不妊治療ではどれくらい通院しなければいけないの?

不妊治療がはじまると何度も通院しなきゃいけないから、仕事しながらでは無理かな…、と諦められている方もいるかもしれません。通院回数や診療時間を知っておくと仕事などとの調整にも役立ちますので解説していきます。

タイミング法と人工授精

タイミング法や人工授精は、超音波検査やホルモン検査、基礎体温などで排卵日を予測し、妊娠しやすいタイミングで性交渉もしくは人工授精を行う方法です。
通院回数は、排卵障害の有無によって異なります。

排卵障害がない場合

卵胞(卵子の入っている袋)の発育の確認のため排卵前の月経10~14日目頃に受診、排卵日を予測し、性交渉もしくは人工授精のタイミングを検討します。1カ月の通院回数はタイミング法で1~2回、人工授精で2~3回程度です。

排卵障害がある場合

月経初期に受診し排卵誘発薬を処方する必要があります。しかも、卵胞発育の確認のための診察が必要で、卵胞がゆっくり育つ場合は2~3回診察が必要になることもあります。そのため、1カ月の通院回数はタイミング法で2~4回、人工授精で3~5回程度と多くなります。

診察時間

通常、採血することは少ないので、超音波検査だけなら1時間程度、人工授精を行う日は精子の処理をする時間が必要になるので1~2時間くらいかかります。

体外受精

体外受精では、➀卵胞を複数発育するための卵巣刺激、②卵子を採取する採卵、③採取した精子と卵子を体外で受精する体外受精および顕微授精、④受精した受精卵(胚)を子宮内に入れる胚移植、⑤着床や妊娠維持にとって重要な黄体ホルモンを補充する黄体補充の5つの過程があります。

卵巣刺激法の種類

大きく分けて3つあり、連日注射して多数の卵胞を発育させる高卵巣刺激法、卵巣刺激の内服薬と1日おきの注射を投与する中卵巣刺激法、さらに卵巣刺激の内服薬のみもしくは卵巣刺激を行わない低卵巣刺激法もしくは自然周期法です。

現在、卵巣刺激で使う注射は非常に細い針が採用され痛みも少ない自己注射製剤が主流となり、通院回数がかなり減りました。
おそらく卵巣刺激の注射のために通院しながら仕事するのは、かなり難しいかと思います。

どの卵巣刺激法が良いの?

世界で最も行われている卵巣刺激法は高卵巣刺激法で、多数の卵子獲得を目指す方法です(文献1)。基本連日注射をする必要があり、身体的負担も大きく、かつ卵巣が腫れてお腹に水が溜まってしまう「卵巣過剰刺激症候群」OHSS)などの合併症のリスクも高くなります。身体的負担の軽減を考慮した場合や、OHSSのリスクが高い場合、また卵巣予備能が低く過去の高卵巣刺激法で採取卵子数が少なかった場合は、中卵巣刺激法を選択します。
卵巣予備能(卵巣にある卵子の質と量)が著しく低い場合には、低卵巣刺激法もしくは自然周期法を選択します。ただ最終的な卵巣刺激法は、患者さんの希望や仕事の都合や環境を考慮して選択します(文献2)。

通院回数とタイミング

注射回数や卵胞が大きくなる速度によって異なりますが、採卵までに通常2~3回程度です。また高卵巣刺激法や中卵巣刺激法で排卵を抑制する薬を使えば採卵する日を多少ずらすことも可能です。しかし排卵抑制を行わない場合は採卵日の調整が難しいことも多く、突然来院日を指定されることがあります。
どうしても受診できない日程があるときは、卵巣刺激を開始する前から医師と相談することも大切です。

採卵から妊娠判定までのプロセス

卵子を成熟させるための注射や点鼻薬を行い34~36時間後に採卵を行います。通常その卵子成熟を促す注射や点鼻薬は、採卵の2日前の夜に行い、採卵は午前中に行います。

体外受精における通院回数

採卵の方法と麻酔

採卵は経腟超音波を併用して、腟から卵巣に穿刺し卵子をとります。発育卵胞数が多数あり穿刺に伴う痛みが強いことが予想される場合には、静脈麻酔などで疼痛コントロールを行い、発育卵胞数が少ない場合には、鎮痛薬や局所麻酔のみで採卵が可能です。
鎮痛薬や局所麻酔のみ用いた採卵であれば、採卵の終わった後に仕事を行うことは可能です。しかし、静脈麻酔を用いた場合は、採卵時間は短くても麻酔をかける時間と覚ます時間があるため長時間を要します。また麻酔の影響で頭がぼーっとしてしまい、当日仕事をすることが難しい場合が多いです。

