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【テーマ:宮城の水道】政治を気軽に語るオンラインカフェ「コーヒー・ハウス」2021年6月30日の話題まとめ

政治への関心、知識がある人もない人も、気軽に話し合えるイベント「コーヒー・ハウス」。
今回は、宮城県が全国初の導入を目指している上下水道・工業用水道の新しい事業形式『みやぎ型管理運営方式』について、話し合いました。

この施策への賛否の立場を決めるためではなく、純粋な情報交換の場としてこのテーマを取り上げましたが、ちょうど本日(7月1日)から宮城県議会・建設企業常任委員会で本件が取り上げられ、7月5日の本会議で採決が行われるタイミングでしたので、先んじて今回参加者の皆さんから出た疑問や意見、コメントなどをまとめました。

7月6日追記 宮城県議会6月定例会で賛成多数で可決されました。
「水道みやぎ方式」22年4月開始へ 全国初、3事業売却の議案可決(河北新報ONLINE NEWS)
会話の流れを詳細にまとめた記録、正確な発言の記録ではありません。備忘録としてご覧ください。

テーマ:水道の「みやぎ型管理運営方式」について

『コンセッション方式』とも呼ばれるこの事業の形式は、2018年の水道法改正により初めて日本国内で認められるようにになり、宮城県が全国で初となる導入を目指しています。
宮城県は"官民が連携する新しい運営方式"と説明していますが、導入に批判的な立場からは「事実上の水道民営化」「水道事業の民間企業への売却」と表現されることもあります。

【情報提供】宮城県の説明(説明会資料をもとに)

冒頭に、宮城県が実施した説明会に出席したメディアージ・漆田が、県の配布資料を使って概要を説明し、そこに本件に詳しい参加者が賛成・反対の両方の立場を踏まえながら補足を加えていくことで、参加者全体での理解を深めていきました。

県の説明、主張でポイントと思われる点は以下の通りです。
・人口減少や技術向上で水道の使用量は減る一方、水道設備は老朽化が進み更新時期を迎えている。例えば一人が水を10L使うのと5Lしか使わないのでは、1Lあたりに上乗せされる管理コストが2倍になるように、今後水道料金の値上げは避けられない状況にある。
・宮城県(に限らず、全国の自治体)では、既に施設の運転・管理業務を民間事業者や公社に委託している。しかし現状のルールでは契約や発注方式に制約があるため民間の力を活かしきれない。「みやぎ型」を導入すれば受注者が創意工夫したりスケールメリットを活かしやすくなる。
・事業費削減のための目標設定もあり、事業者選定のプロセスも厳しくしている
・水道料金の決定には県や市町村との協議、県議会の議決が必要なので簡単に値上げされることはない
・海外では民営化された水道が再公営化されていると言われているが、フランスの事例(1998〜2011)では再公営化されたのはわずか1.1%で多くは民間活用の形態で契約更新がされている。
・「民営化」ではなく、あくまで県が事業の最終的な責任を負っている

以上は、あくまで漆田による主観的なまとめなので、詳細が気になる方は県の配布資料をご確認ください。

なお現時点で事業者の選定は終了しており、メタウォーターグループが「優先交渉権者」となっています。以下の話題ではこのグループや構成企業についても言及しています。

【情報提供】県の説明の補足・不明点など

この宮城県の説明に対して、参加者からは以下のような補足情報、意見が出されました。

・メタウォーターグループの資料内容の中で、事業期間終了後も宮城県内に人材やノウハウ、技術を残すための『新OM会社』をつくるという内容があり(「OM会社」の意味やなんの略称なのかは不明)、グループの全構成員がこれに出資するとされていたが、その出資の内訳などが不明瞭でブラックボックスになっていた。最近になり、過半数である51%を外資系企業のヴェオリア社が保有することが判明し、これには反対派からだけではなく県政与党である自民党からも疑問視する声があがっている
・県の説明では人口減少で住宅の水需要が減ったかのように説明されているが、上水道・下水道・工業用水道のうち上水道は現状では黒字で、実は工業用水道の赤字が続いている(技術向上により、工場で洗浄のためなどに使われる水の量が大幅に減った)。宮城県議会に向けては、上水道の黒字を工業用水の赤字に補填することはないと説明されていたが、今回の「みやぎ型」では三事業が同時に委託されるので、補填されることになるだろうと見ている。

【意見交換】反対派の意見、論点

※以下の内容は、反対運動の当事者ではなく外側からの意見であることにご留意の上ご覧ください。一部批判的なコメントを含みます。

・反対運動をしている人たちがどういった理由で反対しているのか知りたい
→反対している人にも様々なレイヤーの人がいる。仕組みや過程を調べた上で批判する人もいれば、よくわからないから反対、感情的に反対という人ももちろんいる。
→市民団体「命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ」が県に提出した要請書では、議会の審議に必要な情報が不足していること、優先事業者の提案書にかかれている一部の提案内容に情報の取り違いがあり、実施困難な数字が掲げられていることなどを具体的な反対理由としている(より正確な主張については、リンク先の本文をご確認ください)。

