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朝の味

一人旅をしている中で、どうしようもなく好きな時間がある。
すべての始まりである朝、まっさらで、何もない朝。
光包むその時間をその瞬間自分が過ごしたいように、食べたいように過ごせることがこの上ない幸福。

去年ウィーンに行った時も、好きな席に座り、時間を気にせず、今日これから起こりうる幸福に期待して自分の体に栄養をどんどん与えてあげた。
普段であればここまで時間をかけて食事できないだろう。。
静かに響く食器の音、徐々に明るくなっていく空間、新鮮な野菜や温かい飲み物で、目覚めたばかりの自分が満たされていくのが分かる。

大学時代から一人旅を重ねてきたけど、今回のウィーンではローズヒップティーとキャロットラペがあってとっても嬉しかった。
これは自分の中で起きた小さな変化で、幸福の種類が増えたようだった。
私のことを知らない人は誰もいない日本からうんと離れた場所で、私は誰にも気付かれることなく小さく喜んでいた。

ただ、ウィーンからハルシュタットへ向かう朝は少し自分の意識が変わったことに気付いた。

今日はこの時間にホテルを出て、あの時間には電車には乗りたい。あと電車乗る前にお昼ごはんも買っておかないと。大移動だしキャリーケースも守らないと…。

そうやって私が未来の心配をし出した瞬間に、さっきまで幸福で包まれていた朝が消えた気がしたんだよね。

そうか、幸福って今この目の前の瞬間に集中しないと消えてしまうんだなって思った。
夢も野心もなく、ただじわじわと、生きているだけで嬉しい。
そういう時間をもっともっと味わっていきたい、そう実感させてくれる朝だった。

#吉本ばなな

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