不妊治療ではどんなことをするの?②体外受精

体外受精のプロセスは?

体外受精は5つ過程と必要に応じて6つ目の胚凍結の過程があります。
①卵胞を複数発育するための「卵巣刺激」
②卵子を採取する「採卵」
③体の外で卵子と精子を受精させる「体外受精」もしくは「顕微授精」
④受精後に培養した受精卵を子宮の中に移植する「胚移植」
⑤着床や妊娠維持にとって重要なプロゲステロン(黄体ホルモン)を補充する「黄体補充」
⑥すぐに使用しない受精卵を凍結保存する「胚凍結」を含みます。

体外受精の実際

その詳細について解説していきます。

卵巣刺激

通常、1回の月経周期で発育し排卵する卵胞は1個で、それと同時に約30個の卵胞が消えていきます。その消えるはずの卵胞も育ててあげる方法が卵巣刺激です。卵巣刺激をすることで、1回の採卵で複数の卵子を採取して妊娠率を上げることができます。
体外受精における卵巣刺激法は、刺激の強さによって、高卵巣刺激法中卵巣刺激法低卵巣刺激法および自然周期法があります。


卵巣刺激法の種類

それぞれの方法のメリットとリスク

高卵巣刺激法は、卵巣予備能の中で最大の卵子を採取でき、1回の採卵で妊娠できる確率が高くなります。
一方で、排卵誘発薬を連日注射する必要があり、身体的負担や排卵誘発薬の金銭的負担も大きく、かつ卵巣が腫れてお腹の中に腹水がたまる卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の発生リスクが高いです。
逆に低卵巣刺激法や自然周期は、OHSSのリスクはほとんどないのですが、採取できる卵子数が少ないため、高卵巣刺激法よりは妊娠成績は低くなります。

どの卵巣刺激法が主流なの?

世界で最も行われている卵巣刺激法は高卵巣刺激法で、特にロング法やショート法よりOHSSの発生リスクが少し低いアンタゴニスト法です。特にアメリカやイギリスでは95%以上が高卵巣刺激法で行われています(文献1)。しかし日本ではさまざまな卵巣刺激法が用いられています。その理由は、1個良好な受精卵を移植することを基本としていることと、世界と比較して凍結技術が高いため、必ずしも高卵巣刺激法をすべての方に行う必要がないためです。筆者は主には中卵巣刺激法を行っており、必要に応じて高卵巣刺激法や低卵巣刺激法を行っています。

それぞれの卵巣刺激法はどうやって選択する?

卵巣刺激法の選択基準は、主には卵巣予備能と年齢、卵巣刺激を行った既往があればその所見をもとに決定します(文献2)。さらに患者さんの希望や病院の方針などを含めて検討する場合もあります。

採卵

卵胞が十分に発育するとLHサージの影響を受けて、卵胞の壁にくっついていた卵子は成熟し、排卵に向けて卵胞の壁から剥がれます。排卵する前の卵胞の中に卵子が浮遊しているときに、卵胞に針を刺して吸引し、卵子を採取する方法が採卵です。

採卵のタイミングは?

採卵は、卵子が成熟しかつ排卵する前の数時間に採取する必要があるため、そのタイミングが非常に重要です。卵胞が十分に発育し、卵子の成熟を誘導(排卵誘起)するためにGnRHアゴニスト点鼻薬もしくはhCG製剤の注射を行い、通常34~36時間後に採卵するのが理想的です。基本、卵胞が発育しLHサージがはじまる前の夜に、排卵誘起を行い2日後の午前中に採卵を行います。卵胞成熟の排卵誘起を夜に行うことと、採卵後の卵子の処理や体外受精の作業が必要なため、採卵は基本午前中になります。

採卵の痛みってどんな感じ?

採卵は、痛みも伴うので患者さんが最も恐怖心をもたれている点かと思います。ただ見えないところで作業が行われているため、心配になり不安で過度に痛みが強くなる可能性があります。きちんと方法を知ってから採卵にのぞめば、不安や痛みが少しでも軽減するかと思います。
患者さんがよく考えている採卵のイメージは図の通りです。腟から長くて太い針で奥深くの卵巣に穿刺すると思っている方が多いと思います。それは間違いです。超音波検査は接した物しか見ることはできません。そのため超音波検査で卵巣を診察しているときは腟を通して卵巣と接しています。そのため穿刺する距離は思っているより非常に短いです。また卵巣自体にはほとんど痛覚がありません。特に痛みを感じるのは腟壁です。また穿刺する針も以前と比べて非常に細くなり、今では採血する針と変わりません。

一般的な採卵方法のイメージと実際

体外受精および顕微授精

採卵の当日にパートナーに精子を採取していただき、その精子と採卵した卵子を受精します。
受精方法には、精子と一緒に培養して自然に近い受精を行う通常の体外受精と良好な運動率と形態の正常な精子をひとつ選んで卵子の中に入れる顕微授精があります。
一般的に重度な男性不妊症がない場合の受精率は、体外受精で60~70%、顕微授精で75~85%と顕微授精のほうが受精率は高いです。そのため、受精率だけを考えれば顕微授精を選びたくなります。
ただ顕微授精は通常の精液であれば数億存在する精子の中から1つの精子を選ぶので、体外受精の中で最も人工的な作業になります。精液所見が正常で卵子も十分にとれれば、通常の体外受精になります。

顕微授精でないと妊娠できない場合は?

