どうすれば不妊治療と仕事を両立できるの?

不妊治療と仕事の両立は難しい!しかし…

仕事をしてキャリアを積む中で、女性は妊娠・出産の時期をいつにすべきか悩む方も多いと思います。総務省の労働力調査によると、日本の雇用者のうち女性の割合は年々増加して、2017年にすでに40~50%を占めており、20~44歳の生殖年齢の女性の7割以上が仕事をしていることがわかっています(文献1)。

職場の理解は重要

30代に入って、キャリアを積んで重要な仕事を任されるようになってくるころには、ちょうど妊娠適齢期があり、仕事を優先すると妊娠・出産のチャンスを逃してしまうかもしれません。妊娠・出産に理解のある仕事場であればよいのですが、なかなか理解してくれることも少ないと思います。

不妊治療の来院日はスケジュールしにくい

まして不妊治療は、月経の来る時期や卵巣の中の卵胞の発育してくるタイミングで来院日が突然決まるため、なかなか先の予定が立たず、仕事をしている女性には不妊治療を続けることが難しい場面が多々あります。

言い出しにくい環境もある

また不妊治療をしているということを、仕事場でなかなか言い出せないという方もいるかもしれません。私たちが行った不妊治療を行っている女性を対象とした大規模なアンケート調査でも、不妊治療と就労の両立を困難と答えていた女性は、実に83%もいました(文献2)。
ここでは仕事と不妊治療を両立していくための方法を解説していきます。

不妊治療における通院回数を知ろう!

まず不妊治療における通院回数を知っておくと仕事の調整に役立ちます。
不妊治療別の通院のタイミングと回数の目安を表に示します。

不妊治療別の通院のタイミングと回数の目安

タイミング法、人工授精での通院回数

一般不妊治療であるタイミング法や人工授精は、超音波検査やホルモン検査で卵胞の大きさの確認や排卵日の予測を行います。通院回数は、排卵障害がない場合は、卵胞発育の確認のため排卵前の月経10~14日目頃に受診し排卵日を予測し、性交渉もしくは人工授精のタイミングを検討するため、1カ月の通院回数はタイミング法で1~2回、人工授精で2~3回程度です。
排卵障害がある場合は、月経初期に受診し排卵誘発薬を処方する必要があります。しかも、卵胞発育の確認のための診察が必要で、卵胞がゆっくり育つ場合は2~3回診察が必要になることもあります。そのため、1カ月の通院回数はタイミング法で2~4回、人工授精で3~5回程度と多くなります。

体外受精を行う場合の通院回数

体外受精では、主に➀卵巣刺激(排卵誘発)、②採卵、③体外受精および顕微授精、④胚移植、⑤黄体ホルモンを補充する黄体補充の5つの過程があります。
卵巣刺激法は、大きく分けて3つあり、連日卵巣刺激の注射を行う高卵巣刺激法、卵巣刺激の内服薬と1日おきの注射を投与する中卵巣刺激法、さらに卵巣刺激の内服薬のみもしくは卵巣刺激を行わない低卵巣刺激法もしくは自然周期法です(図)。

もし通院で卵巣刺激の注射をしながら仕事するとしたら、仕事との両立はかなり難しいかと思いますが、現在では、卵巣刺激で使うゴナドトロピン製剤という注射も自己注射が主流となり、通院回数がかなり減りました。

卵巣刺激法によって身体への負担、通院回数も変わる

世界で最も行われている卵巣刺激法は高卵巣刺激法で、多数の卵子獲得を目指す方法です。1回の採卵での妊娠率は高いのですが、基本連日注射をする必要があり、身体的負担も大きく、かつ卵巣過剰刺激症候群(OHSS)といった合併症のリスクも高くなります。身体的負担の軽減を考慮した場合や、OHSSのリスクが高い場合では、中卵巣刺激法を選択します。卵巣予備能が著しく低い場合には、低卵巣刺激法もしくは自然周期法を選択します。ただ最終的な卵巣刺激法は、患者さんの希望や仕事の都合や環境を考慮して選択します。
通院回数は、注射回数や卵胞が大きくなる速度によって異なりますが、採卵までに通常2~3回です。

