見出し画像

変革する組織・文化のつくり方

近年、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉を当たり前のように聞くようになりました。しかし、DXに取り組む中では、思うように進まず、さまざまな課題を抱える企業も多いのではないでしょうか。そこで、今回は、日本のDXを牽引するお二人をゲストにお迎えし、変革する組織・文化のつくり方について、お話をうかがいました。

【ゲストスピーカー】

福田 譲 氏
富士通株式会社 執行役員 EVP
CIO(兼)CDXO 補佐

1997年SAPジャパン入社、23年間勤務、2014~20年の約6年間、代表取締役社長。2020年4月、富士通に入社、現職。CDXO(最高デジタル変革責任者)を兼務する社長の補佐、および社内ITの責任者CIOとして、同社自身のDX、日本型DXの探索・実践とフレームワーク化、そしてそれらの変革を推進するITシステム、IT部門、IT人材、そしてITガバナンスへの変革に取り組んでいる。「日本を、世界をもっと元気に」がパーパス。
※LinkedIn「インフルエンサー・オブ・ザ・イヤー2020」最も発信力のあるリーダー10人に選出。

道下 和良 氏
LINE株式会社 AIカンパニー
カンパニーエグゼクティブ CCO
1997年 日本オラクル株式会社入社、16年間勤務、CRM/HCM事業本部長など担当。2013年8月 セールスフォース・ドットコム(現 セールスフォース・ジャパン)に入社、常務執行役員として製品営業部門などを担当。2019年6月 イスラエル創業のWalkMeの日本進出に伴い、日本法人の代表取締役社長兼カントリーマネージャー、また自身が最初の社員として同社の立ち上げを担う。2022年7月 LINE株式会社に入社、現職。並行してスタートアップ数社の社外役員やアドバイザーとしてビジネスや組織作りなどのサポートも行う。

―― 早速ですが、お二人はDXをどのように捉えていますか?

道下さん
客観的な言葉にして説明することはできますが、それよりも大事なのは、いかにして自分ごとにするか。この会場の皆さんにとってデジタルを活用するのは当たり前だと思いますが、一方でたとえば、最近話題になっている「ChatGPT」を「自分の業務で使用している人はいますか?」とお聞きすると、実際に使っている方はまだ少ないのではないでしょうか。(会場では1名のみ挙手)

これと同じように、企業経営者のみなさんが集まる機会に「自社でDXを推進しているという方は、手を挙げてください」と投げかけても、自信を持って手を挙げられる方は多くありません。会場のみなさんには当たり前なデジタル活用も、一般の企業経営者の方々にとっては、みなさんがまだChatGPTを業務活用していないのと同じような距離感だと思います。

それでは、なぜ私たちがChatGPTをまだ使わないのか?
自分ごとにして考えてみると、以下のような理由が考えられます。

●「まだ実用レベルではない」という技術に対する不信。
●「いまの仕事の進め方、ツールでも問題ない」という不要。
●「周りの人もまだ使っていないし、急ぐ必要はない」という不急。
●「自分は新しいものに飛びつくタイプではない」という内在的資質への自己評価や不適。

これらはすべて企業にもあてはまります。つまり、このような要因がありながらでも、「変えていくんだ」という強い意志を持って進めていくのがDXだと考えています。

―― 福田さんは、いかがでしょうか?

福田さん
たとえば、Amazonって何業界だと思いますか?

―― ECもやっていれば、ITサービスもやっているし、ひとことで表現するのは難しいですね。

福田さん
そうですよね。僕も最初にAmazonが出てきたときは、インターネット上の本屋だと勘違いしていました。でもいまは、音楽、映画、ITなど、さまざまなサービスを展開している。富士通の立場から見ると、味方なのか、敵なのかもわからない。これと同じようなことは、ほかにもあります。たとえば、テスラは何をやっている会社だと思いますか?

