希望しか見えない
契約社員でデスクワークをしていた時期がある。
就職活動もロクにせず、ただただ運任せでぼけーっと生きていた時期だった。
ただ「コールセンターは嫌だけれど、ここならまだ時給が良い方だから」という理由だけで決めた仕事だった。
適当に決めた職場にしては人間関係にはとても恵まれたし、「非正規雇用である」ということ以外で特に思い悩むこともなかった。
その会社で勤務して数ヵ月経った頃、実家で同居していた祖父が亡くなった。
「身内の死」というものをほぼ経験してこなかったので、20歳を過ぎての初めての身内の死に思っていたよりも精神的にダメージを食らってしまったらしい。
当時付き合っていた恋人と電話をしてはいつも泣いていた。朝礼の最中に隠れて泣いたこともあった。
ある日を境に、仕事に行けなくなった。
理由はわからない。
いつものように駅までの道を辿るのだけれど、あと3分ほどで駅に着くというあたりで足が止まってしまう。
泣きながら家に帰って会社に「休みます」と電話をする毎日。
電話を受けた人事からは「またですか!?早く病院を受診してください!」と怒鳴られることもあった。
そんな中でも、出社できる日は月に何日かはあって、決まって聞いていたのがdimという曲だった。
太陽は咳しすぎて輪郭は見えず
目を細めて見たその光はぼんやり
太陽は理想で実像は僕の現実
ほんやりした太陽は僕の心とイコールです
誰もが目指すものを太陽と例えるなら
僕の甘えが雲となり視界を遮るのです
目を凝らして見て
何が見える?
希望しか見えない
目に届いた光は8分前の光で
その頃にはまた新しい光を放って
僕らの希望もこうして終わることはないだろう
永久に光る太陽は 僕らの希望なんだろう
dim / LEGO BIG MORL
なんとか、一日を始められた。
わたしは「ふつうの」人間なのだ。
そんな安心感でいっぱいだった。
それから数ヵ月して、その会社を辞めた。
一年も持たなかった。
今考えてみれば、生きていることを実感して、自分の存在を肯定してくれているものが「仕事」だけになっていたのだと思う。
家族や恋人、周りの人にすら「本当につらいこと」がうまく吐き出せずに、自分だけをひたすらに責め続けていたのだと思う。
今でもこの曲を聴くと、立ち止まってしまっていた駅までのあの道のりを思い出す。
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