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ハイパーストラクチャーとは?を分かりやすく解説

割引あり

少し古いネタになりますが web3 業界で Zora というプロジェクトのファウンダー Jacob 氏により発表された Hyper Structure という概念。当時話題になり日本語訳もFracton Venturesさんなどが書いてくれていますが、私は当時これらを読んでも「わかるようでわからない」という感じでした。

Fat Protocol 理論 やブロックチェーンの仕組みなどを知らない人にとってはさらに「??」だと思います。「ハイパーストラクチャーとは」とGoogleで検索してもそれをわかりやすく解説している記事が意外となかったので、これまでの自分の知識と経験を踏まえてなるべく分かりやすい形で解説してみたいと思います。

なお Hyper Structure 自体の内容は原文や Fracton さんの記事を見てもらうとして、ここでは各章ごとに「それってどういうこと?何が凄いの?」という視点で深掘っています。


前提知識

プロトコルとは

結論から言うとプロトコル≒スマートコントラクト群です。

よく「プロトコル=規約であり、WebでいうとHTTPやTCPなどだよ」という説明がされますが、私はこの説明はさらにプロトコルの理解をややこしくしていると思います。

日本人には馴染みがないですが、protocol という言葉はアメリカでは例えば「What is the protocol for resignation?(辞任の手続きはどうなってるの?)」 のように手順や手続き、ルールのようなニュアンスで使われるらしいです。なのでITやWebにおける規約や規格というより、もっと一般的な広い概念として捉えた方がわかりやすいと思います。

つまり「プロトコルを作っています」というのは実態はスマートコントラクト群を含むDAppを作っているわけで、意味合い的には「そのスマートコントラクトで記述したルールや手続きが世界標準規格となるような取り組みをしています。それを体現したプロダクトを作っています。」という理解をしたほうがしっくりくると思います。これが現時点での私の理解です。

EVMとスマートコントラクト

後述のUnstoppable の内容と被りますが、ブロックチェーンが新しいインフラと言われる理由を一応触れておきます。だいたい知ってる方は読み飛ばしてもらって構いません。

EVM (Ethererum Virtual Machine) というのは、Ethereumブロックチェーンを世界全体で1つの仮想マシンとして考えるという概念です。

普通何かのシステムを動かすとき、自前でサーバーを用意するかAWSなどのクラウドサービスからサーバーを借りて、そこで書いたコードをホスティングして動かさねばなりません。

一方でブロックチェーンというのは世界中でやりたい人が勝手にノードと呼ばれるマシン(≒サーバーとはニュアンスが違うらしい)を立てて、そこにブロックチェーン上の全取引を記録・保存しつつ、Etherumの場合はデプロイ(展開)されたスマートコントラクトの処理を実行しています(若干自信ないです。記録とスマコン実行は別のマシンで行われてるかもしれません)。

なのであたかも世界全体で1つの仮想マシンによりユーザーからリクエストされるスマートコントラクトの処理を実行しているという見方ができ、これを Ethereum Virtual Machine と呼んでいます。

これの何が凄いかというと、1つのノードが死んでも問題なく動き続けることです。もし誰か1人の人や企業がホスティングしてたら停止時にスマートコントラクトは利用できなくなりますが、Etherum に限っては(ブロックチェーンの運営が自律分散的に続く限り)利用し続けられます=Unstoppable。

本題

ではここからはハイパーストラクチャーの7つの特徴について、原文を引用しつつどういうことかを説明していきたいと思います。

  1. 止められない(Unstoppable)

  2. 無料(Free)

  3. 価値がある(Valuable)

  4. 拡大性(Expansive)

  5. パーミッションレス(Permissionless)

  6. 信頼できる中立性(Credibly neutral)

  7. ポジティブサム(Positive sum)

止められない(Unstoppable)

the protocol cannot be stopped by anyone. It runs for as long as the underlying blockchain exists.

Ripple, from Mashin Hero Wataru.

単語のニュアンス的に、当初私は「誰にも止められない🦐」という反権力的なイメージを持ちましたが、全体を通してJacobは「管理者や維持コストなしに動き続ける」ということに重点を置いているようです。これはハイパーストラクチャーだからというより、ブロックチェーンやスマートコントラクトそのものの特性です。

There is no further labor or capital required to sustain the Hyperstructure.
ハイパーストラクチャーを維持するために、それ以上の労働や資本を必要としません。

これはエンジニアがシステムを保守したり、今までのようにJavaやNode.jsのバージョンアップに対応したり、またそのために経営者や投資家が追加資金を投入する必要がない(はず)という意味です。ただブロックチェーンやスマートコントラクト自体を維持するためには世界中に自律的に立てられたノードを動かす電気代や、そのマシンを維持メンテする人が必要です。

If the core team or platform built on top of the hyperstructure were to disappear, it would still run exactly as designed and be fully operational for decades.
コアチームやハイパーストラクチャーの上に構築されたプラットフォームが消滅したとしても、設計通りに何十年も完全に稼働し続けるでしょう。

「ハイパーストラクチャーの上に構築されたプラットフォーム」というのがピンとこないと思いますが、ハイパーストラクチャー=特定の条件を満たしたプロトコル≒スマートコントラクト群なので、例えばハイパーストラクチャーの機能と自分たちが独自開発したスマートコントラクトを組み合わせて動作する新たなシステムを構築するかもしれません。それが消えてもハイパーストラクチャー自体は止まらない、ということですね。