―― 自動車を造っていますが、パーパスは環境を意識していますよね。

福田さん
そうなんです。彼らは、自分たちをエネルギー業界のイノベーターだと言っています。僕らは、いまテスラを自動車業界だと勘違いしています。しかし、彼らからしてみれば、エネルギーをイノベーションする最初のデバイスが車というだけ。車を造ることが目的ではないのです。

つまり、デジタルをビジネスモデルそのものにする時代になってきていて、いろいろな業界をディスラプトしています。自分たちの会社は何屋なのか、再定義が必要な時代になってきています。

もう少し身近なところでは、毎日の働き方。僕が社会人になったばかりの頃、飲み会の待ち合わせは「渋谷のハチ公前に8時」でした。まだ、スマホも無かったので、決められた時間に決められた場所に行かないと会えませんでした。営業をしていた頃は、セミナーの案内をするのに何百枚もファックスを送っていました。それが、いまはメールやSNSで一斉に簡単にできる。個人としての働き方は、激変しました。

一方で、「会社の仕事のプロセス」は、ほとんど変わっていないと思いませんか? 20年前に構築された基幹システムを、そのまま使っている会社がたくさんあります。時代や個人のあり方は、ずいぶん変わったのに、仕事のプロセスは変わっていない。ここを変えていく手段のひとつが、DXです。

―― 「世界のデジタル競争力ランキング2022」において、日本は29位と過去最低の結果となっています。日本のDX推進が遅れているのは、どうしてなのでしょうか?

福田さん
「和を以て貴しとなす」という言葉の通り、日本は協調を重んじる国です。日本の文化や価値観は、もともと物事を変えることが苦手なのではないでしょうか。たとえば、何かを変えようとするとき、日本では事例を探して、成功例がなければ踏み込まない。でも、海外は逆です。前例があったら、二番煎じだからやらない、という判断もある。日本が平和で豊かな国だからこそ、コンクリフトを起こすとか、コンフォートゾーンから出ていくことが得意ではないと感じます。

道下さん
そのほかでは、「危機感」という言葉が思い浮かびます。最近、韓国のネイバーのみなさんと仕事をする機会が増えました。そこで気がついたのですが、韓国も協調を重んじる文化で、一緒に仕事をするとお互い尊重し合いながら協業できます。日本と文化的な同質性が高い一方で、IT競争力が進んでいたり、エンタメやファッションを牽引していたりする。そこには、「国内の市場が小さい」という危機感が確実にあると感じています。日本は、このような危機感が希薄というのもあるのではないでしょうか。

―― 変革できる組織をつくるには、まず、何から始めればよいでしょうか。

福田さん
雪だるまでいえば、真ん中の小さい玉が必要ですよね。それがないと、コロコロしても大きくなりませんから。どんな組織にも、「もっと良くしたい」と声を上げる行動力のある人たちはいるはずです。まずは、そういう人たちを集めて、コアをつくることから始めてみてはいかがでしょうか。

―― 富士通さんでは、全社DXプロジェクト「フジトラ」に取り組んでおられますが、チームメンバーはどうやって集めたのですか?

福田さん
社内SNSを活用しました。はじめは閑古鳥が鳴いていましたが、いまでは、12.4万人の社員の8割が社内SNSを使っています。8,000人の社員がSNS上のフジトラのコミュニティに参加しており、その中の「クルー」と呼ばれている650人は、自分の判断で業務時間の一部を、プロジェクトに自発的に割いていくメンバーです。このメンバーが、雪だるまの真ん中のコア。これをどのようにコロコロして大きくするかが、最初のステップです。「このままでは良くない」というのは、みなさんわかっているんですよね。でも、一人では声を挙げにくい。だから、勇気を出して「この指止まれ!」と指を突き上げれば、止まってくれる人はいますよ。

―― 「変革できる組織」になるために、あなたがあなたの立場を使って一番力を尽くしたことは何ですか?

道下さん
「やらないこと」を決めることです。やっぱり、みなさん目の前の仕事を優先しますよね。予算がついて、人がアサインされて、毎日の仕事がある。そうすると、優先バイアスが働いて、自分の業務を守ろうとします。「会社を良くしたい」と思っていても、「自分の業務を良くしたい」という方に意識が向いてしまって、全体の変革の妨げになることがあります。だからこそ「やらないこと」を決め、さらに予算を剥がし、アサインを外し、「もうやらない」という状態をつくる。そこまですると、動き出します。当然現場との葛藤もありますが、そこまで踏み込んでやれるのはリーダーだけです。

福田さん
僕は、やっぱり決断ですね。判断はマネージャーじゃなくてもできるじゃないですか。たとえば、「3年後に投資回収ができます」という報告が上がってきたらノーと言う理由はないですよね。マネージャーがやるべきことは、白か黒かわからないことの決断。自分が取れるリスクを背負って決断する。それが、僕が若い頃カッコイイと思っていた上司でした。「自分が憧れた人の姿を追うことを諦めない」というのが、ベースにあります。

―― マネジメントでは、マクロとミクロどちらを重視されていますか?