・反対派には公務員系の労働組合の方々も多く、民営化されたら自分たちの仕事がなくなるのではないかという不安は当然ある。
→その声を政党が支援することで反対運動の政治色が強まっている側面も。
→実は仙台市のガス局事業が民営化される話もまとまったが、あまり話題になっていない? 震災前にも一度議題にあがったが、当時は労働組合との交渉がまとまらなかった。今回、民営化の方向で話がまとまったのは、当時の反対派の人達がもう退職してしまったことも影響しているかもしれない。

【意見交換】コーヒー・ハウス参加者のここまでの意見、印象

・効率化や事業費削減が目的だとして、公営でも民営でもそんなに大きく変わるとは思えない。
→個人的にいろいろ調べてみた結果、公営のままでも民営化しても大きくは変わらないのではないか、みんなが思っているような、良いことも悪いことも起こらないのではないかという見解に至った。

・現状でも民間に委託している範囲は多いので、すぐに水質等が変わるとは思えないが、これまでより委託の期間が長いとなると「どんな会社が実施するのか(信用できるのか)」が結局大切になってくる。
→その上で、現状のメタウォーターグループの提案内容には『新OM会社』など不透明な存在が最後まで残っていた(のに、そのまま選ばれてしまった)。
→ここに来て『新OM会社』の株式の過半数を外資系のヴェオリア社が持つこと判明したことで、「メタウォーターグループが信用ならない」という批判に帰着するのは当然だと思う。

・技術的な話題が多いので難しく、わかりにくさ、関心の持ちにくさにつながっている。
→そのせいでクリティカルな指摘が出にくく、感情的な批判などが目立ってしまうことで、本当に議論されなければならない問題点が埋もれてしまっている可能性があるとしたら、もったいないと感じる。

・もし本当に工業用水道の赤字を上水道の黒字で補填しようとしているのだとしたら、説明会資料でその辺りが明記されていないところに不信感を感じる。

・一概に外資系だから悪いとか信用できないという批判は、ちょっと理解できない。

・水道を供給する側にも利用する側にも各々の思惑があるのは当たり前だが、お互いの話を聞かずに各々が勝手なことを言っている印象も受ける。

【意見交換】コーヒー・ハウス参加者の疑問と(参加者同士での)回答

Q. 農業用水は今回の話と関係ないのか?
 A. 水利権という考え方があり、農業用には河川から水を直接引いて使っているため、水道事業者は介在しないと考えられる。

Q. 市町村の水道も民間に委託されるようになるのか?
 A. 宮城県内では、いまのところ村田町が唯一コンセッション方式を採用しようとしており、『四公共事業包括的民間委託』という表現が使われている。
 →先程『新OM会社』の51%の株式を持つ外資系企業としてヴェオリア社の名前があがったが、実は仙台市は既にヴェオリア社に窓口業務や検診業務の一部を委託している

Q. ヴェオリア社について
 A. 国内では検診業務等を様々な自治体で請け負っているが、それはもともと2018年の水道法改正まではそこまでしかできなかったから。海外では水の管理事業もやっている。そもそもヴェオリア社は水道法改正にあたって積極的にロビー活動をしており、満を持して最初の事例となる宮城県に乗り込んできたのだろう。

Q. 外資系企業が日本の潤沢な水資源を狙っているという説もあるが大丈夫なのか
 A. 例えば北海道では海外資本に森林等が買われている。今回の件でいえば宮城県が水源の土地や設備を「売却」するわけではないので、そういった心配をする必要はない。
 →一方で、現状で3000億円ほどの資産価値があるとされる設備を、たった10億円で20年間事業会社に貸すことになっており、それはどうなのという批判はある。
 →高く貸しても水道料金に跳ね返ってしまうだけなので仕方ないかもしれない?