※ただ現実問題、Etherum自体の規格が変わったり、ガス代の高さゆえに今Etherum自体にzkpによるLayer2が組み込まれたりなどが起こっていくと、一度完全なスマートコントラクト群をデプロイしていても本当に10年後も正しく動くのか、またガス代などのコスパも含めて使われるのかは疑問です。

無料(Free)

there is a 0% protocol wide fee and runs exactly at gas cost.

https://jacob.energy/hyperstructures.html

There is no cost to maintain and keep the protocol operational forever.
プロトコルを維持し、永久に動作させ続けるためのコストはかかりません。

0% protocol fee とは、例えばOpenSeaのようにNFTの取引に手数料を取らないということです(UniswapはV3になってからこれを徴収するようにしたそうですが)。

It is worth stating while the Hyperstructure runs exactly at cost, someone still has to pay the gas cost to operate it at that point in time.
ハイパーストラクチャーがコストどおりに(?)稼働している間は、誰かがその時点の稼働に必要なガス代を支払わなければならないことは、言及しておかねばなりません。

スマートコントラクトの関数を実行する以上、Jacobも述べているようにガス代は必要です(運営がガス代を負担するメタトランザクションという仕組みもありますが)。

またプロトコルの手数料を0にしてしまうと「誰が好き好んで儲からないシステムを善意だけで作りたいと思うんだ」と思うでしょう。これは次のValuableに出てきますが、それを構築する人たちはプロトコルのガバナンストークンを保有し、将来的にはそれを売却することで利益を得られる形を目指すようです。

※個人的には、ハイパーストラクチャーを利用したい見込みユーザたちからクラウドファンディングとして出資を募り、ガバナンストークンは発行しない方向なのかと思っていましたが Jacob はそうは考えていないようです。

価値がある(Valuable)

accrues value which is accessible and exitable by the owners.

https://jacob.energy/hyperstructures.html

ここは原文や和訳を読んでも最も意味がわからない章だと思います。私も完全に理解できていませんが、そのまま説明しても意味不明だと思うので意訳や勘違いの危険を孕みますが、私なりに代弁してみたいと思います。

筆者なりの解釈

まず「無料で使える=儲からない=ビジネス的には価値がない」という1つのロジックが成り立ちそうですが、トークンによる所有権という仕組みによりそれはビジネス的に価値があるものだ、と言いたいようです。

その価値とは「プロトコルの料金スイッチをONにして、いつでも利益を抽出できる」という権利に基づいており、それを譲渡や売買できるゆえに市場で価格がつき=価値があると定義することができる、という考えのようです。この権利というのは具体的にはプロトコルのガバナンストークンに付与されます。

ただこの章の後半でJacobは、そもそも価値を創造するために短期的な利益を抽出するのではなく、価値があるトークンを保有しているのだから、社会全体にとって真に価値あるものを作れる新しい価値体系が生まれるんじゃない?というようなことを言っています。

Valuable — 所有権という価値

A hyperstructure can simultaneously be free to use and also extremely valuable to own and govern. This is a familiar value model that we observe for NFTs: the media can be universally free to consume, yet valuable to own and control as an individual or group.
ハイパーストラクチャーは無料で使えると同時に、所有・統治するのに非常に価値のあるものになります。これはNFTに見られるおなじみの価値モデルです。メディアは通常、無料で消費することができ、かつ個人またはグループとして所有・管理することに価値を見い出すことができます。

NFTに見られるおなじみの価値というのは、つまり「メディア(NFTで言えば主に画像)は無料で誰でも見れるけど、人々はそれをトークン化したNFTを買って所有したがるでしょう?それは価値があるということであり、ハイパーストラクチャーも同様の価値を見出すことができるよ。」ということです。

※補足として、「NFT=デジタルアート」という理解をしているとこの意味がピンとこないと思いますが、NFTの画像はあくまでそのトークン=権利を象徴する1つの属性に過ぎず、本質はアート自体ではなくそのアートに基づく様々な“権利”を所有できることだと思っています。XのPFPに設定できるとか、コミュニティに所属できるとか、メタバースで利用や展示ができるとか。無論、現状ではそれらの権利は暗黙的だったり人々の良心によって守られていたりするのですが。

Valuable — 料金スイッチをONにできる権利

But what does ownership mean in this context? The presence (and control) of a fee switch that can be turned on across the protocol.
しかし、この文脈での所有権とは何を意味するのだろうか?プロトコルを超えてオンにできる料金スイッチの存在(とコントロール)である。

This means that owners of the Hyperstructure have the right to turn that fee on across the protocol at the base level at any time via a vote.
つまり、ハイパーストラクチャーの所有者は、投票によっていつでもベースレベルのプロトコルでその料金をオンにする権利を持つということだ。

ハイパーストラクチャーは無料ではあるものの、プロトコルの料金スイッチをオンにすることでいつでも利益を抽出することができるため、その権利を欲しがる人にとって価値がある、ということですね。しかし価値があるけどそれはハイパーストラクチャーや社会にとっての長期的な価値を破壊すると言います。

Valuable — 破壊できる権利

It’s the threat of the fee, because it’s long term value-destructive to ever turn it on.
それをオンにすることは長期的な価値の破壊であるため、それは手数料の脅威なのだ。

In my opinion this right to destroy creates a natural market force to ascribe true value, since people will want to protect that value and utility being offered at large.
私の考えでは、この破壊する権利は、真の価値を見出すための自然な市場原理を生み出す。なぜなら人々は、広く提供されている価値とユーティリティを守りたいと思うからだ。

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