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「人が物語を面白いと感じる原理と創作論」について(榊正宗)

こんにちは、榊正宗です。今日は、「人が物語を面白いと感じる原理と創作論」について、長文で深く分析してみたいと思います。

人間が特定の話に強く惹かれるのは、物語の原初的な役割に由来していると考えられます。物語は、本来、生きるために必要な情報の伝達手段でした。例えば、食べ物が豊富な場所や、危険な動物の生息地、毒になる植物など、生存に直結する情報が物語を通じて伝えられていたのです。

こうした背景から、人は特定の物語に自然と惹かれるようになったと言えるでしょう。人間社会における物語の役割については、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』など多くの書籍で指摘されています。

この点に着目すると、人は生死に関わる物語に特に興味を示しやすいと言えます。歴史を振り返ってみれば、多くのヒット作が生死をテーマにしていることがわかります。戦争映画を嫌う平和主義者であっても、戦争を題材にした作品に惹かれるのは、この生死に関わる興味に基づいているのです。

ただし、これはあくまで物語を面白く感じやすいベースに過ぎません。さらに重要なのは、既知の情報は魅力を失いやすいという点です。これは、生存に必要な情報として常に新しい情報を仕入れる必要があったからです。古い情報や既知の情報では、生き残るための競争において不利になることが多いため、人は新鮮な情報に強い関心を持ちます。

そのため、創作のテクニックとして「過去の流行に乗っかるだけでは大成功しない」という原則があります。新鮮さがなければ、物語は面白く感じられないのです。またどんなに名作と言われる過去の作品よりも、新作が好まれる傾向があるのもこの原理に即しています。この原理があるため、膨大な作品がアーカイブされて、いつでも観られる現代においても、一番ヒットするのは新作なのです。

パクリ作品が一定数売れる理由もあります。それは、一定の類型に対する本能的な面白さを人々が感じるからです。ただし、パクリ作品が元ネタを超えることは稀です。人間には、新鮮な情報に対する本能的な価値付けが備わっています。これは、古来から生き残りのために新しい情報を重視し、既知のものよりも新しい知識を求めるという生存本能に由来しています。

パクリ作品は、その性質上、すでに知られている物語の枠組みや要素を多用します。その結果、観客や読者は既に見慣れたものとして認識し、本能的に新鮮さを感じることができないため、元ネタの作品に比べて価値を低く感じる傾向があります。この現象は、新鮮な情報に対する人間の本能的な嗜好が影響していると言えるでしょう。

面白い物語を生み出すための創作論としては、本能的に面白く感じる基本的な類型に、斬新な独自性を加えることが重要です。面白さの本能的な要素は限られていますが、その上でのオリジナリティが創作者に求められる要素です。創作論は、本能的な面白さのパターンと組み合わせる斬新な要素として、作家それぞれが自分だけの「秘伝のタレ」を見つけ出す必要があります。

ヒットを連発している作家さんは、忙しいということもあると思いますが、通常はこの秘伝のタレを自分の作品以外では公開しません。また、作家によってはこの秘伝のタレが自分自身ですらどういう調合で生まれているのか分からない事もあります。それらは、本当に複雑な人間の深層心理などから生まれるからです。

創作においては、天才的な才能だけでなく、個人の内面には、他の人にない自分だけの秘伝のタレの元になるイメージがあるものです。これを取り出して、うまく調理するには、それなりに創作の経験(実際につくること)を経る必要があります。どのようにして自分だけのオリジナリティを発揮し、物語に新たな息吹を吹き込むかが、創作者にとっての大きな挑戦であり、醍醐味でもあるのだと思います。

つまり、創作論では類型を定義することはできますが、最も大切なのは、他人から教わるものではなく、あなたの深層心理にすでに存在する、教えてもらうことのできないものなのです。


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