Q. 県の説明資料では、世界の再公営化の比率を示す例としてフランスの数字だけが切り抜かれているのはなぜなのか。怪しい
 A. 確かに都合のいい切り抜きの可能性はあるが、実際の再公営化率などを調べてみると世界全体でも似たような数字ではある。

【意見交換】民間に委ねたら安くなるというロジックは本当なのか? そもそも逆じゃないのか。

・民間の雇用形態のほうが、公務員に準じるより安く済ませられるのはそうかもしれない。

・むしろ値上がりはする前提で、その値上げ幅をどう抑えるかという話であることを忘れてはいけない。

・コンセッション方式が他の自治体にも広がっていけば、共通のソフトウェアを使用するなどして管理コスト上スケールメリットが得られやすくなる

・電力など他の民営事業と同じようなことが、水道でも起きるのではないか?
→地域差、インフラ整備の平準化などをどう解決しようとしているのか
→コンパクトシティでも進めない限りは赤字になりそう
→電気は蓄電できない(効率が悪い)が、水道は貯めることができるのでまったく同じ状況ではない
→災害時の対応など不安が残る
 →宅配サービスやエレベーターの保守点検など、民間企業でも信頼に足る取り組みをしているところはたくさんあるから、民営化=サービス低下、緊急時に対応できないという評価は間違いではないか(企業次第)
→民間のサービスが向上するのはあくまで競争原理が働くからであって、水道はそれがないからサービスが担保されないのではないか?
 →むしろ今のほうが、業務ごとに委託先が変わったり、4〜5年ごとに入札があったりして、競争原理が働いているのではないか
 →寡占事業や独占事業は、不当な価格にならないように公正取引委員会や行政が介入するものであり、競争原理が働かないから不正するという指摘は必ずしも当てはまらない。

【意見交換】せめて試用期間というか、慣らし期間、またはモデル区間のようなものを作って実験することはできなかったのか

・嵐(アイドルグループ)が2年かけて活動休止したのってすごく大切だったなと今は感じる。いきなり全県で導入はリスクが大きいのではないか?
→企業としては、最初から期間や範囲がある程度大きくないと、参入するメリットがないので仕方ないのではないか
→宮城県が実験の舞台としてちょうどいいのかも。
→ある程度長い年数をかけて試さないと、「設備の更新」など費用がかかるところを含めてコンセッション方式が本当に成立するのかわからない。

・何年かやって、やっぱりやめよう! という判断はできないのか
→企業側がだめになった場合でも、行政側がやめようとした場合も、いずれも違約金を支払って終わらせる形になる

【話題提供】水道台帳の行政上の意義について

・実は行政が、水道台帳というものを頼りに空き家の特定を行ったりしている。昭和に作られた、地域のどこに水道管が引かれたかという情報が書き込まれたもので、山間部の集落などは情報がかなり怪しいが貴重な手がかりにもなっている。
→これが更新され、水道が使われているかどうかの情報などと結びつければ、空き家を特定するための情報として行政が活用できるようになる。
→人がいない土地の行政代執行がやりやすくなったり、逆に孤独死を防ぐための取り組みなどにも活用できそう
→雨水と汚水の管などの区別がつきやすくなれば、感染症対策にも役立つ
→施設の更新とあわせて台帳が整備されたらいいね、という話

【意見交換】人口密度の低い地域にどの程度インフラを再整備するのか?(という話題からちょっとずつ脱線して、宮城県の地価の話に)

・参考:「老いる家 崩れる街 住宅過剰社会の末路」 野澤千絵 著
→都市計画税というものがあるが、都市部の人たちが払った税金が、山間部のインフラ整備等にも使われている側面はある

・集中と分散。コンパクトシティ。どんな街の形が支持されるかどうかについて、住民の気持ちは案外移ろいやすい(コンパクトシティを推進していた現職の青森市長が2009年落選するなどの例も)。
→インフラ管理をしやすくするためにコンパクトシティ化をはかるというのは賛成できるが、一方で先祖代々の土地を大切にしたいという気持ちもわかる。
→過疎地域や限界集落とひと括りにして人を移住させてしまうと、農業従事者がいなくなったり、里山の管理が行き届かなくなり結果的に災害につながるといった指摘もある。

・戦後に全世帯への電気の普及を目指した際は、電線の通せない地域は補助金を出して引っ越してもらうという政策もあったらしい(「秋田・廃村の記録 : 人口減時代を迎えて」浅原昭生, 林直樹著 ※原著を確認できないため情報に間違いがある可能性もありますがご容赦ください。ここでは参加者のコメントとして参考のために記載します)。

・人口減少社会で都市部に住民が集中したほうが効率がいいというのはわかるが、現実問題として中心部は土地が高すぎて家が建てられない。結局郊外にマイホームを持つ友人もいる。
→中心部で"ジェントリフィケーション"が起きている。地価があがり富裕層などが住み治安向上などにつながるという意味もあるが、従来住んでいた階級が立ち退きを迫られるなどの現象を指す言葉でもある。
→宮城(仙台)は特に地価が高すぎる。不動産オーナーが止め方を知らないで上がり続けてしまっている。
 →例えば仙台市の中心商店街はコンビニやチェーン店だらけ。商店街の理事長が商いをせず不動産オーナーになっており、地元資本や若者が入り込めない街になっている。

終わりに

順番が前後してしまいましたが、前回前々回の内容についても今後まとめを公開予定です。

また次回7月のコーヒー・ハウスは、告示日が迫った仙台市長選に絡んだ内容を予定しています。
ぜひ皆様も気軽にイベントにご参加ください。内容に関する質問や感想も歓迎です。

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