見出し画像

【医療物資のドローン物流】デリバリーで活躍するドローンたち 〜 コロナ禍で加速したドローンによる医療サプライチェーン変革[機体篇]

【医療物資のドローン物流】コロナ禍で加速したドローンによる医療サプライチェーン変革』前回の[序章]に続き、本稿では[機体篇]「デリバリーで活躍するドローンたち」として医療物資のドローンデリバリーで使用されているドローン機体(UAV)を概観する。

ドローンデリバリーで活躍している機体

「ドローン」(drone)というと翼がなく機体にプロペラが4本付いたクワッドローター(クワッドコプター)などのマルチローター(マルチコプター)を思い浮かべる向きが多いかもしれない。しかし、医療物資のドローンデリバリーで主力となっているドローン機体はVTOL(垂直離着陸)固定翼タイプである。

ドローンデリバリーは配送範囲によって大きく「ラストマイル(ラストワンマイル)」「ミドルマイル」の2つに分類されるが、本稿では最大ペイロード(可搬重量)も加味して感覚的かつ大雑把に「ラストマイル」「ミドルマイル」「ロングホール」の3分類することにする。

ドローンによる大陸間輸送はまだ見掛けないので「ロングホール」の分類は馴染まないが、本稿では便宜的に最大航続距離500km以上かつ可搬重量100kg以上の機体を「ロングホール」に分類した。

以下「ラストマイル」を中心にそれぞれのカテゴリーで活躍している代表的なドローン機体(unmanned aerial vehicle)を見て行きたい。

ドローン物流ラストマイル機体

■VOLY C10 - Gen 2(Volansi)

VOLY C10 - Gen 2
ノースカロライナ州のMerck社施設と病院を結ぶ医薬品コールドチェーンドローン配送プロジェクトで使用されているアメリカVolansi社のVTOL固定翼ドローン「VOLY C10 - Gen 2」。
【スペック】
最大航続距離:50マイル(80km)
巡航速度:60mph(97km/h)
可搬重量:10ポンド(4.5kg)
最大飛行時間:1時間(60分)

■Wingcopter 178(Wingcopter)

Wingcopter 178
NHS(英国国民保健サービス)の新型コロナウイルス対策を支援するために、UKSAとESAの援助を受け、Skyports社の主導によりスコットランドで実施された医療物資のドローンデリバリープロジェクトなどで使用されたドイツWingcopter社のティルトローターVTOL固定翼ドローン「Wingcopter 178」。先程発表されたANAホールディングスによる2022年度日本国内ドローン配送開始計画の想定機体にもなっている。
【スペック】
最大航続距離:120km
最高速度:150km/h
可搬重量:6kg
最大飛行時間:2時間(120分)

■Kookaburra Mk III(Swoop Aero)

Kookaburra Mk III
「ワライカワセミ」ドローンことオーストラリアSwoop Aero社のVTOL固定翼ドローン「Kookaburra Mk III」(見出し画像)は、NHS(英国国民保健サービス)の新型コロナウイルス対策を支援するためにArgyll and Bute HSCPが計画し、UKSAとESAの援助を受け、Skyports社の主導によりスコットランドで実施された医療物資のドローンデリバリープロジェクトの拡大本運用から使用されている。また、コンゴ民主共和国におけるCOVID-19ワクチンの全土ドローン配送網でも使用されており、マラウイ、モザンビーク、バヌアツ、オーストラリアなどでも採用された。医療物資のドローン物流では最も使用されているドローン機体(およびUAS)かもしれない。
【スペック】
最大航続距離:260km(最大ペイロード積載時130km)
最高速度:130km/h(巡航速度115km/h)
可搬重量:3kg
最大飛行時間:不明(※推定3時間)

■Manta Ray(Phoenix-Wings)

Manta Ray
「空飛ぶマンタ」「飛ぶオニイトマキエイ」ことドイツPhoenix-Wings社のVTOL固定翼ドローン「Manta Ray」は『アフリカドローンフォーラム - ルワンダ2020』の「Lake Kivu Challenge」コンペで優勝した後、英国研究・イノベーション機構(UKRI)の支援を受けたSkyfarer社やAltitude Angel社などからなるコンソーシアムに採用され、イギリスで「医療用ドローン回廊(ドローンコリドー)」構築を進めている。
【スペック】
最大航続距離:120km
巡航速度:85km/h
可搬重量:10kg
最大飛行時間:不明(※推定2時間)

■RigiOne(RigiTech)

RigiOne
序章で紹介したENAC(イタリア民間航空公団)がLeonardo社、Telespazio社、バンビーノゲス小児病院と共に行った医療物資のドローン配送デモンストレーションで使用された機体は(Leonardo社製の機体かと思われがちだが)スイスRigi Technologies社のVTOL固定翼ドローン「RigiOne」。
【スペック】
最大航続距離:80km
巡航速度:不明
可搬重量:3kg
最大飛行時間:不明

■Zip UAS Sparrow(Zipline)

