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ここにあるけどこわれてる

ろくでもない、ろくでもないと叫ぶわりには存外収まりがよいらしく、なんとなく日記を書くモチベーションがめぐってくるようになった。休日は全力で回復に努めているから忙しいけれど、平日、出歩いたり飛んだりへこんだり透き通ったりすると、一周まわって心がなんかいいところに落ち着いてくれる。そうなると、おう、文章でも書いてみるか、という気持ちがやって来てくれるからありがたい。心、ちょうど直立しないオブジェみたい。ねえ、これ、どっち向きに置くのが正解なんだろう。わたしが歩いたり立ち止まったりするたび跳ねまわってぶつかるそいつが、時々、いい具合に胸のくぼみに収まってくれることがある。取り回しのいい言葉を見つけたとき、知らない事実に気づかされたとき、あるいは、ちょっといい歌集を手に入れたとき。

新しく宗教やろう爆風で屋根が外れた体育館から /永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

新しく宗教やろう、って彼はいう。何となしにそんなことをいう。そういえば前、君は僕の宗教、って歌う人がいたんだっけ。わりとほがらかな楽曲だった気がする。日曜にバイトをして家に帰って、合鍵あけて待っている彼女を突然殴りつけるバンドマンみたいな歌。たぶん全然関係ないけど。爆風で屋根が外れた体育館、焦げた体操マットの臭い、ぼろぼろはためく赤い緞帳、君は振り向く、わたしはそれを夢でも見るみたいに見てる。でも、彼の歌はそんなにドラマチックじゃない。無造作で理不尽な暴力でもない。暖房をつけているのに冷たい手足が、そのままずっと冷たいみたいに、彼の視線は平熱ぎりぎりの低空に投げられる。

東京に春の大雪 BBSで出会う4人はバンドをつくる /同

ロンドン橋は落ちる、少女は森でクマと出会う、東京には春の雪が降る、BBSで出会う4人はバンドをつくる。

ポッキーの側面にある「平井堅」があけたら「平井」と「堅」にわかれた /同

「平井堅」は「平井」と「堅」にわかれる。

帰りの電車二駅分をおしゃべりし次の日ふたりとも風邪を引く /同

たとえば、なんでもものすごく透過して見えるすごいレンズがあって、それを覗くと、案外自分の丸っこい背中だけがポンと見えているのかもしれない。そういう、鋭すぎて莫大になってしまう感覚を搭載したまま毎日を生きると、もしかしたらこうなるのかもしれないなと思う。

だらだらとしたリズムで切り取られる歌の景が、そこに無造作に置いてあるだけでなぜかたのしい。跳ねるとポンと音がなるみたいにたのしい。

ラジカセがここにあるけどこわれてるそして十二月が終わりそう /永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

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