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PDCAを回すと、なぜ事業が停滞するのか

PDCAを回すと、事業が停滞する?


PDCAとは、P(計画)→D(実行)→C(分析・検証)→A(改善)の順番でサービスや事業を改善するサイクルを示します。
ここでいうPDCAの定義は、事業やサービスの数値分析を行って、分析の結果導き出された施策を行うサイクルをやっていくと、事業が停滞するという意味です。

PDCAを回すと、なぜ事業が停滞するのかという構造と理由を説明します。

PDCAを回して事業が停滞する例


まず、停滞する構造なのですが、分かりやすいように例え話としてゲームアプリの例を取り上げます。

あるゲームアプリをリリースすることになりました。ゲームアプリはいわゆるソーシャルゲームでゲーム性は低く、毎日一定量プレイすれば地道に進んでいくけれど、課金すればそれをスキップして早めることができます。

ゲームをリリースしてからしばらくして、数値分析をすると課金者は全体プレイヤーの1割弱であることが分かりました。
さらに、課金者全体の中で、2割の重課金者が全体課金売り上げの8割を占めることが分かりました。

この分析をもとに、課金者を対象としたイベント施策を行っていきます。すると課金者の平均課金単価が上がり、売上がどんどん伸びていきました。
イベントの結果をさらに数値分析して、課金者のインセンティブを高めてさらに課金をしてもらえるように改良をしていきます。
その結果、どんどん課金単価が上がり売上が伸びていきました。そのまましばらく売上は伸びていきましたが。あるとき天井に達して停滞しはじめます。
しかし、一度挙げた売上を落とすわけにはいかないので、さらに効率的なイベントを設計してなんとか課金単価を保持しようとします。
しかし、イベントの参加者が減少していき、ユーザーも売上も減少傾向に転じました。減少傾向を食い止めるために、継続キャンペーンなどキャンペーンを打ちますが、それでもユーザーも売上も下がっていってしまいます。

PDCAを回していたのに、なぜこのようになってしまったのでしょうか。

PDCAを回すと「現状しか見えなくなる」


これは、よくありがちな例なのですが、PDCAを回すと陥る罠として現状の最適化しか行えなくなる=現状しか見えなくなるということが起こります。

さきほどのゲームの例でいうと、売上を優先するあまり「現状の課金ユーザー」に絞って「顧客単価を挙げる」という施策をしていました。
そうすると、PDCAを回せば回すほど課金ユーザーに焦点が絞られた施策が行われていき、サービスの設計も現状の課金ユーザーに最適化されていきます。
そうすると、新規ユーザーが流入しづらくなり、現状の課金ユーザーが離脱するとそのままユーザーが減少する構造ができあがってしまったのです。

見えていて大事なものと、見えていないけど大事なもの

ゲームアプリの課金ユーザーは「見えていて大事なもの」です。だからこそ、見えていて大事な課金ユーザーに的を絞ってPDCAを回していました。
しかし、それと同じくらい「見えていないけど大事なもの」があります。それが新規ユーザーです。新規ユーザーがいなければ、新規の課金ユーザーも増えないからです。
この俯瞰的な思考で「見えていないけど大事なもの」を組み込んで考えなければ、PDCAを回せば回すほど「見えていて大事な現状のユーザー」にのみ焦点が当てられるので、長期的には事業が停滞していくのです。

かつてコンソールゲームで圧倒的な覇権を握っていたプレイステーションは「レベルの高いゲーマー」という現状の顧客に焦点を当てすぎて、高機能化の一途をたどっていました。「ゲーム好きの子どもやファミリー」という「見えていないけど大事なもの」がおろそかになっていたのです。
そこで任天堂は、家庭用ファミリーゲーム機として楽しめる「Nintendo Wii」を投入して、一気に顧客層をファミリー層まで拡大したのでした。