Zip UAS Sparrow
2016年ルワンダに世界初の全国規模ドローン配送網を構築したアメリカZipline International社は一見すると同じ機種をずっと使用しており、機体を含めて「Zipline」という印象で機体名不明だが、米FAAの耐空性基準資料では「Zip UAS Sparrow」となっていっるので恐らくこれが機体名なのだろう。「Zip UAS Sparrow」は固定翼ドローンで電動カタパルト射出、物資はパラシュートによる空中投下(airdrop)、アレスティング装置のワイヤーに機体のフックを引っ掛けてのキャッチ(着陸)とスペースに余裕のあるアフリカ向けの機体といえる。
【スペック】
最大航続距離:160km
最高速度:56ノット(104km/h)
可搬重量:4.5ポンド(2kg)
最大飛行時間:不明(※推定2時間)

■VelosV3(Velos Rotors)

VelosV3
移植用臓器のドローン搬送距離でMissionGO社が世界最長記録更新(2020年時点)した際に使用していたアメリカVelos Rotors社のヘリコプター型ドローン「VelosV2」。動画と記事の機体は「VelosV2」であり、2021年4月から後継機「VelosV3」に移行した。
【スペック】
最大航続距離:不明(※40km以上)
最高速度:130km/h
可搬重量:10kg
最大飛行時間:90分

■Sparrow(Drone Delivery Canada)

Sparrow
オンタリオ州の先住民に新型コロナウイルス関連物資のドローン輸送などを行うカナダDrone Delivery Canada社のマルチローター(オクトローター)ドローン「Sparrow」。
【スペック】
最大航続距離:30km
最高速度:80km/h
可搬重量:4.5kg
最大飛行時間:不明(※推定1時間)

■M2(Matternet)

M2
ヨーロッパ最大の医学検査研究所Labor Berlinの中央研究所とベルリン市内の病院施設を繋ぎ、検体のドローン搬送を行う都市型BVLOSドローン配送ネットワーク運用などで使用されるアメリカMatternet社のクワッドロータードローン「M2」。
【スペック】
最大航続距離:20km
巡航速度:36km/h
可搬重量:2kg
最大飛行時間:30分

ドローン物流ミドルマイル機体

■VOLY M20 - Gen 2(Volansi

VOLY M20 - Gen 2
アメリカVolansi社のミドルマイル向けハイブリッドVTOL固定翼ドローン「VOLY M20 - Gen 2(MEGAMOUTH)」。
【スペック】
最大航続距離:350マイル(563km)
巡航速度:75mph(121km/h)
可搬重量:30ポンド(14kg)※貨物20ポンド+センサー10ポンド
最大飛行時間:8時間(480分)

■I-UASL(Leonardo)

I-UASL
イタリアのデュアルユース(軍民両用)航空宇宙企業Leonardo社が、トリノ市、D-Flight社と協力し、ENAC(イタリア民間航空公団)の承認を受けて行った都市型ドローンデリバリープロジェクト「Sumeri: Si Salpa!」で使用されたクワッドロータードローン「I-UASL」。
【スペック】
最大航続距離:50km
巡航速度:不明
可搬重量:50kg
最大飛行時間:不明

■210TL(AVIDRONE Aerospace)

210TL
カナダAVIDRONE Aerospace社のタンデムロータードローン「210TL」。
【スペック】
最大航続距離:120km
最高速度:100km/h
可搬重量:25kg
最大飛行時間:1.3時間(78分)

■Condor(Drone Delivery Canada)

Condor
カナダで新型コロナウイルス関連物資のドローンデリバリーを行うDrone Delivery Canada社のヘリコプター型ドローン「Condor」(2ストロークガソリンエンジン)。
【スペック】
最大航続距離:200km
最高速度:120km/h
可搬重量:180kg
最大飛行時間:不明

ドローン物流ロングホール機体

■Chaparral(Elroy Air)

Chaparral
NASAと貨物ドローンの空域統合に取り組むアメリカElroy Air社の自律型ハイブリッドVTOL固定翼貨物ドローン「Chaparral」。
【スペック】
最大航続距離:300マイル(482km)
巡航速度:不明
可搬重量:500ポンド(226kg)
最大飛行時間:不明

■ULTRA(Windracers)

ULTRA
新型コロナウイルス関連物資のNHS(英国国民保健サービス)医療サプライチェーンを支援するため、Solent Transport(旧「TfSH」)によるワイト島への医療物資輸送やシリー諸島への医療物資ドローン輸送作戦「Cornish project」に使用されたイギリスWindracers社のダブルエンジン固定翼貨物ドローン「ULTRA」。
【スペック】
最大航続距離:1000km
巡航速度:不明
可搬重量:100kg
最大飛行時間:不明

■Black Swan(DRONAMICS)

Black Swan
ヨーロッパ5箇国(ベルギー、クロアチア、フィンランド、イタリア、スウェーデン)の空港を結ぶ世界初の貨物ドローンポートネットワークを構築するブルガリアDRONAMICS Global社の固定翼貨物ドローン「Black Swan」。
【スペック】
最大航続距離:2500km
巡航速度:不明
可搬重量:350kg
最大飛行時間:不明

ドローンデリバリー機体まとめ

以上、医療物資のドローン配送で使用されているドローン機体(UAV)を中心に見てきた。もちろん最大ペイロード積載時の航続距離が最大航続距離より短くなることは考慮しなければならないが、それを加味しても航続距離が数から10kmということはない。ただ単に医療物資のドローンデリバリーで使用されている日本製ドローン機体がないというだけだ。そしてそれがドローン後進国日本の現実である。世界では医療物資のドローン物流が医療サプライチェーンに変革をもたらしている。


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?