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【第35回】2023年7月6日 ZOOM対談-2

格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
堀内博志 先生(信州大学 リハビリテーション科 教授)

格谷:
これは順序としては最後の方で話をしようかなと思っていたんですけれども,constrainの程度とセメントレスの成績について触れておこうと思います。オーストラリアのレジストリーでfixationとconstrainの関係で面白いデータが出ていました。この3つのグラフはMinimally StabilizedとPSおよびMedial Pivotの比較です。ちなみにMedial Pivotが最近オーストラリアでは流行っていて一つのカテゴリーとして認知されているようです。

堀内:
そうみたいですね。

格谷:
その違いを見ていると,これはMinimally Stabilized はほぼCRでしょうが,どう見るかという問題はありますが,若干セメントの方がいいですがほとんど変わらないと。PSでもほとんど変わりないです。

堀内:
そうですね。

格谷:
ですがMedial Pivotだけセメントレスがすごく悪いんですよね。

堀内:
はい。

格谷:
もちろんこのデータは数も少ないし、機種も現在主に使用されているGMK Sphere(メダクタ)ではないようなので結論めいたことは言えませんが,constrainの程度とセメントレスの成績というのは大きなテーマですよね。セメントレスは正確な骨切りが必要だということはよくわかりますが,機種によってセメントレスとセメントの適応に違いがあるかという点についてはどのようにお考えになりますか?

堀内:
格谷先生の前で恐縮ですが,脛骨側のストレスに関しては脛骨側インサートを含めたdesign dependedだと思っています。そういう点ではconformityの高いものですね。僕は不利じゃないかなと思っています。
(いまこのタイミングではないかもしれないのですが)これはぜひ先生とお話ししたいなと。PCLを残す場合と残さない場合,まったく別の道を行くべきだという考えもあります。そう考えたときに,まずセメントレスにはPCLを残した方が脛骨側の応力が分散するのでいいだろうと。中川滋先生はPSでセメントレスをされているので手術がうまいと思いますが,脛骨側へのInitial fixationということを考えると,あまりストレスがかかるデザインはよくなくて,それなりのアディショナルな工夫をしないと早期のルースニング(緩み)が出るのではないかと思っています。いかがでしょう,先生。

格谷:
その通りだと思いますね。やはりセメントの場合は,CRとPSでいつもあまり差がないと言われています。要するにConstrainが長期成績にあまり負担を与えたという証拠はないと言われるんですが,それはセメント固定にセーフティーマージンがあるからとも考えられます。先に挙げたMedial Pivotのレジストリーデータはひとつの極端な例かもしれませんが,セメントレスになると関節面のConstrainが成績に影響を与えるということは絶対あると思いますね。セメントレスはすべての患者には適応できないでのではないでしょうか?

堀内博志先生大阪講演スライドより

堀内:
もちろんそうです。

格谷:
僕はセメントだからすべての患者に適応できますが,セメントレスはどこかで境界が出てくる。

堀内:
仰る通りです。

格谷:
その境界が,僕が感じるには「辺」ではなく「ゾーン」なんですよね。
危険ゾーン,安全ゾーン,クエスチョンゾーンみたいなのがあって。そこにやったときにはインプラントのConstrainがかなり効いてくるという印象ですね。

堀内:
そうなんですよね。

格谷:
今まではCRとPSは長期成績に差がなかったというのは,大多数の症例でセメントをしていたから非常にセーフティーマージンが大きかった。だけどセメントレスが広まってくると,グレーゾーンの時に今まで顕在化していなかった問題が出てくるんじゃないかと言うような懸念はありますね。

堀内:
仰る通りだと思います。やはり早期のルースニングというと脛骨側になると思いますが,それは患者選択になるのか,あとそれは脛骨側の,キールなりペグなりの初期固定を担保するようなデザインによるっていうところもあると思います。これらの組み合わせで,今先生が仰ったグレーか黄色かわからないですけど,そのあたりを狭められるんじゃないかと思います。

格谷:
赤信号,青信号…。黄色ですね,その方がわかりやすいですね(笑)。

堀内:
そんな気がします。

格谷:
さて,いきなり結構ディープな話題になって申し訳ないんですけれども。
後回しにしたら忘れそうなので。そのグレーゾーンは,HAが助けてくれますか?

