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習熟度別学習指導について

習熟度別指導の効果

 習熟度別指導という学習の進め方が、小学校では主に算数や国語においてなされています。子どもたちによって学習に関する能力が異なるのだから、それを予めチェックして(レディネステスト)、子どもたちを能力別に分けて指導したほうが「効率が良い」と、現場ではそのように考えられています。

 これには僕も一定程度同意してしまう部分もあります。特に算数の学習は「既習事項」が習得できているのかが非常に大切です。でも、学級の児童全員が「既習事項」を習得できているかといえば、当然、そんなことはありません。でも、一斉指導でいつまでも「復習」をするわけにもいきません。このような特徴から、算数は学年が上がるほど「積み残し」がある児童の学習の理解度が下がっていってしまいます。

 例えば、社会科ではそんなことがありません。社会科は、3年生で自分の住んでいる地域、4年生で自分の生活を支える仕事、5年生で地理、6年生で公民や歴史と、内容が学年ごとや単元ごとで変わります。つまり、歴史が大好きな子が「僕は5年生の社会は苦手だったけど、6年生になって社会が急にわかるようになった」なんてことが割とあります。しかし、このような逆転満塁ホームラン的なことが算数には起こりにくいです。前年度までの学習の状況が如実に現れてしまう教科。それが算数科なのです。

 算数の教科書で設定されている指導計画というのは割と細かく決められていて、「余裕」が少ないです。もちろん、算数の教科書に設定されている指導計画通りにしなければならないなんてことは無いはずなのですが、「足並みを揃える」ことにエネルギーを注ぎがち(これはアカウンタビリティの章でご説明します)な学校文化もあり、教科書の指導計画通りの授業をしている学校が圧倒的に多いはずです。そして、指導計画が想定しているのは「積み残し」の無い子どもたちです。教えたことは須らく身に付いている、そんな子どもたちが想定されてる授業計画で「積み残し」のある子どもたちは苦しんでいる。

 それならば、そんな子どもたちを集めて一つのクラスを作ってしまえば、弾力的な指導計画で運用することができるのではないか。復習に時間をかけて、難易度の高い問題演習を減らし、基礎基本の徹底を意識した授業をする。逆に、理解度の高い子どもたちを集めて、教科書の内容を超えた発展的な授業もすることができる。
 このように現場では割と好意的に受け止められていた習熟度別指導ですが、これについても問題点があるという指摘もいくつかあります。

 結局、コース別指導というのは一部のエリート層のみが受益者となり、残りの大多数の子どもたちは「自分はできないんだ」という劣等感を植え付けられることになる。さらに、授業レベルも基礎基本の徹底という名目で下げられてしまう。発展的な学習に触れられないというのは、子どもたちの意欲損失に大いに加担してしまうでしょう。

 もちろん子どもたちの「できた・わかった」が大事であることは言うまでもありません。しかし、だからといって、発展的な学習をしなくてもいいとはなるはずはありません。学力向上を掲げるのであれば、低いレベルの授業しか受けられない子どもたちがいるという現実を現場は受け入れてはいけません。子どもの能力に合わせて、授業レベルを下げ続ければ、授業のレベルは底なしに下がり続けてしまうでしょう。

 「積み残し」がある子たちに発展問題の正解を期待していない。その子達は基礎基本の問題を確実に正解してもらえれば、全国学力学習状況調査の平均点はそこまで下がらない。

 こんな考えがあったかどうかはわかりませんが、学力テストで平均点をあげるという目的に対してはとても「効率的な」手法であることは否定できません。