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【MBA/体験記】第17話「ビジネススクールのうさぎたち」


こんにちは、白山鳩です! クルッポゥ!

前回までの『能ある鳩はMBA』では、ビジネススクールのケースメソッド授業の受け方のコツを、

「予習・授業・復習」

の3つに渡ってについて紹介してきました。


今回は、MBAの授業について批評する2つの本を紹介しながら、

自分自身はどのようにして授業を受けるべきなのか

について考えていこうと思います。


1つの記事あたり、だいたい5分で読めますので、お気軽にスクロールしてみてください!


MBAが会社を滅ぼす

さて、ミンツバーグという経営学者が


『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』


という直球の本を書いています。



マネジメントに必要な三要素として


「アート・サイエンス・クラフト」


を打ち出しているので有名です。


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MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』を参照し、鳩が作成


『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』や

『天才を殺す凡人』

といった著書の根幹にかかわる要素としても引用されていますね。



さて、同書内でミンツバーグは、

いわゆる「ケーススタディ」と呼ばれるMBAの授業方法をこきおろします


ビジネススクールのケーススタディーで用いられる「ケース」とは、
たいてい一〇~二〇ページ程度の文書のことだ。

文章全体で、しばしば付録に数字が記される。
写真が載ることもある。

そこに記されているのは、あるビジネス上の状況だ。

舞台はおおむね一つの企業の中で、主人公がなんらかの岐路に立たされていて、決断をくださなくてはならない。

(中略)

ニューヨーカー誌の言葉を借りれば、ハーバードで用いられるケースは

どれも同じように見える
すべて同じ形式を踏襲していて、
雑誌の特集記事のような書き出しで始まる
」。

ヘンリー・ミンツバーグ 、池村千秋訳(2006)
『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』(日経BP)


なかなか煽りスキルの高い文章を引用してくる人間です。

授業で使われているケース全てを「バカモノ共」と見下している感じが伝わってきますね。


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引き続き、同書内で他にも何を言っているのか見てみましょう。

論理的な結論を導き、他人を説得することは、確かにマネジメントの重要な側面だ。
そうしたスキルを養う上では、ケースメソッドが間違いなく役に立つ。

しかし、この点が強調されすぎると、
マネジメントのプロセス全体が歪められかねない。

(中略)

むしろ、ケーススタディーが再現し、結果として奨励しているのは、
今日のマネジメントをしばしばむしばんでいる問題そのものなのかもしれない。

重役室にどっかり腰を下ろした経営幹部たちが、
いま検討を加えている状況の印象や感触とかけ離れた言葉や数字を論じ合う。
視覚的・直感的なものはないがしろにされて、言葉だけがまかり通る。

マネジメントは人工物となり、経営上の決定に強い影響を及ぼす現場の状況と乖離してしまう。


教室の議論は
「ゲームないしはゲームを装ったもの」
になっていると、アージリスは言う。

教員があるテーマを議論の俎上に載せ、最初は
「学生が間違った解決策を思いつくよう誘導する」。
正解は授業の最後まで絶対に教えない。

なぜ最初から革新を突いた問いを発しないのかという点について、ある教員は
「そんなことをしたらゲームが台無しだ」
と述べている。

教授陣にとって大事なのは
「学習のプロセスをコントロールする」
ことなのだ。


ケーススタディでは、

授業というゲームを楽しむことが目的となってしまい

そのような机上の分析、分析、分析という人工物でマネジメントを捉えることは、

むしろ悪影響では、とミンツバーグは指摘しています。


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MBA資格をもつマネジャーが戦略を立案した後は、
部下(「人的資源」と呼ばれる)がかけずり回ってそれを実行に移す。

戦略の実行は重要であり、
マネジャーがコントロールするが、
マネジャー自身が実行に携わることはない。


「実行」というフェーズから遠い人間を生み出してしまうMBAなんて破壊してしまえ、と言わんばかりです。


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不幸な人間の製造工場

併せて、


『ハーバードビジネス 不幸な人間の製造工場』


というこれまた、

ハーバードビジネス出身者の目の前でタイトルを声に出して読む自信が著者にはあるのだろうか

という本をご紹介します。



こちらは、イギリス人のジャーナリストがハーバードビジネススクールに通った体験記です。

大学に通っている生徒たちのことが、切れ味鋭い表現で描写されています。


以下は、同著からの引用です。


……たった二人のコンサルタントがプロジェクトを失敗させることもあると実感させられた。

一人がみんなをイライラさせ、
もう一人がそいつのくだらないプレゼンテーション案に大ウケする役だ。
「あの鮫野郎のことは大変だったね」
彼は言った。
鮫野郎とは、その必要もないのになんとか他人の発言を貶めようとする学生をさす。


