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美術展が好き。 |特別展「毒」

国立科学博物館|特別展「毒」


趣味で書いている「美術展が好き。」だが、第3回にして、早くも美術展ではないものを取り上げる。

今回は、上野の国立科学博物館で11/1〜2/9まで開催されている、特別展「毒」をレポートする。国立科学博物館では初となる、「毒」をテーマにした特別展。「この世界は、毒だらけ」というフレーズに惹かれ、足を運んだ。


「毒」は基本的にヒトを含む生物に害を与える物質として理解されています。しかし、毒のなかには単に毒にとどまらず、薬効をもつものもあります。「生物に何らかの作用を与える物質」のうち、人間にプラスに働くものを薬、マイナスに働くものを毒と呼んで、多様で複雑な自然界を理解し、利用するために人間が作り出した概念と考えることができます。人体に有用なものでも、取りすぎると毒になることがあります。また、アレルギー反応にみられるように、感受性の高低によっても毒性は異なります。
 本展では動物、植物、菌類、そして鉱物や人工毒など、自然界のあらゆるところに存在する毒について、動物学、植物学、地学、人類学、理工学の各研究分野のスペシャリストが徹底的に掘り下げ、国立科学博物館ならではの視点で解説していきます。毒をテーマにした特別展は、国立科学博物館では初めての開催となります。

ホームページより引用

「毒」というキケンな香りのするものをテーマに、各分野のスペシャリストが結集して作り上げられたのが、今回の特別展「毒」だ。

QuizKnockや鷹の爪団など、人気のコンテンツとのコラボも熱い。大人から子供まで、幅広い世代が楽しめる企画展になっている。


ひと口に毒といっても、その実態は様々だ。生物の命を奪う危険なものもあるが、中には日常生活の中で、知らず知らず有効活用されているものもある。

しかし、普段の生活の中で、毒の存在を意識することはあまりない。私にとって毒は、フィクションの中に登場するものというイメージだった。ゲームや小説などの中に一種のスパイスとして登場するもの、というイメージだ。

ちなみに、私が毒と聞いて、まず思い浮かべたのはこいつだった。


読書で言えば、やはりミステリだろうか。「毒殺」は、計画的な殺害方法の王道である。毒を盛る機会があった者は誰か、という推理が展開される。

つまるところ、私にとって毒は、ゲームや本に登場する縁遠い存在だった。決して身近なものではなかった。そんなイメージが、特別展「毒」によって、覆されることになる。



見て楽しい、知って楽しい

上野公園の一角にある、国立科学博物館。特別展「毒」には、毒にまつわる展示がなんと250以上も用意されている。そこには、未知なる毒の世界が広がっていた。

会場に入ると、毒のイメージを彷彿とさせる、独特な色遣いやデザインの展示室が目を引く。ショッキングピンクや蛍光イエローなど、毒を持つ生物の「警告色」のような目立つ配色が、興奮と緊張感を演出する。

毒というハードでニッチなテーマを取り上げるにあたって、来場者が視覚的に楽しめるように工夫することは重要だ。特別展「毒」には、そういった工夫がたくさん施されている。


一際注目を集めていたのは、毒を持つ生き物の巨大なオブジェ。

蜂や蛇、何やら不気味な虫(イラガの幼虫)など、不気味なオブジェが並んでいた。毒を持つ生き物を、近くで眺められる機会はなかなか無い。じっくりと観察することができる。

館内は、基本的に撮影OK。子供も飽きずに楽しめる。特別展「毒」は、見て楽しい展示会になっていた。


ここからは、私が特別展「毒」で学んだことのうち、特に印象的だったものを紹介する。

まず、生物の毒には、「攻めるための毒」と「守るための毒」の2種類があるという話。先ほどの写真で言えば、蜂や蛇は攻めるための毒を、イラガの幼虫は守るための毒を持っている。ひと口に毒と言っても、生物によって目的が異なる。

実は私たちのすぐそばにも、毒は存在している。たとえば、ジャガイモの芽やフグ、キノコ、紫陽花など、身近な食材や植物にも毒は存在する。お酒(アルコール)や鷹の爪、コーヒーなど、過剰摂取すると危険な毒もある。カビやアレルギーなども、毒の一環である。

