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空想:「月は観測した人の数だけ存在する」

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「綺麗な月だねぇ、彩也子」
「うん、とっても綺麗。今日は特に、大きくて眩しくて綺麗に見える。ねぇ、おばあちゃん」
「何だい?」
「前から思ってたんだけど、月って、こうして歩いてたら、私について来てくれるように見えるの。ずっとついて来てくれる。そんなはずないって思うんだけど、自転車に乗ってても、車に乗っててもそう見える。おばあちゃんにもそう見える?」
「いいところに気付いたねぇ。おばあちゃんにもそう見える。小さい頃からそう思っていたよ」
「やっぱりそうなんだ!そうだよね!」
「彩也子、いいことを教えてあげよう。大事なことだよ」
「なあに?」
「月はね、見た人の数だけ、あるんだよ」
「え!そうなの?」
「そう」
「…うーん、そうだと考えたら、謎が解ける気もするけど、、実際にはそんなこと、あり得ないよね?」
「ふふ」
「なんでそんなに嬉しそうなの、おばあちゃん」
「いや、お前とこの話ができるのが、嬉しくてねぇ。でね、さらに大事なのは」
「え、何?」
「月はね、中継地点なんだよ」
「中継地点…?何の?」
「昔からね、人は月を見上げては、誰にも言えない願いを送ってきたんだよ。それで、月は、その願いを全部受け止めて、届けたい相手が次に月を見上げた時に届けてくれてるんだ」
「…お伽話みたいだね」
「ふふ、信じるかどうかは、彩也子次第だよ」
「…でも、話としては面白いし、本当にそうだったら、素敵ね。…ねぇ、おばあちゃんも、今まで誰かに届けたくて、願いを送ってきたの?」
「それは秘密」
「えー、教えてよう」
「願いの内容はね、誰にも言っちゃいけない。
 言ったら、送る前なら届かなくなるし、送った後ならその時点で相手の記憶から消えるんだよ」
「…なんか、神話か何かのペナルティみたいね。
振り返ったらダメ、的な」
「そうね、そんな感じかもねぇ。まぁ、今度彩也子もやってみな。世の中、不思議なことは、意外とたくさんあるもんだよ」

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