見出し画像

ものがたりvol.5『21歳のハグルマビジョン』

わたしの夫とは彼が21歳の頃に出逢った。未成年ではなく大人としての一年を過ごしたその人の、きらきらときらめくというよりギラついた瞳。これまで一体何を観てきたのだろう。いま何が映っているのだろう。一回り近く歳の離れた彼は、落ち着いたフリをしてぼんやりと大人ぶった凡人間としての好奇心を掻き立てる存在だった。

世間の21歳に紛れたどこか鋭利な存在と出逢うと、その瞳に自分が写った瞬間に決まって心がビリビリするのだ。これから語る『如月りな』もそのひとり。

『如月りな』との出逢いは2018年のデビュー作1stアルバム『Rimix』。彼女は元JUDY AND MARYのベーシスト恩田快人プロデュースの新人アーティストだ。テクノポップの名盤ともいえる1stアルバムでは作詞をしたりブックレットを制作したりと仕事として彼女の関係者になった。

ライブでもイントロから盛り上がるような代表作となる『ハグルマビジョン』の歌詞は、作詞家であるわたし大貫理音が彼女に初めて書き下ろした作品。(なお作曲は10年来の付き合いで新進気鋭作家の木下貴之 氏。ライブではマニピュレータからVJまでこなしちゃうすごい人)
この曲は渋谷の街頭ビジョンやテレビ放送などでも長期にわたってプロモーションされていたので、この記事を読んでいる方も耳にしたことがあるかもしれない。(知らない人はぜひ後述のYouTubeをご覧ください)

わたしが歌詞として書き上げる物語は、いつも歌唱する方への贈り物だと思っている。音楽は空間を演出するもので主役ではない。本来なら誰にでも共感を生むようなさりげない物語であるべきかもしれない。それでも今音を楽しむアーティストにしか歌えない物語を書くのがわたしの十八番。
つまり木下さん(作曲担当)からの前情報と彼女のSNSと預かった曲だけで感じた印象で書き上げたこの物語は、わたしにしか書けない彼女へのはじめてのプレゼント。後にレコーディングの時にお会いした第一印象は、ほぼ間違っていなかったと確信した。そんなある意味自分本位な作者のいわゆる一番言いたいことというのは、サビのフレーズに凝縮されている。ぜひMVを観ていただきたい。

「21歳のこの瞳に、心に、これからどんなビジョンを映すのだろう」

この曲のなかでひとりの少女から女性へと秒単位で成長していく姿が観られる。エレクトロニックな甘い声で軽やかに時機のステップを踏む。小柄で細身を思わせない存在感でもどこか儚げで、何かくすぶるような瞳の奥からはもっともっと引き出せる。見目麗しさに心を奪われたわたしたち大人は、こぼれ落ちそうな彼女のココロの隙間に歪みを強引に押し込んではいけない。軽率に彼女のハグルマを狂わせてはいけないのだと思った。

1stアルバム『Rimix』の収録曲はどれも素晴らしい楽曲で、如月りなのアーティストとしてのキャラクターはアルバムを通して確立されている。彼女自らプロデュースしているブックレットの世界観はアートブックのような出来栄え。憂いを帯びた眼差しとやや無機質さを感じる歌声を繊細に絡み合う電子音が支えている。わたしの歌詞も彼女の歌声だからこその言葉で物語を突き進んでいる。曲として特にお気に入りの『empty blue』は彼女への贈り物をこえて今を生きるひと全てに、如月りなの歌で伝えたいメッセージが込められている。

まだアルバム未収録の曲にもいくつか作詞しているが、わたしの描く物語の主人公『如月りな』は一向にブレていない。君の手を引いて一緒に歩んでいく。想いが生まれる限りの未来へ。ファンが隣で一緒に歩めるのも新人アーティストならではの醍醐味だ。ここから盛り上げるのは本人の力だけではなく周りの寄り添う想いあっての活動である。

そうそう、わたしの物語は誰にでも書けるものではない。それはもうわがままな作家なので自分らしい物語は『好き』がないと綴れない。
10年以上もの間、仕事としては求められるものだけをとにかく爆速で書きおろす作詞家として生きてきたわたしに、新しい『好き』を貫く生き方をビリビリと伝えてくれた若きアーティストにこの心を捧げたのだ。ここまで書き連ねたこの想いがただの仕事の関係者ではなくなっていることに気づく。彼女のアーティスト性を演出するために、今のわたしがいるに違いない。

良質なエレクトロポップを愛する諸君は、次のアルバムもぜひ期待していてほしい。(まだ聴いていないそこの君は、フルで配信されているハグルマビジョンだけでもぜひ)

noteに #いまから推しのアーティスト語らせて というコンテストがあるので、この独断と偏見に塗れた拙い文章も胸を張って投稿させていただこう。
このハッシュタグを見つけたからには、作詞家のわたしが語るのにぴったりなタイミングであると信じて疑わない。最後まで傲慢な大貫先生の次回作にもご期待ください。

如月りな profile
2018年『Rimix』でユニバーサルミュージックから歌手デビュー。
TBSラジオ「Fine!!」内『恩田快人 ETERNAL MUSIC』のアシスタントとしてレギュラー出演中。2019年には停電少女と羽蟲のオーケストラ 10周年プロジェクト『ナナツハナ』で声優デビューも果たし、同作品から派生したアイドルユニット『LOVYU』のメンバーも務め、今後の活躍が期待される。
公式web『RINA KISARAGI OFFICIAL WEB SITE

▼[LINE MUSIC]如月りな


いつもご支援ありがとうございます。企画や活動に役立たせていただきます。