間違いだらけの不妊治療(一般不妊治療編)

不妊治療に関して、インターネットではたくさんの情報が流れています。すぐに情報が得られるので、非常に便利なのですが、その一方で間違っている情報もたくさんあります。
患者さんから実際に聞かれた質問に沿って、間違いのない情報を説明していきたいと思います。

Q.  閉経するまで妊娠・出産はできますか?

いつまで妊娠ができるか、というのは非常に難しい質問です。
閉経は平均50歳ですが、50歳近くまで妊娠できるなんてことはありません。ときどき海外セレブなどで50歳超えて妊娠・出産したというニュースが流れることがあります。あたかも自分の卵子で妊娠したかのように聞こえますが、通常は若い女性からの卵子提供を受けて体外受精を行っています。

年齢があがれば閉経していなくても卵子の数・質は低下していく

卵巣内の卵子は年齢とともに減少し、35歳くらいからその減少率も加速して、閉経になる数年前には妊娠・出産できる卵子がほぼなくなっています。流産率も30歳前半は10~15%ですが、30歳後半には20%を超えて、40歳には40%を超えます(文献1)。
つまり、卵巣内の卵子の数と質の両方が年齢とともに低下します。理想をいえば、30歳代前半までに妊娠・出産するのが理想です。体外受精でも妊娠・出産できる可能性が十分にあるのは、40歳までです。40歳を超えると体外受精の妊娠成績は格段と低くなります。

若年で閉経することもある

また閉経は40~50代だけの問題ではありません。20代で1,000人に1人以上、30代で100人に1人以上に早発閉経が起き、40歳未満の全女性の3~4%が閉経します(文献2)。

卵巣予備能は回復しない

残念ながら、低下してしまった卵巣予備能を上げることはできません。下がってしまっていたら、少ない卵巣予備能で不妊治療に臨むしかありません。

妊娠は少しでも早いほうがよい

もし35歳以上の女性で妊娠を考えていたら、少しでも早く妊活を始めた方が良いです。結婚していて将来妊娠する予定があれば、産婦人科で自分の卵巣予備能を確認するために、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値を採血してみるのもよいかと思います。

Q.  低用量ピルを飲み続ければ排卵しないので、卵子が減らないですか?

排卵を抑えても卵子は減っていきます…

低用量ピルを飲んで排卵をおさえても、残念ながら卵巣予備能は低下します。もともと1回の月経周期で通常排卵できるのは、1~2個ですが、そのときに約30個の卵子が消えていきます。排卵をおさえても、月経周期ごとに消えていく卵子までおさえることはできません。

低用量ピルのメリットは月経痛や子宮内膜症を抑えること(結果的に妊娠力も保てるかもしれません)!

ただ、月経痛が非常に重い方の中には、実は子宮内膜症をもっていることがあります。子宮内膜症は、子宮内膜や子宮内膜様の組織がお腹の中の子宮以外の臓器に生着して、月経痛を重くしたり妊娠しにくくすることのある病気です。
また子宮内膜症は超音波検査で診断をつけることが難しく、多くが腹腔鏡手術などでお腹の中を覗いてみないと診断がつきません。
低用量ピルは月経痛をおさえる効果があり、かつ子宮内膜症の進行をおさえます。子宮内膜症は卵巣予備能の低下を加速する因子のひとつですので、妊娠予定がしばらくなく、かつ子宮内膜症の診断がついている方や月経痛が重い方であれば、低用量ピルの内服は妊娠力を保つために重要です。

Q. 着床出血があったのに妊娠しませんでした。どうしてですか?

着床出血なんてありません!

インターネット上で「着床出血」なんて言葉が出回っているみたいですが、そんなものはありません。受精卵は肉眼でギリギリ見えるか見えないかの小さなものです。それが着床したところで出血することはありませんし、出血したとしても目に見えるほどの出血にはなりません。

それ「切迫流産」かもしれません

「着床出血があったんです!」といっている妊娠された方の場合、流産しかけている「切迫流産」の場合があります。妊娠検査が陽性に出てから出血を認めるときは、適宜産婦人科医へ相談し、すぐに安静にすることが大切です。

Q.  不妊スクリーニング検査をしましたが、特に異常がありませんでした。タイミング法でも妊娠できますよね?

原因がない=自然妊娠できる、ではない

検査で不妊原因がみつからない場合を、原因不明不妊症といい、不妊原因がないため不妊治療をしなくても自然妊娠ができると思ってしまう方がいます。しかし、不妊原因がないのではなく検査が不可能な原因がある場合がほとんどです(文献3)。

調べられない不妊原因があります

精査ができない不妊原因には、①卵管通過性があるにもかかわらず卵管が働いていない卵管機能障害、②卵子と精子が出会っても受精できない受精障害、③子宮内に特に病気が存在しないにもかかわらず受精卵が子宮内に着床できない着床障害などが考えられます。
不妊原因が見つかり、その原因を治療できれば良いのですが、見つからなければむしろタイミングや人工授精では妊娠が難しく、体外受精まで必要になる場合がほとんどです。

参考文献
1. Nybo Andersen AM, et al. Maternal age and fetal loss: population based register linkage study. BMJ. 2000;320(7251):1708-12.
2. Golezar S, et al. The global prevalence of primary ovarian insufficiency and early menopause: a meta-analysis. Climacteric. 2019;22(4):403-11.
3. Kuroda K, Ochiai A. Unexplained Infertility: Treatment Strategy for Unexplained Infertility. In: Kuroda K, Brosens JJ, Quenby S, Takeda S, editors. Treatment Strategy for Unexplained Infertility and Recurrent Miscarriage. Singapore: Springer Singapore; 2018. p. 61-75.

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