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「アガルタ日本神話編後期のあらまし」について

どうも、パゴパゴです。カニ人ワールド・アガルタ日本神話編の考察、今回は後期を取り上げます。中期に起きた主な出来事としては、テナズチ夫妻の地上での陰謀失敗、スサノオとクシナダの出会い、月読とテナズチ夫妻が共謀して黒蟒を封印……といったところでした。今回はヒルメが邪馬台国を治めている所から話が始まります。

疲弊するヒルメ

・女王卑弥呼として邪馬台国を統治するヒルメだが、ニンゲンたちの底なしの欲望や闘争心を目の当たりにし、次第に精神が不安定になっていく。

・幾度となくニンゲン同士の争いが起き、その度にヒルメは調停に奔走する。

・努力もむなしく、ついに邪馬台国は隣国の狗奴国との大規模な戦争に突入してしまう。

・どう足掻いてもニンゲンの闘争心を抑制する事は不可能と悟り、絶望し自暴自棄になるヒルメ。

・術で自身の死を偽装し、弟スサノオとその妻クシナダを連れてアガルタに帰還する。

まずはヒルメが邪馬台国を捨てアガルタへの帰還を決心する所から。父親から逃れるために地上へやって来たヒルメが、なぜまたアガルタに戻る事になったのかという理由が謎でした。

・地上に居られない理由ができた。
・父に復讐するため。


以前の記事で上記のどちらかではと予想していましたが、実際の理由は「ニンゲンの底無しの欲望や闘争心に触れすぎて精神的に疲弊した」からでした。心が折れてしまう気持ちはわかります。嫌ですよね、ニンゲン社会。理念や理屈は蔑ろにされ、欲と感情で動く生物の群れ。中には良い人もいるなんて当たり前の事を言うつもりはありませんが、大抵は自分が気持ちよく生きるためなら他人を踏みつけても何とも思わない精神性の持ち主です。あるいは自分よりも大きなものに寄りかかる事で、あたかも自分が大きくなったり偉くなったりしていると錯覚している滑稽な集団。それでも社会という存在がなければ生きていけない。私も例外ではありませんので全く他人の事は言えませんが。

この時点でヒルメはニンゲンという種族に愛想を尽かしてしまったのでしょうか。しかし例え心底から絶望したとしても、ニンゲンを滅ぼそうとはしていない。やろうと思えば出来たんじゃないかと思います。当時はまだそこまで人口は多くないはずですし。「こんな醜い生き物は滅ぼしてしまえ」という考えに至ってもおかしくはないのですが。あるいは、誰かを攻撃するたびに父親の顔がちらつくのか。

「自分も同じ事をしている」
「嫌だ」
「あいつみたいだ」
「私に力がないからダメなんだ」
「絶対的な力がないから」
「畏れ、敬い、祈るほどの」
「そうすれば誰も私たちを傷つけない」
「そうすればもうあの子は戦わなくて済む」

ヒルメは自らなったのではなく、ニンゲンたちに祭り上げられて為政者になった。責任感の強い子だったのでしょうか。統治者に選ばれたからにはその務めを果たさなければならないと。被虐待の経験から、地上に出て来た当初は誰かが誰かに暴力を振るう事を毛嫌いしていたのかも知れない。争いのない平和な世界を目指していたんでしょうか。しかしニンゲンは彼女の思惑とは無関係に勝手に争い始める。狗奴国との戦争勃発に際してついに心が折れ、その頃には性格はすっかりやさぐれており、しかも術の開発で身体はボロボロに。

・中生代ワールドには父親がいるので帰れない。古生代ワールドに身を置くことに。時期的にはアガマ王朝が廃され爬の国が復活した頃。

・やさぐれたヒルメは爬の国を乗っ取るためヤマカガシ人爬と名を変えて潜り込む。

・弟スサノオには自分が悪事を働いている事を知られたくないので、クシナダと一緒に山奥に住まわせる。

そこだけは譲れないんですね。約二千年の間にどれだけ心と身体がボロボロになったとしても、弟を戦いに巻き込みたくないという想いだけはずっと変わらない。

国盗りを目論んでいるのはシンプルにやさぐれてるからというのもあるでしょうが、彼女自身も意識してない所で「今度こそ争いのない世界を作りたい」という想いが混じってそう。

・爬の国にやまたのおろちがいる事に衝撃を受ける。人相が変わっているので正体はバレていない。

・やまたのおろちがいる限り国盗りは不可能と判断。自身のパワーアップを図るために鬼術を基にしたオリジナル術「鬼道」を開発。潜在能力を引き出す事ができるようになる。

・鬼術が元は自分たち鬼竜種を研究して開発されたものだとはヒルメは気付いていない。

以前からの疑問に対する答えがついに明らかになりました。

「ヒルメは鬼術が鬼竜種の力をベースにしていると気付いていない」

これはどう解釈すべきか。直近のカニ人のツイートから、ヒルメは自分が天津族であるという事は認識している。つまり自身が鬼竜種という自覚もある。それなのに鬼術のベースが自分たちの「異常な力」である事に気付いていないとは、やはりヒルメは鬼竜種の能力を使えないのだろうか?

