オリックスは「捕手王国」である

近年、フレーミングの数値化によって捕手の守備評価について語られることが急激に増えてきた。打撃評価の細分化も進み、歴史に名を残す打てる捕手の重要性も再認識されるところだ。

評価の手段はいろいろあるが、ともかく守れることと打てることが両立できる捕手を望む声は多い。

そして、各球団ファンによる「正捕手は誰か」という論争は後を絶たない。派閥を争うように語気を強めて捕手の競争を評価している。
結果の数値化によって、みな水を得た魚のように「エビデンス」を使って罵り合っている。
言い換えれば、正捕手争いの「基準」を、みなが探し、提示し合っている。

捕手王国そのもの、象徴の2人



オリックスには森友哉と若月健矢という日本を代表する捕手が2人いる。
監督である中嶋聡は、この2人を併用しながら、DHや外野の枠を使い同時起用する試合も作った。理由を推測するに、2人とも打てるし守れるからだろう。
森は打撃タイトルに迫る成績を残し、若月も各球団の捕手を見渡しても上位に入る打撃成績だ。
加えて守れることも明らかである。若月の " 体で止める " 技術と送球技術は知られるところだが、森の送球技術も相当なレベルにある。

大前提として、捕手の第一条件は送球能力である。他の要素が必要ないとは言わないが、送球が基準を満たしていない場合は苦しい。
そして、それを測る上で盗塁阻止率という数字にほとんど意味がない。筆者の送球評価基準を簡単に書く。

細かい説明を省けば、捕手の送球を評価する上では

投げ手側の低めに来る投球を受けて2.0台以下で二塁ベースの右側の角に安定して投げられるか?


が一つの目安になる。

これは投げる動作に移りにくいところに来た球を捕って投げることを早く正確にできるか?の基準になる。

満たせる捕手はプロでも少ないが、若月や森にはそれができる。
送球能力だけでいえば、他に挙げられる名前はある。代表格が甲斐拓也だろう。
しかし、若月の打撃成績で若月の送球技術を持っている捕手は少ない。
そして、森のような打撃成績を残しつつ送球技術も高い捕手、その総合力は日本最高峰だ。代表辞退に賛否もあるかもしれないが、事実として本人の意思があれば代表のマスクを被ることになる、そのレベルである。
大城卓三の名前も挙がるところで、彼も確かに打てる捕手だ。送球もいい。が、森は打ち過ぎている。(余談だが純粋な脚力も結構ある。まさに総合力トップと言える捕手・森友哉)

2人とも「打って」「守っている」

それが肝要である。
「森が打ちまくって守れるなら森でいい」というわけではない。なぜか。
野球は9人でやる。DH含めて10人。よく言われるのは「それでも若月の守りが良いから」という点で、これは否定しないが、それよりも、若月が打ち過ぎているところが大きい。

ごくごく単純に言えば、DHの打者より若月の方が打ってしまえば、森や若月をDHに回して同時起用した方が単に攻撃力が上がることになる。これは森をライト起用した場合も同様である。ライト候補の選手より若月が打ってるから、森がライトで出る。そういう側面は間違いなくある。

今季、オリックスのDHは助っ人シュウィンデルのアテが外れて、セデーニョに救われたところがある。そのセデーニョでさえ、打率や出塁率の面から言えば若月に分がある。打者としての役割が違う、といえばいいだろうか。
ホームランを任せたいなら捕手を森、DHをセデーニョという構成にするし、バントや単打、四球で一つ先の塁を狙う役割を求めれば森と若月を使うだろう。
もちろん、左右の相性や捕手・若月に期待する日は森を外すのかもしれない。
それでもオリックス打線の中心に森友哉がいることには何の疑いもない。最終盤のライト起用はその証左だ。

阿部慎之助と小林誠司
 森友哉 と若月健矢



時代を象徴する打てる捕手だった阿部は 、2014年に首を痛めて以降、捕手としての道が完全に難しくなった一塁に転向することになる。
そうして台頭したのが小林である。持ち前の守備力はいまだに絶賛されるところだが、打つ方はなかなか難しかった。初年度こそ打率.250を残したが、翌年以降は低空飛行が続いている。

当時の巨人の一塁は助っ人が安定せず、守備に特徴がある現侍ジャパン監督の井端弘和を一塁に回すほど穴が空いていた。井端には他のポジションの仕事もあり、いずれにせよ一塁転向後の阿部ほどのインパクトを残せていない。.310打った年もあるが、なかなか打率が上がって来ない、本塁打も10本半ばがせいぜい、しかし実績と一発の怖さから出塁は計算できるが、良い時から比べるとやはり寂しい活躍度だろう。
打てる捕手からそこそこの一塁手になった阿部を誰も追い抜けなかったということである。(思い切って阿部を外すことができなかったとも言えるが。)

あの怪我がなければ、打撃タイトルを狙えて、2.0台で送球もできる阿部がマスクを被るのがやはり理想だった。
また、阿部の怪我があっても小林が若月ほど打てれば、また違う景色が見えたかもしれない。


さて、ここでオリックスに戻ると、いかに恵まれているかがわかる。


打撃タイトルを狙いながら守れる捕手・森友哉

及第点の打撃成績を残しつつ状況に合わせた細かい仕事もこなしながら守れる捕手・若月健矢


現代において理想的な捕手争いと言える。侍ジャパンに2人とも招集されても何ら不思議ではない。

FAで森を獲得したことによってオリックスは日本で最も充実した捕手陣を抱えたチームになり、その影響は単純な捕手争いを出てDHや外野にまで染み出す。

石川亮がベンチを支え、福永奨が将来を期待され、堀柊那がドラフトでやってくる。

正捕手は日本トップクラスに高い壁が2枚もあるが、彼らもまた高いレベルの送球を見せる。荒削りな部分を研いでいけば、世代交代はスムーズになる。

「捕手王国」の未来に不安は少ない。

それでも打てる捕手が2人並ぶことは少ないだろう。
パリーグの観客には今のオリックスの捕手陣の凄みを噛み締めて、来季を迎えてほしい。

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