犬を飼っている方ならご存知かと思うが、人間にとっては何でもないものが、犬にとっては毒となることもある。ブドウやチョコレート、ネギ、ピーナッツは、犬に与えるのは厳禁である。


皆さんは、シュミット指数をご存知だろうか。

シュミット指数とは、アメリカの昆虫学者ジャスティン・シュミット氏が考案した、蜂に刺された時の痛みを数値化したものである。これが、めちゃめちゃ面白い。ツッコミどころがあり過ぎる。2015年には、イグノーベル賞を受賞している。

Lv.1 『カッと熱くなるような鋭い痛み。まろやかなハヴァティチーズだと思って食べたら、極辛のハラペーニョ入りチーズだったような』

Lv.1から、かなり痛そう。ていうか、後半のチーズの例え、要る? この例えで、「なるほどそういう感じね」と理解できる人がどれだけいるのだろう。ちなみにハヴァティチーズとは、デンマーク原産のクリーミーなチーズだそうな。

Lv.2 『焼かれるような、蝕まれるような痛みだが、どうにか耐えられる。燃えたマッチ棒が落ちてきてやけどした腕に、まず苛性ソーダをかけ、次に硫酸をかけたような』

やけどした腕に苛性ソーダと硫酸をかけられて、「どうにか耐えられる」わけがない。Lv.2でここまでの惨状とは、蜂の恐ろしさを改めて実感する。「燃えたマッチ棒が落ちてきて」とやけどの原因を特定する必要があるのか?

Lv.3 『ガーンと来た爆発的な痛みが延々と続き、気が狂ったような叫び声を上げることになる。高温の油が鍋からこぼれて手全体にかかってしまったような』

「気が狂ったような叫び声を上げることになる」が面白過ぎる。高温の油を被るなんて、想像するだけで恐ろしい。この辺りになると、例えの最後の「〜ような」が癖になってくる。

Lv.4 『目がくらむほど凄まじい電撃的な痛み。泡風呂に入浴中、通電しているヘアドライヤーを浴槽に投げ込まれて感電したみたいだ』

確実に死んでいる。ていうか、「投げ込まれて」ということは殺人事件ではないか。ただの風呂じゃなくて泡風呂にしているところにシュミットさんのこだわりを感じる。

いかがだろうか。シュミット指数、指数として全く役に立たなそうで最高である。


毒を生み出すのは、動植物だけではない。私たち人間も、毒を製造している。そのことを、深く考えなければならない。

いわゆる人工毒だ。殺虫剤や農薬などは、毒を有効活用している製品の例だ。一方で、海中を漂う微細なマイクロプラスチックのゴミは、毒を蓄積し、生態系に害を及ぼす。人間の毒によって、地球環境が蝕まれている現実がある。

毒があれば、それに抗うものもいる。長い時間をかけて毒への耐性を身に付け、毒と共生する例もある。

最たる例がコアラとユーカリだろう。ユーカリは有毒の植物だが、コアラはその毒を消化・解毒することができる。コアラとユーカリの間では、進化の過程で、長い耐毒合戦が繰り広げられているのである。

以上は、特別展「毒」で学べることのほんの一例である。特別展「毒」は、知って楽しい企画展になっていた。



毒とはうまくつきあおう

特別展「毒」で得た一番の学びは、「毒は身近な存在である」ということだ。

私たちは毒のマイナス面についつい目を向けがちだが、私たちの生活を助けるプラス面を持つものも存在する。毒の特性を理解し、効用を上手く活用すれば、「薬」となって私たちを助けてくれる。

今はそうでないと思われていても、後々に毒だと判明するケースもある。そう考えると、私たちは常に、毒にさらされて生きていると言えるかもしれない。

私たちが生きるうえで不可欠な酸素だって、過剰摂取は毒となる。毒と毒でないものとの境界は、私たちが思っているよりも曖昧なのである。

「毒とはうまくつきあおう」。特別展「毒」が最も伝えたかったメッセージは、これだと思う。

私と毒。全く縁遠いものと考えていた毒との関係性を、見直してみようと思った企画展だった。

手始めに、コーヒーでも飲んで、「カフェイン」を摂取するとしよう。



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