採卵日を抑制して採卵する日を多少調整することすることもできる

また高卵巣刺激法や中卵巣刺激法で排卵抑制する薬(GnRHアンタゴニスト製剤など)を使えば採卵する日を多少ずらすことも可能です。しかし排卵抑制を行わない場合は採卵日の調整が難しいことも多く、突然仕事を休まなければいけなくなることもあります。どうしても仕事で受診できない日程があるときは、卵巣刺激を開始する前から医師と相談することも大切です。

採卵や胚移植とそれに伴う仕事への影響

採卵から妊娠判定までの過程を図に示します。

採卵のスケジュール

卵巣刺激後に十分に卵胞が発育すれば、hCG製剤もしくはGnRHアゴニスト製剤により卵子の成熟を誘導し、その34~36時間後に採卵を行います。成熟卵を採取するうえで、 hCGもしくはGnRHアゴニスト製剤の投与時間は非常に重要です。また通常 hCGもしくはGnRHアゴニスト製剤の投与は、採卵の2日前の夜に行い、採卵は午前中に行います。

麻酔の種類によっては、当日の仕事に影響する場合がある

採卵は経腟超音波を併用して、腟から卵巣に穿刺し卵子をとります。発育卵胞数が多数あり穿刺に伴う痛みが強いことが予想される場合には、静脈麻酔などで疼痛コントロールを行い、発育卵胞数が少ない場合には、鎮痛薬や局所麻酔のみで採卵が可能です。
鎮痛薬や局所麻酔のみ用いた採卵であれば、採卵の終わった後に仕事を行うことは可能です。しかし、静脈麻酔を用いた場合は、採卵時間は短くても麻酔をかける時間と覚ます時間があるため長時間を要します。また麻酔の影響で頭がボーッとしてしまい、当日仕事をすることが難しい場合も多く、場合によっては家族に迎えにきてもらう必要があります。採卵当日も仕事をするようであれば、鎮痛薬や局所麻酔での採卵を推奨します。

胚移植のスケジュール

胚移植は採卵の2~5日後に行います。仕事で忙しく時間がない患者さんであれば、受精卵の段階で凍結保存し、時間ができた時期に胚移植を行うことも可能です。
胚移植を行えば、胚移植の9~13日後に妊娠判定があります。

採卵以降の通院回数は?

採卵が終わったあとの通院回数は、胚移植を行うなら3回、すべて胚凍結するなら2回になります。つまり採卵後に新鮮胚移植をする場合、卵巣刺激から妊娠判定までに、5~7回も通院する必要があります。

合併症もスケジュールに大きく影響する

体外受精に伴う合併症が起きてしまった場合は、急遽仕事を長期で休まなければいけなくなる可能性があります。合併症は、高卵巣刺激法によるOHSS、採卵し卵巣を穿刺した後の腹腔内出血や、細菌やウィルスが入り込んで起こる腹腔内感染などが挙げられます。

代表的な合併症:卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

OHSSは、卵巣の腫大とお腹の中などに腹水としてたまってしまう病気です。これにより、腹痛や呼吸困難になるだけではなく、重症になると血栓症などを引き起こすことがあります。日本では採卵周期あたり中等度〜重症なOHSSは約1%に起きており(文献3)、重症な場合は週1~2回の定期的な外来フォローが必要で、生活にも支障が出ます。場合によっては入院し、厳重な管理が必要となります。

腹腔内出血

採卵後の腹腔内出血は、主に穿刺した卵巣からの出血が持続しているため、手術による止血や入院による輸血などの緊急処置が必要となります。また腹腔内感染が起きた場合は、抗生剤の投与や緊急手術が必要になります。その発症率は腹腔内出血で0.05~0.2 %、腹腔内感染で0.1~0.6 %と非常に低いのですが、起きた場合にはいずれも早急な対応が必要になります(文献4,5)。

