見出し画像

映画「ウォールフラワー」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第24回

「この瞬間だけは悲しみも消えて、僕は生きてる」
2012年公開映画「ウォールフラワー(The Perks of Being a Wallflower)」
文・みねこ美根(2019年4月15日連載公開)

新年度が始まった。同級生たちは就職し、きっと仕事を頑張っているのだろう。長かった学生生活が終わった。今までの人生ほぼ学生として生きてきたから、そういえば卒業したんだったわ、と思い出すと変な感じがする。

 実のところ、4月はなんだか少しつらい。毎年毎年何かが新しくなる季節、それが体に染みついてるから、春が近づくとそわそわする。思い出す新学期の居心地の悪さ。でも同時にその瞬間を生きてるぜって感じることもたくさんあった。みんな忘れないでよね。

この映画は在学中に大学の視聴覚室で見て、ひぃひぃ泣いてしまい、帰れなくなってしまったほど、胸にぶっ刺さってきた映画。2012年公開「ウォールフラワー」は、原作者のスティーブン・チョボスキー自身が監督、脚本を務めていて、ローガン・ハーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラーが出演している。そして主人公の主治医が、びっくり、ジョーン・キューザック! 前回紹介した「アダムス・ファミリー2」で悪女デビーを演じていた女優さん! そしてね、アメフトの選抜選手ブラッドを演じたジョニー・シモンズ、どこかで見たことあるなと思ったら、映画「セッション」制作前の短編版で主人公を演じた俳優さんだったのです。DVDの特典映像で見てみてね。

 精神的に不安定な部分を抱える、小説家志望の少年チャーリー。始まったばかりの高校生活も、卒業までの日数をカウントダウンしながら、一人、過ごしていた。そんな中、明るく奔放でクレイジーな、パトリック、サムと出会って、生活が一変。友情、憧れ、愛、悲しみ…、初めての経験をひとつひとつ噛みしめて、そして全てを委ねながら、毎日を生きる姿に胸を打たれる。自由で陽気に見える友人たちの、抱える悲しみ。お互いに感じ合い、笑い合う、美しさったら! そして、挿入歌も全部最高。

まず、見始めて思うのは、ここの高校、怖すぎない…?ということ。一年生虐げられすぎてて、私だったら生き残れないよ。「普通にしてれば友達はできる、自分が原因だ」というチャーリーパパのセリフもしんどいものがある。空気の中で何かが止まる瞬間、たとえ違ったとしても「自分のせいかな?」とギクッとするあの感じ、とても共感する。パーティーに誘われたチャーリーが「行っていいのかな…?」というセリフも、居心地の悪さも、とても分かる(私は今までパーティーに行ったことはないけど)。

サムが「あなたの初めてのキスはあなたを愛してる人でないと。」と言ってチャーリーにキスをするシーンがある。サムはこれまで傷ついてきた過去があり、心優しいチャーリーを思いやって、そうする。愛ってわからないし、素敵で、怖いものだ。でも、惚れた腫れたの“恋愛”とはまた違う、思いやり、愛が、ここにはある気がする。

 「無限を感じる」。不安と確かな今と、今までと、これからと。悲しみはずっと抱えながら、でも今を生きている。行こう、一緒に。

*****************
モチーフ:チャーリーのリュックと愛読書とカセットテープ、
サムにあげたレコード、誕生日ケーキ、パトリックの木工時計、
いたずらされたトンカチとのこぎり、学士帽、最高の夜のサム
音楽:David Bowie 「Heroes」 オルゴールver. cover

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?