解消

  3. 床材の変更

  4. 引き戸等への扉の取替え

  5. 洋式便器等への便器の取替え

  6. その他、上記に付帯する工事

そして、それぞれに「…とか言いながらコレも含む」的な注釈がついています。
例えば「4.引き戸等への扉の取替え」には
「…扉全体の取替えのほか、扉の撤去、ドアノブの変更、戸車の設置、引戸を新たに設置する工事。」も含む、と。

建具をまるっと取替えなくても、開け閉めが楽になるんだったら他の方法でもいいよ、ということで
ドアノブ(握玉)をレバー錠に交換する工事も対象になるわけです。

これだけでも開閉のしやすさ爆上がり。

当社のオリジナル商品は今や手すりが過半数ですが、もともと建築金物卸売業を営んでおりますので、建具金物は射程範囲。
バリアフリーリフォームにぴったりな室内ドアの取替用レバー錠も企画・開発しています。

今回は、その代表的商品を開発した際のお話を。


無意識の「使いにくさ」を見つけろ。

まずは、人がドアを開閉する動きをひたすら観察。観察。観察。

ドアの開け閉めをひたすらガン見する開発担当者(イメージです)。

当初、握って回すことが前提のドアノブは当然として、
ドアレバーでもハンドルを指で「握って」回していると予想していました。
ところが観察を続けてみると、レバーを「手の平で押して」操作する人が多いという結果に。

確かに握らなくても押せばレバーは動くので、ドアの開閉に影響はありません。楽な動作を選ぶのも納得です。

一方、トイレ錠など室内側から施錠・解錠できるタイプでは、ツマミ(サムターン)の操作に指先の力が必要で、高齢者の方は操作しづらそうなことも分かりました。

ツマミがツマミにくいって、どうなのよ。

毎日使っているものだからこそ、不便を不便と気づけないものです。
当然のように「握る」「つまむ」をベースに設計されてきた、これまでのドアノブ・ドアレバーの概念を見直そう!

さぁ、お役に立てる商品を開発するチャンスがやってきました。

使いやすさと安心感、デザインの着地点。

観察しまくった結果をもって、高齢者の方や手指の動作に障害を持つ方にも使いやすい、新しいレバーハンドルの開発を目指しました。

手の平を置きやすいよう、レバー形状は扇形に。

手の平で「押せる」扇のようなレバー形状。

そして実は、レバーの「厚み」もこだわりポイントでした。

厚み違いの試作を並べる開発担当者(これは本物です)。

薄くするとスタイリッシュになる一方で、弱々しいイメージにもなる。
強度は足りていましたが、使ってみると不安に感じられるようです。

安心感とデザインの着地点を見つけるべく、検証を何度も繰り返しました。

また、ドアレバーの端に衣類の袖や紐をひっかけて「おっとっと」となったことがありませんか?
高齢者の方はそれが原因で転倒し、大けがにつながることもあります。

事故を防ぐため、レバーの先端を扉側に曲げて納めるバリアフリーなデザインにしました。この考え方は手すりも同じ!

先端を曲げて引っかかりにくく。パジャマなどはとくに、袖口が広いですしね。

さらに施錠・解錠を行うサムターンのツマミ形状デザインは操作しやすい「長さ」にこだわりを。
指先は神経が集まっていて敏感な部分ですのでミリ単位で試作を作成し、しっくり操作できる長さを追求しました。

ツマミをつままなくていい。お酒の話じゃなくて。

車なら選ぶのも自分、買うのも自分、乗るのも自分なのですが…
バリアフリーリフォームの場合、息子さんが商品を選び、施工業者さんが部材を調達し、実際に使うのはおじいちゃん、おばあちゃんといった例もあります。

デザインだけでなく使いやすさ、既存のドアノブから取替えができるかどうかなど、商品を選ぶ基準が三者三様でそれぞれ異なるでしょう。

どの視点からでもこの商品を選んでいただけるようデザインには力をいれました(担当者が)。
リフォームで我が家がグレードアップした!と感じてもらいたいですから。

そして、気ままな既存品の寸法に翻弄される。

レバー部分とは別に、ドアの中に埋め込まれている「ラッチ」という部品があります。

ラッチの一例。もっとドでかい子もいます。

メーカーや商品、製造された年代などにより規格が様々で、同じような見た目のドアノブなのにバックセットのサイズが違う、対応できる扉厚が違う…というのが普通です。
なんでやねん!と思いますよね。私も思います。

でも先人たちが作って納めてしまわれたので、もう過去を取り戻すことはできません。

錠前各部の名称。ラッチはドアの内部に隠れているので普段は見えません。

もっと言えば、同じような室内用のドアノブに見えても「円筒錠」「チューブラ錠」では扉内部の構造、扉にあけてある貫通穴の大きさなども、全く違います。

チューブラ錠と円筒錠の見分け方。例外もあります。

さすがに全て取替対応OK!なんて網羅をすることはできませんが、今回は最大派閥を狙って
「円筒錠からでも、チューブラ錠からでも取替できて」
「バックセットが50mmでも60mmでも対応できる」

室内用レバー錠を目指しました。

現場でカチャカチャっとバックセットが変身するラッチを新開発!
いち、にの、さん!でびよーんと伸びます。

どっちでも対応できます。

できあがったものが、こちらになります。

実際は料理番組みたいに簡単にできたわけではありません。

まだまだ書ききれないような試行錯誤と諸々の苦労を経て、高齢者の方にもご家族の方にも使いやすい取替用レバー錠が完成しました。

押せる!推せる!レバーハンドルです。

▽兼用取替バリアフリーレバー錠(金物・建材店様ルート)

▽リフォーム用レバーハンドル錠 (ホームセンター様など小売店様向け)

発売からもう何年もたちましたが、おかげ様で多くのお客様に愛される商品になってくれました。

ドアを開け閉めする。
1日の中で何度も行う動作にストレスを感じていた方が、少しでも日常の生活が楽になったと感じてもらえれば、これ以上嬉しいことはありません。

これからも当社は、実際に使う人の動作を観察し続け、新しい商品を創っていきたいと考えています。

どんな商品も、使うのは「人」ですから。


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