胚移植のタイミング

胚移植は採卵の2~5日後に行います。仕事で忙しく時間がない患者さんであれば、受精卵の段階で液体窒素に凍結保存し、時間ができた時期に胚移植を行うことも可能です。胚移植を行えば、胚移植の9~13日後に妊娠判定があります。
採卵以降の通院回数は、胚移植を行うなら3回、すべて胚凍結するなら2回になります。つまり採卵後に新鮮胚移植をする場合、卵巣刺激から妊娠判定までに、5~7回も通院する必要があります。

体外受精をしてから仕事を休まなければならないようなことはあるの?

体外受精に伴うOHSSなどの合併症が起きてしまった場合は、急遽仕事を長期で休まなければいけなくなる可能性があります。
日本では採卵周期あたり中等度以上のOHSSは約1%に起きており(文献3)、重症な場合は週1~2回の定期的な外来フォローが必要で、生活にも支障が出ます。場合によっては入院し、厳重な管理が必要となります。
OHSSなどの合併症は卵巣刺激が強すぎる場合に発症リスクが高くなります(文献3)。仕事との両立やそれぞれの卵巣予備能を考慮して、卵巣刺激法の選択が必要です。

仕事を続けながら体外受精を行うには

体外受精になると、「全胚凍結」を選択したとしても、月に最低4回は通院が必要になります。「新鮮胚移植」であれば、最低5回です。


不妊治療別の通院のタイミングと回数の目安

クリニックでかかる時間

診察は通常採血し当日結果を確認することも多いため、やはり1~2時間はかかります。
採卵当日は局所麻酔や鎮痛剤のみだと採卵する時間は10分以内でも、その後に卵子や精子の確認や処理などの時間もあるため、2~3時間はかかります。静脈麻酔であれば、最低半日はかかります。採卵後の仕事は、局所麻酔や鎮痛薬のみであれば可能ですが、静脈麻酔では難しいです。

卵巣刺激法の選択

高卵巣刺激法でたくさん卵子をとれば、もちろん1回の採卵周期での妊娠成績は良好です。ただ連日の注射による体の負担、静脈麻酔の必要性や合併症が起きるリスクもあります。だからといって低卵巣刺激法だと、その後の妊娠成績は低くなります。
中卵巣刺激法は適度な卵巣刺激で合併症のリスクも低く、仕事をしている女性には向いているかもしれません。ただ、もし仕事に時間的な余裕がある月があれば、高卵巣刺激法を行いすべての受精卵を凍結して、落ち着いてから凍結融解胚移植を行う方法もあります。

不妊治療と仕事の両立をサポートするための制度

不妊治療と仕事の両立のために、少しずつですが国や企業や医療施設がサポートできるシステムを作っています。不妊治療に通いやすい環境整備のための、次世代育成支援対策推進法に基づく「行動計画策定指針」の改正による休暇制度や柔軟な働き方の導入、さらには「不妊治療と仕事の両立がしやすい環境整備に取り組む企業」に対する認定事業が行われています。
一部の企業では相談窓口の設置や産業医や産業保健スタッフによる不妊相談ができるようになってきました。

不妊治療連絡カードの活用

ただ、まだまだ企業のサポートが難しい場合もありますので、適宜「不妊治療連絡カード」を活用してください。
不妊治療連絡カードは、仕事をしながら不妊治療を受ける、または今後予定している方が、企業に不妊治療中であることを伝える、または治療のために勤務する企業の両立支援制度等を申請するための申請書です。
使える制度をぜひ活用して、仕事をしながらも不妊治療が継続できる方法を見つけてください。


参考文献

  1. 黒田恵司:特集 排卵誘発のすべてⅡ ART編 6.卵巣刺激法の国際比較とその成績. 産婦人科の実際 2021;70(13):1579-85.

2. Kuroda K, Katagiri Y, Ishihara O: Optimal individualization of patient-oriented ovarian stimulation in Japanese assisted reproductive technology clinics, a review for unique setting with advanced-age patients. The journal of obstetrics and gynaecology research. 2022.

3. Kuroda K, Nagai S, Ikemoto Y, et al: Incidences and risk factors of moderate-to-severe ovarian hyperstimulation syndrome and severe hemoperitoneum in 1,435,108 oocyte retrievals. Reprod Biomed Online 2021; 42(1): 125-32.

 

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