鳩が所属していたビジネススクールを思い返すと、

徒党を組んでやたらと周りをイライラさせる人間もいれば、

「鮫野郎」もいたなというのは、よくわかる話です。


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ビジネススクールでは、このような連中の攻撃をうまくかわすか、

noteの場でこっそり扱き下ろすことで、虚しくも胸をなでおろすか、

の対応が求められます。

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また、ミンツバーグが指摘したような「机上の空論」での議論の様子は、

同著でも、ある生徒の発言として描写されています。


「まだ若いやつらがたくさんいる。

彼等は分析的にも理論的にもひじょうに切れ者だが、
ぼくには彼らがどれくらいのスキルの持ち主であるかがわかるし、
クラスメートがあまりにも経験不足で驚いたよ。

みんな自分には経験があるみたいな言い方をするけど、授業中によくこう思うんだ。

『実際には、きみが今言っていることは絶対にうまくいかないぜ』ってね」


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さてこの章の最後は、

この本の副題となった章からの引用で終わりとしましょう。


同著では、HBS(ハーバードビジネススクール)に通う生徒たちが、

承認欲求を肥大させていく様子や、

インターンシップを通してひたすらカネを得られる仕事を追い求める姿を描写しています。


最後の章では、ラーメンをすすっている主人公が、


同級生からこんな言葉を投げかけられます。


「HBSは」
と彼は麺のかたまりを口の中に放りこみながら言った。

不幸な人間の製造工場なのさ。
ぼくらにはとても多くの選択肢があるのに、
満足そうな者はほとんどいない。
HBSはみんなを不安にさせ、その不安は増す一方だ。
挙げ句にみんな自分の人生について誤った決断を下してしまうのさ。
だけどね」
と彼はつけ加えた。

「大部分はほんとうに善良な人々だし、ちゃんとした家庭出身のまっとうな価値観を持った人々だ。
何が彼らを変えてしまうのかは、わからない。
きっとみんな冷静さを失ってしまうんだろうな」


まあビジネススクールに来るような人間と言うのは、

ラーメン屋の店主よろしく腕を組んで、自信たっぷりに白い歯を見せている人間ばかりですから、

そのような傾向に陥るのも無理はないでしょう。


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さて、世の中のビジネススクール全てが会社を滅ぼすとも、

ビジネススクールに通っている人間全てが不幸な人間とも、

鳩は思っていません。


一方、ビジネススクールを経た人間たちは、

どのような信念のもとで、

どのような価値を生み出す人間になるのでしょうか


「正解」はあるのか?


ビジネススクールに通っている人、

あるいはビジネススクールに通おうと考える人たちに、

鳩が伝えたい思いは、


「何かしらの『正解』がある」

「自分たちは正解について語っておきさえすればいい」

と思って授業に参加したり、

生徒同士で会話したりするのは止めよう、

ということです。


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「ポーターはこう言っているから……」で終わってはいけない。


フレームワークは使ってみるだけではつまらない。


自分なりにどんな示唆が出せるかが重要です。


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日本社会では大学生になるまで「正解」を求める旅が求められます。


受験勉強とは「模範解答」を探る旅です。


だからこそ「正解」にこだわる生き方から抜け出すのは難しいですし、


ビジネススクールにも「正解」を求めてやってきている人が多いと感じられます。


しかし、”自分では頭がいい”と思っている人が「正解のようなもの」を追い求めるというのは、

ある種の「歪んだポリティカルコレクトネス」が潜む危うさもあります。


まあ、こうやって偉そうに語る鳩もまた、気づかぬうちに鮫野郎の1人となっているかもしれませんが……。


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それでも、

他人の意見をいたずらに否定せず、

かといって、馴れ合いの中の机上の空論にも陥らず、

自分なりの視座で意見を出せるようにしよう、

という意識は常に大切にしたいものですね。

ケースメソッドという”大喜利大会”。

せっかくなら、自分だけのとんでもなくおもしろい発言をするチャンスを虎視眈々と狙ってみませんか。


そして、

「自分は、実行する人間であるか」

「自分が実行するなら何をしたいのか」

について、自分自身へときどき問いかけてみてください。


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さて次回、『能ある鳩はMBA』第18話「君の鳥はキャリアを歌える」

お楽しみに。


to be continued...



参考資料

・挿入マンガ①③④:板垣恵介『グラップラー刃牙』(秋田書店)

・挿入マンガ②:星野茂樹(原作)、石井さだよし(作画)『解体屋ゲン』(芳文社)

・挿入マンガ⑤:石黒正数『ネムルバカ』(リュウコミックス)

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