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「叫ぶ少女」

 ある街で、下校途中の小学生が喧嘩をしている場面に出くわした。

 4年生か5年生ぐらいだったろうか・・・。男の子が煽りたて、女の子が怒りを募らせる。ありがちなパターンだ。

 だが、男の子のヒールぶりが、なんというか、まるでもうドラマの場面のように憎々しい。それに対する勝気そうな女の子、怒りがもう我慢の限界に達し、爆発寸前だ。男の子が何を言っているのかまでは聞き取れなかったが、女の子の張りのあるソプラノが、周囲に響き渡った。

 「馬鹿にしてるんでしょう!!」


 そう言ったきり、女の子は立ちすくみ、手に持っていた物を、その場にポトリと落とした。
 次の瞬間くるりと踵を返し、今来た方向に向かって歩き始めた。
 その行動の意味はよく分からなかったが、その結果、少女は僕に近づいてくることになる。
 当然のことながら、女の子は僕の姿など見てはいなかった。頭の中は怒りで煮えくり返り、たぶん、今出てきたばかりの小学校に戻り、先生に被害申告することばかりを考えていたに違いない。そこに居合わせた見知らぬオジサンをよけて、先へと進もうとした。
 それまでは、放っておこうと思っていたが、その怒りの表情を見ていると、つい口出ししたくなってしまった。

「腹を立てても、馬鹿馬鹿しいだけだよ。相手にしなくていいんだよ」

 意図してゆっくりと、穏やかに話しかけてみた。

 言葉が自分に向けられていることに気づくと、ちょっと戸惑ったような顔をしたが、息巻いた早足が止まったときには、その表情から力みが消えていた。言葉は発しなかったが、小さく頷いたようにも見えた。反応が乏しかったのは、ふと我に返り、それまでのヒステリックな自分が恥ずかしく思えたからかも知れない。
 
 その直後、一旦起こした行動を中断し、今放り出したばかりの手荷物が落ちている場所に戻り、それを拾い上げた。

 その後どうなったかは見ていない。ゆっくりしている時間は無かったし、少女の表情の変化を見て、たぶん大丈夫だろうと思った。

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