使った事がないから気付いていない?ではなぜそもそも使えないのか。様々なパターンが考えられます。最初に思いつくのは「誰からも教わらなかった」。あり得ない話ではない。我が子を虐待する父、幼少期の家出。尋常な生育環境ではありません。だが天津族の他にも鬼竜種はいたはず。それらとの交流もなかった?それはちょっと不自然に思えます。まあ天津族の領袖であるイザナギは恐れられていた可能性もありますが。あるいは一定の年齢に達するまでは教えられない一族のルールがあったとか。

しかしこうなんというか、これは不謹慎な例えかもしれないですが、生まれてから一度も自分の腕を見た事も使った事もない人が、義手をつけてる人を見て、自分にもああいうものがあったら生活が便利になるのになと考えて、心身共にズタボロになるほどの努力を重ねて精巧なロボットアームを開発するような、何というかそういう壮大な回り道をしているような気がする。

・鬼道開発の過程で、身体がツギハギだらけになるほどの傷を負う。自身の死期が近い事を悟る。

鬼道の奥義=巨竜の半身の召喚と仮定すると、本当は巨竜の形で半身を作り出さなければいけないのに、失敗すると文字通り肉体が半分に裂けるとかそういうやつでは……ヒルメは生きているのが不思議なくらいの危険な実験を自分の身体で繰り返している。もしかしなくても無意識に自罰的な行動を選択してる?

・生き延びるために「転身の術」を鬼道で編み出す。他人の身体を乗っ取って命を繋ぐ術。

・転生先候補として毒蛇族の子供を使うために卵を奪う。

・生まれたマムシ人爬を育てるうちに情が湧いてしまい、適齢に達しても乗り移れなくなる。

ヒルメは邪悪になりきれない。卵を奪うという行為も大罪に違いないが、幼子を殺す事ができない。単にヒルメが子供好きというのもあるだろう。甥姪のおもちゃを求めてショッピングに明け暮れたり、カニ人と一緒にやってきた虫っ子ハーフキッズたちに対する感情からもそれは窺える。

あるいはかつて父に虐待されていた己の姿と重なるものがあるのか。非力な子供が一方的な暴力の餌食になる事に強烈な忌避感を覚えている可能性も。だがヒルメはもう卵を奪っている。本当の親の幸せも、マムシ人爬が本来歩むはずだった人生も何もかも奪っている。なのに殺す事だけは躊躇する。一貫性がない。悪の一貫性がない。

自分でもその矛盾に気付いているはず。だけど殺せない。何もかもが半端だと自嘲している気がする。その苦悩がより自罰的な傾向を強め、術の研鑽で自身をボロボロにしていく。親に絶望しニンゲンに絶望し最後は自分に絶望する。いや本当は最初から絶望していたのかもしれない。自分自身に。上の弟を見捨てて逃げた日から。

ヒルメはスサノオを永遠に争い事から遠ざけるために戦っている。死んでしまったら終わりだから。それに耐えられないから。自分の暗い部分を愛する人には見られたくないというのもあるだろう。しかし父が中生代ワールドの支配者である限り、アガルタに安全な場所はない。活路を求めた地上は修羅道の世界だった。でもスサノオも自分のために姉が傷ついてる事なんてとっくに気付いてると思うんですよね。自分を守るためだと知っているからこそ口出しできないだけで。クシナダや子供たちを守らなければならないという理由もあるか。いざとなったらスサノオの方が強いんですから、本気で姉の身に危険が及んだら戦うはず。でも姉のそれが弟に対するものではなく男に対する情念だとまでは察していないと思う。

これから先ヒルメはどこへ向かうのでしょう?国盗りを成功させて爬の国を手中に収めるのか、それとも帰還したうわばみに薙ぎ倒されるのか。月読との邂逅は、父との対決はあり得るのか……あるいは、それらよりも先に寿命が尽きてしまうのか……いずれにせよ劇的な展開は避けられないと思います。

あ、しまった、今回ヒルメの事しか書いてない。やまたのおろちとアガマ王朝の事はまた次回で。

それでは。

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