福田さん
時と場合によりますが、「何をしていいのかわからない」という人には、実際にやって見せて教える必要があります。でも、ある程度できる人に、箸の上げ下げまで指示したら、やる気を失くしてしまいます。その段階になったら、任せた方がいいですね。そして、パフォーマンスが出せるようになったら、人はそこに安住してしまうので、背中を押して新しいチャレンジを促す。それの繰り返しです。

道下さん
たとえば、セールスフォースの営業現場が強いのは、ミクロなKPIマネジメントだけではなくて、「目標は絶対に達成する」「お客様の成功に対して誠実でいる」という文化や志が、現場に根付いていたから。同じように最近の教育の現場では、テストの点数で測るような「学力」と、たゆまぬ努力や誠実さなどの「非認知能力」を同時に育む必要があるといわれています。企業組織にとっての「学力」はKPIマネジメントで、一方の「非認知能力」は本日のテーマでもある文化として育んで行く必要があります。

―― 変革のリーダーシップをとるお二人は、どんなマインドセットをしていますか?

道下さん
変革はひとつの手段であって、目的ではありません。いつの間にか変えることが目的にならないようにしています。事業を成長させるとか、グローバルで勝ち抜くとか、変革の先には、必ずゴールがあります。そういったゴールを決めずに始めてしまうと、方法論が目的になってしまいます。だから、「ゴールを打ち立てる」というのが、変革のマインドセットでは、一番重要なんじゃないでしょうか。

そして、ゴールを信念に持ちかえることができるかどうかで、ドライブ力が変わってきます。打ち立てた旗のもとに仲間を集め、コミュニケーションを形成して、文化をつくっていくことが大事です。

福田さん
僕の場合は、「素に戻る」ということでしょうか。人間は、元々「より良くしたい」という思いを持っている生き物です。でも、会社では「役職や立場」などの鎧を着ているから素直に動けない。だったら、鎧を脱いで素に戻ればいいんです。デジタルやDXは、「勉強しなければいけない」「スキルを身に付けなければいけない」と思われがちですが、僕は逆だと思っています。何かを重ねていくのではなくて、自分がやりたいことをやる。思ったことを言う。おかしいところは変える。そうやって、会社でも素に戻って発言したり行動すると、自然に良くなっていきますよ。

スポーツ界の日本の戦い方は、とても参考になります。2019年のワールドカップラグビーでは、ベスト8。リオオリンピックでは、日本男子が400mリレーで銀メダルを獲得しました。スポーツ界の日本は、間違いなく強くなっています。それは、自分たちが得意なこと、苦手なことを正面から受け止めているから。体格では勝てないなら、何で勝負するのか。リレーではバトンの渡し方、ラグビーではチームワークというように、戦略を立てて徹底的に練習する。こういう戦い方、日本は得意ですよね。

僕は、ビジネスも同じだと思っています。個があって、チームがあって、戦略があって、信頼があって。スポーツ界の活躍を見ていると、ビジネスにおける日本は、まだまだ本気を出せていない。苦手なことを克服し、どうやって勝つのかを考え抜いて行動すれば、まだまだいけますよ、日本は!

DXという言葉が先走ってしまい、わたしたちは、いつの間にか変革することを目的とした方法論に陥ってはいないでしょうか。自分たちが決めたゴールに向かって、仲間たちとコミュニケーションをとり、文化をつくりながら歩んでいく。DXは、そのなかで立ち上がる課題を解決する手段のひとつです。まずは、会社を、ビジネスを「より良くしたい」という思いを共有するところから、すべては始まるのです。


ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st

meetALIVEとは…

meetALIVE(ミート・アライブ)は、「今、会いたい人に会える」を目指すコミュニティプロジェクト。
「毎日をより楽しく、世界をより豊かにしよう!」と挑戦を続けるイノベーター達と語らう企画を用意しています。

meetALIVEのFacebookグループ
イベントに参加された方は、どなたでもジョインできます。(参加申請必要です。)学び合いと交流を目的とし、過去に開催したイベント動画も閲覧可能なコミュニティグループです。もちろん、今回のセッションの動画も閲覧出来ます。

meetALIVEのTwitter
今後開催予定のイベントの告知や、イベント時の実況中継を行います。

meetALIVEのPeatix
直近で開催予定のイベントを確認し、申し込みできます。


この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?