それでは、このPDCAを回して現状最適化の罠にはまらないためには、何が必要なのでしょうか。

PDCAの罠にはまらない方法1:ターゲット顧客層を見直す

さきほどのNintendo Wiiの例でいうと、ゲーム機の顧客が「レベルの高いゲーマー」という狭いセグメントになっていたため、「ファミリー層」に拡大したわけです。

このように、現状の事業やサービスのターゲットのセグメントが狭すぎていないかを確認する作業が必要です。

例えば、停滞したユニバーサル・スタジオ・ジャパンをV字回復させた森岡毅氏は、USJ停滞の原因の一端は、ターゲットとする顧客の狭さにあると分析していました。当時のUSJは、ハリウッドの映画の世界をリアルに体験できるというコンセプトでした。

森岡氏は著書の中で次のように語っています。

例えばテーマパークのような老若男女を相手にする大衆ビジネスでは、かつてのUSJのように戦略ターゲットを「ハリウッド映画が好きな」消費者と定めてしまうとあまりにも幅が狭いのです。関西というリッチ条件で年間1000万人以上の集客を達成するには、消費者全体の8割くらいをカバーできる設定にしておくべきなのです。

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そこで私は、映画というフォーマットにこだわってブランドを創るのではなく、エンターテイメントの原点である「感動」にこだわってブランドを創りたいと考えたのです。このパークを、「映画の専門店」ではなく、映画も他も含めて「最高の感動を届けるブランドを世界中から集めたセレクトショップ」にしたいと考えるようになりました。

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このように、USJを再建させるにあたり、森岡氏はターゲット顧客を広げるために、サービスの定義そのものを見直したのでした。
この後、USJはハリー・ポッターシリーズなどの映画に由来したアトラクションとともに、モンスターハンターやワンピースなど映画にとらわれないアトラクションやイベントを提供していきます。
このように俯瞰で事業スキームを見直し、ターゲット顧客層が狭くなっていないかを確認することが重要ですが、スタートアップの場合はさらに有用な手法があります。

それは、PDCAをDCPAに変えることです。

PDCAの罠にはまらない方法2:DCPAに変える

PDCAは
P(計画)→D(実行)→C(分析・検証)→A(改善)ですが、これを
D(実行)→C(分析・検証)→P(計画)→A(改善)に変えます。

釣りを例に挙げると、

PDCAが

P(計画)
効率の良い漁場を調査して見極める
D(実行)
釣りをしてみる
C(分析・検証)
釣りの結果を評価する
A(改善)
釣りの方法を改善する

であれば、DCPAは下記になります。

D(実行)
釣りをしてみる
C(分析・検証)
釣りの結果を評価する
P(計画)
効率の良い漁場を調査して見極める
A(改善)
釣りの方法を改善する

つまり、先に実行をしてしまって、その結果データを得てから分析・検証を行うわけです。この方法が有用なのは、実行で得られるデータほど有用なものはないからです。釣りをするまえにどこの釣り場が効率が良いのか周辺データで分析するよりも、実際に釣りをした方がそこが効率の良い釣り場かどうかが分かります。

このようにさきにD(実行)を行うことで、実績に伴う圧倒的なデータを得ることができます。
広大な海に複数のルアーを投げてみて、どこが当たりなのかを手探りでたどりよせるのです。
定期的に未知の領域でD(実行)を行うことで、その領域のデータを入手し、現状の最適化で先細りしないように漁場を広げていくイメージになります。

さきほどのUSJというテーマパークの例では、この手法は実行コストがかかりすぎるので、需要を確認するための綿密なリサーチが必要になります。
しかし、実行コストが比較的安価なスタートアップ事業であった場合は、このDCPAのサイクルが有用なのです。

ということで、PDCAを回すと、なぜ事業が停滞するのかについて解説しました。いずれにしろ「現状のターゲット顧客のままで十分か」という俯瞰的な見方が必要になります。USJの例のように、ときにはターゲット顧客を広げるために、事業ドメインを広げる必要もあるのです。
そして、実行コストが安価な場合は、常に周辺領域でのDOを行うことによって、顧客ターゲットや事業ドメインの拡大を模索する必要があります。


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