卵巣刺激の強さによって合併症のリスクは変わる

OHSSと腹腔内出血の合併症はいずれも、卵巣刺激が強すぎる場合に発症リスクが高くなります(文献3)。仕事との両立やそれぞれの卵巣予備能を考慮して、卵巣刺激法の選択が必要です。

仕事を続けながら不妊治療を行うには

これまでの話を踏まえて、仕事を続けながら不妊治療を行うにはどうすればよいでしょうか?
体外受精になると最低でも月に4回は通院が必要になり、診察は通常採血し当日結果を確認することも多いため、やはり1~2時間かかります。採卵は局所麻酔や鎮痛薬のみであれば採卵後に仕事することは可能ですが、静脈麻酔まで行えば当日は仕事ができない可能性もあります。
高卵巣刺激法でたくさん卵子をとれば、もちろん1回の採卵周期での妊娠成績は良好です。ただ連日の注射による体の負担、静脈麻酔の必要性や合併症が起きるリスクもあります。だからといって低卵巣刺激法だと、その後の妊娠成績は低くなります。中卵巣刺激法は適度な卵巣刺激で合併症のリスクも低く、仕事をしている女性には向いているかもしれません。
ただ、もし仕事に時間的な余裕がある月があれば高卵巣刺激法を行い、すべての受精卵を凍結して、落ち着いてから凍結融解胚移植を行う方法もあります。

まだまだある、仕事と不妊治療の両立の問題点

また仕事と不妊治療を両立するには、通院回数の問題だけではなく、さまざまな問題があります(図)。不妊治療に伴う高額な医療費負担があるにもかかわらず世帯収入の問題で仕事の継続が必要だったり、診察で急に休みをとらなければいけなかったり、職場へカミングアウトができなかったり、不妊治療をやっていることの心理的なストレスや場合によってはハラスメントを経験している方もいます。

不妊治療に対するサポートシステム

これらに対して、少しずつですが国や企業や医療施設がサポートできるシステムをつくっています(図)。

金銭面に関しては保険適用の拡大や各自治体の助成制度、心理的サポートとして各自治体の不妊専門相談センターや医療施設におけるカウンセリングなどがあります。
また不妊治療に通いやすい環境整備のための、次世代育成支援対策推進法に基づく「行動計画策定指針」の改正による休暇制度や柔軟な働き方の導入、さらには「不妊治療と仕事の両立がしやすい環境整備に取り組む企業」に対する認定事業が行われています。一部の企業では相談窓口の設置や、産業医や産業保健スタッフによる不妊相談ができるようになってきました。

不妊治療連絡カードを活用しよう

ただ、まだまだ企業のサポートが難しい場合もありますので、適宜「不妊治療連絡カード」を活用してください。不妊治療連絡カードは、仕事をしながら不妊治療を受ける、もしくは今後予定している方が、企業に不妊治療中であることを伝える、または治療のために勤務する企業の両立支援制度等を申請するための申請書です。
使える制度をぜひ活用して、仕事をしながらも不妊治療が継続できる方法を見つけてください。

参考文献

1.       総務省統計局 平成29年(2017年) 労働力調査 (https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html)

2.       Imai Y, Kuroda K, et al. Risk factors for resignation from work after starting infertility treatment among Japanese women: Japan-Female Employment and Mental health in Assisted reproductive technology (J-FEMA) study. Occup Environ Med. 2020.

3.       Kuroda K, et al. Incidences and risk factors of moderate-to-severe ovarian hyperstimulation syndrome and severe hemoperitoneum in 1,435,108 oocyte retrievals. Reprod Biomed Online. 2021;42(1):125-32.

4.       Zhen X, et al. Intraperitoneal bleeding following transvaginal oocyte retrieval. Int J Gynaecol Obstet. 2010;108(1):31-4.

5.       Tureck RW, et al. Perioperative complications arising after transvaginal oocyte retrieval. Obstet Gynecol. 1993;81(4):590-3.

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