堀内:
HAはいいです。

格谷:
グレーゾーンは特にHAがいいと考えた方がいいんですね? 言い換えると困ったときに助けてくれると。

堀内:
HA coatしたデザインとしては、NexGenの4ペグのスクリューというのがあります。僕の師匠の秋月章先生がスクリューも打たずに,本当にフラットものをやったんです。僕もやったんですが,8mmくらいの出っ張りが4個しかなくて,それが一例も緩んでないんです。

格谷:
先生からいただいたスライドでそれを見ました。

NexGen HA-TCP-coated cementless, screwless TKA
堀内博志先生大阪講演スライドより

堀内:
はい。下条竜一先生がInitial Gapの推移に関する論文を出されていますが,あの機種を使用する際には相当セレクトがかかっています。真っ平に切れた,軟部組織バランスもしっかりしているという症例にしかやっていないんですよね。師匠は「俺は全部これでやってるんだ」と話されますが,もう相当慎重派なので,実は陰では相当セレクトがかかってます。

格谷:
えー,秋月先生って慎重派なんですか?。

堀内:
実は慎重派なんですよ。
NexGenには摺動面は同じでも脛骨コンポーネントのデザインが異なる2つの機種があります。4ペグタイプともう一つ別に大きなステムタイプがあるんです。僕はそれが好きで,そのステムタイプを使うと,多少凸凹でも軟部組織バランスが多少心配でもパチッととまるんです。初期にインプラントがとまった後,どうしても隙間ができてしまうので,それ(initial gap)を埋めてくれるのはHA,特にZimmer Biometが持っていたHA-TCPが一番いいです。そのギャップが埋まって,オステオインテグレーションが起こってカチッととまるまでの不安定な時期を凌ぐことが大切です。三浦裕正先生も研究されていますけど,古典的にスリーブ,ステム,スクリューが初期固定性を安定させることがわかっています。それから,ペグも有効で,大きさや位置というところがひとつ勝負じゃないかと思います。だから,第一段階はカチッととまるというところ。それから第二段階は隙間を骨がしっかり埋めて,自分の骨でインプラントを覆いつくすという,二段階あると思います。一段階目はインプラントデザイン。第二段階で隙間を埋めてくれるのがHA,特にHA-TCPが画像上は一番よかったです。

格谷:
骨が入ってくる際には初期固定が必要なんですよね?

堀内:
はい,マイクロモーションが起こると骨はできないですね。骨折と同じなので。くっつかない感じになります。

格谷:
三浦先生の論文の内容はよく知らないんですが,キールとスクリューとペグですか?

堀内:
スリーブですね。

格谷:
何が一番いいんですか?

堀内:
スクリューとスリーブの併用が有効だったと書かれています。松田秀一先生は,スクリューはある程度の時期を過ぎるともう役割を果たしていないと報告されています。ですから,例えばキールの大きさや厚み,デザインなどになってくるので,一概にどれがいいとは言えないと思います。ただ,ペグ形状の違いによる固定性の差はわかっています。

格谷:
先生が今使っている,現状一般整形外科医が使えるセメントレスのインプラントで,先生が一番気に入ってる,固定性がいいと思われているのは何ですか?

堀内:
初期固定でカチッといくのはトライアスロンです。トライアスロンとZimmer BiometのPersonaを使っていますが,Personaは本当にペグが2個ポンと入ってるだけです。

Zimmer-Biomet社 Persona
堀内博志先生大阪講演スライドより

格谷:
大きいものが入ってるんですよね?

堀内:
そうです。

格谷:
Trabecular Metal(TM)のやつですよね。
 
堀内:
前のTMのものは3つあって,今のPersonaは2つになって位置も変わったんです。矢状面での制動性が少なそうなんですよね。ですので,やはり初期固定という点では不安定です。ただ,ステム,ペグ,キールができるだけ入らない方が母床には優しいので。それがカチッといくと,bone friendlyというか,あまりstress shieldingも起こらないので骨には優しいデザインだと思います。ただ,やはり初期固定には不安があるかなとは思います。桑沢綾乃先生が,ペグが歩くように動いたという症例を講演で話されているんですが,そんな感じのことが起こるのかなという気はします。

格谷:
TMにもHAコーティングっていうのはあるんですか?

堀内:
TMにはないですね。Zimmer BiometはNexGen以降,もうHAはやめました。HA-TCPだったんですが。

格谷:
いらないんですか? TMはHAはもういらないっていうことですね。

堀内:
そうですね。TMはもう3Dポーラスで固定するので,HAはいらないです。HAのほうがお金かかって,特にHA-TCPは高かったみたいです。人の手もかかりますし。

格谷:
Hipの業界では,HAの厚みや質,TCPがいい,プラズマ溶射がいいなど,HAの質について一時盛んに論議されたじゃないですか。膝はもうあんまりそんなこと言わないんですよ。HAしてるかしてないかだけみたいな感じですから。

堀内:
だと思います。僕自身はそこまでこだわったことがないので。あとは,本当に縁までHAコーティングするのか。キールを含めてどの範囲をコーティングするかは議論があると思います。

格谷:
わかりました。いきなりデザインとかHAの役割とか一番深いところまで話が行ってしまいました。

(つづく)


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