しかし、顕微授精を行わないと妊娠しない方もいます。特に重度の乏精子症や精子無力症、無精子症は顕微授精が必須です。また精子所見がある一定の基準を超えているにもかかわらず、体外受精でほとんど受精しない受精障害の方は、顕微授精が必要です。
受精障害は、通常の体外受精をやってみてはじめてみつかる不妊原因で、軽度な症例も含めると体外受精を行うカップルの10%近くに受精障害があることがわかっています(文献3)。

胚移植

受精卵は、受精した後に2細胞、4細胞、8細胞…と分割し、桑の実のような桑実胚を経て胚盤胞となり、透明帯という殻から孵化して、子宮に着床します。
胚移植とは受精後の胚を子宮内に移植することで、その方法には大きく分けて2つあります。体外受精および顕微授精を行った2~3日後の4~8細胞期胚で移植する「初期胚移植」と、胚盤胞まで培養してから移植を行う「胚盤胞移植」があります。

胚移植のタイミング

通常、初期胚移植は移植後に胚盤胞まで到達しない可能性もあるため、35歳未満でも妊娠率はおよそ20~35%程度です。胚盤胞移植では、35歳未満で35~60%が妊娠します。
最近の受精卵の培養液や培養器は改良に改良を重ねて非常に良いものばかりで、胚盤胞にならない受精卵はほとんど妊娠することはありません。そのため、胚盤胞移植のほうが良さそうですが、非常にまれですが受精卵の中には培養が合わない受精卵もあります。

胚移植の種類

また胚移植には、採卵し体外受精をしたあとに胚移植を行う新鮮胚移植と、体外受精した受精卵を一度凍結しその後改めて解凍して移植する凍結融解胚移植があります。2017年の日本の初期分割胚もしくは胚盤胞を1個ずつ移植した新鮮胚移植および凍結融解胚移植のデータを示します(文献4)。

凍結胚のほうが妊娠率が高いことがある?

初期胚移植であれば、着床に影響する卵巣刺激法を選択していなければ、新鮮胚移植でも凍結融解胚移植でも妊娠率はほとんど変わりません。しかし胚盤胞移植を行う場合は、採卵周期で移植を行う新鮮胚移植と比較し、一度凍結しその後改めて解凍して移植する凍結融解胚移植のほうが、妊娠率が有意に高くなります。

初期分割胚もしくは胚盤胞の新鮮胚移植・凍結融解胚移植の妊娠率

黄体補充

黄体ホルモンは妊娠のために非常に重要なホルモン

排卵後の卵巣にできる黄体から放出されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、子宮内膜が受精卵を受け入れられるように準備をし、また着床後も妊娠を維持するために非常に重要なホルモンです。

体外受精では黄体補充は必須です!

体外受精の高卵巣刺激法において、排卵抑制目的で投与するGnRHアゴニスト製剤もしくはGnRHアンタゴニスト製剤は、黄体を形成するホルモンであるLHを抑えるため、黄体機能が低下しやすくなります。
さらに採卵をすることで卵子のまわりついている黄体形成にかかわる顆粒膜細胞も吸引されるため、黄体形成が不十分になります。そのため、胚移植、特に新鮮胚移植において黄体補充は必須です。

胚凍結

現在、体外受精で生まれてくる子どもの約90%は凍結胚から生まれています(文献5)。そのため胚凍結は生殖補助技術に欠かせない技術です。通常は採卵周期にできた受精卵を1個子宮内に移植し、残った受精卵は凍結しておきます。

胚を凍結するメリットは?

高卵巣刺激法を行った採卵周期では、通常卵子を採取するのには適していますが、異常なホルモン状態になり、子宮内膜が通常より薄くなることや、黄体機能が低下することもあり、着床にとってはベストではなくなります。そのため採卵周期には胚移植をせずに、胚凍結を行うことも多いです。また胚凍結をすることで、卵巣刺激症候群(OHSS)も予防できます。
胚凍結法は、液体窒素で急速に凍結するガラス化保存法が開発され、胚のダメージも非常に少なくなり、胚生存率も安定しました。一度凍結した受精卵は、凍結したときの年齢の妊娠率および流産率を保つことができます。女性の年齢による妊孕能(妊娠できる能力)の低下は、卵子の問題で子宮はあまり年齢の影響を受けません。そのため、妊娠できる受精卵さえ凍結してあれば、閉経した場合でも妊娠することは可能なのです。

参考文献


1. 黒田恵司. 卵巣刺激法の国際比較とその成績. 産婦人科の実際 2021;70:1579-85.

2. Kuroda K, Katagiri Y, Ishihara O: Optimal individualization of patient-oriented ovarian stimulation in Japanese assisted reproductive technology clinics, a review for unique setting with advanced-age patients. The journal of obstetrics and gynaecology research 2022.

3. 栁田 薫, 高田 智. 顕微授精での受精障害. 医学のあゆみ 2007;223:85-9.

4. Irahara M, Kuwahara A, Iwasa T, et al: Assisted reproductive technology in Japan: a summary report of 1992–2014 by the Ethics Committee, Japan Society of Obstetrics and Gynecology. Reproductive Medicine and Biology 2017;16:126-32.

5. Katagiri Y, Jwa SC, Kuwahara A, et al: Assisted reproductive technology in Japan: A summary report for 2019 by the Ethics Committee of the Japan Society of Obstetrics and Gynecology. Reprod Med Biol 2022;21:e12434.

 

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