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イタリア旅。 |時が止まった古代都市 〜ポンペイ編〜

どこで読んだ文章か忘れてしまったのだけれど、イタリア人に「人が集まる観光地を作るにはどうすればよいか」と聞いたら、次のような答えが返ってきたという。

特別なことをする必要はない。今あるものを、100年先まで保てばいい。

歴史的景観を大切に保存・管理するイタリアらしい、含蓄に富んだ言葉だと思う。

特別なものは何も要らない。今あるものをそのままの姿で100年間保てば、それは人々を惹きつける、特別な場所になる。


今回は、南伊のポンペイを旅したときのことを書く。

ポンペイは、古い遺産を後世に大切に受け継ぐイタリアの中でも、とりわけ歴史の古い場所である。

ポンペイを歩いていたとき、幾層にも重なった人類の歴史の連なりを、肌身に感じたことを今も覚えている。その時のことを、できるだけそのまま書けたら良いと思う。



ポンペイを旅する。


一瞬にして消滅した町

ポンペイは、イタリア南部のカンパーニャ州に位置し、ナポリから電車で約30分ほどの場所にある。

かつて、すぐ近くのヴェスヴィオ火山の大噴火により、都市全体が地中に埋もれて消滅したことで知られる場所だ。


まずはポンペイの歴史について簡単に書く。

もともとは、紀元前7世紀頃に成立した集落が起源とされる。やがてローマ帝国の支配下に入り、帝国への荷物の運搬や、ワイン醸造の拠点として栄えたと言われる。

しかし、西暦79年8月のこと。ヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流に呑み込まれ、町は住民共々、一瞬にして地中に埋もれてしまった。悪夢のような終幕を迎えた場所なのだ。


その後長らく、同じ場所に町が造られることはなかった。そして1748年の再発見をきっかけに、ポンペイの全体像を明らかにするため、発掘作業が開始された。

幸か不幸か、ポンペイを一瞬で全滅させた火砕流・火山灰が、町全体を隙間なく埋め尽くしたため、建造物や壁画、その他の遺品が、当時の状態に限りなく近い形で保存されていた。

そのため発掘された町は、当時の人々の暮らしを細かに伝えてくれる。

食事がそのまま残された一般家屋や、居酒屋・浴場・円形劇場などの公共施設上下水道の遺構なども確認されており、噴火直前のポンペイの生活が、かなり高水準であったことが窺い知れる。


発掘作業の成果により、現在私たちは、ポンペイの遺構の中を散策することができる。

しかしながら、遺跡を地上に晒すことによる代償も少なからず現れており、いくつかの建造物は発掘の過程で倒壊してしまったという。

ポンペイは近隣の遺跡群と共に、「ポンペイ、ヘルクラネウム及びトッレ・アンヌンツィアータの遺跡地域」として、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。

国内外から多くの観光客を集める場所だが、大切な遺跡を後世に残していくためには、観光客側にも「ポンペイを守る」という意識が必要なのだと思う。観光マナーを守り、敬意を持って訪れよう。



時が止まった古代都市

ではいよいよ、ポンペイの内部へ潜入する。

ポンペイは、約66ヘクタールの広さ(東京ドーム約14個分)があり、9つのエリアに分かれている(2019年時点)。一部のエリアは、発掘作業が継続されている。

全て回ろうとするとそれなりに時間がかかるため、あらかじめ訪れたい場所の目星をつけておき、見学ルートを決めておくことをおすすめする。


360°、見渡す限り古代遺跡。建造物の壁や柱が、想像以上に残っていて驚いた。

古代の人々が築き上げた生活の営みを、千年以上が経った今、こんなちっぽけな私が、肌身で感じ取っている。その奇跡に胸が震えた。

人類は誕生以来、何世代にもわたって、現在まで歴史を繋いできた。時にポンペイのように、突然の自然災害や人的災害が、ひとつの都市や文明を終わらせてしまうこともあっただろう。

それでも歴史は、途切れることなく紡がれている。私たちも、その一端を担っている。これまで全人類が総出で作り上げてきた歴史の重みに、ただただ感服する1日だった。


当時の建造物や壁画が、本当によく残っている。ある日突然、生物だけが消失してしまった場所。

居酒屋のような建物や、祭儀を執り行うような空間。ずっと昔にこれらを作った人がいて、彼らの生活が確かに存在していたのだ、ということを想像する。


少し高い所に登ると、ポンペイが大規模な都市だったということに、改めて気付かされる。

円形闘技場。

浴場。
円形劇場。
神殿。


フォロ広場。

当時はここ、フォロ広場で、集会などの催しが行われていたらしい。

奥の方に、かつてポンペイの歴史に幕を閉じた張本人、ヴェスヴィオ火山が顔を覗かせているのが印象的だった。きっと当時は、人々の信仰の対象になっていたのではないだろうか……。


敷地内には、出土品の展示もある。

降り積もった火山灰に埋もれ、人々の遺体は腐敗消失した。そこにできた空洞に石膏を流し込むことで、噴火直後の人々の姿をリアルに再現することが可能となった。

実際に目の当たりにすると、非常にショッキングだった。火山噴火の恐ろしさを、何よりも強く伝えてくれるものだと思う。



ポンペイを歩いていると、これだけの規模の町をたった一瞬で全て消し去ってしまう自然災害の恐ろしさを、ひしひしと感じた。

今から2000年近く前にこれほどの都市が存在していたということにも驚きだが、それをいとも簡単に捻り潰した火山噴火の脅威を考えると、本当に途方も無い規模だと思う。


ぜひポンペイに足を運び、古代都市の探検を楽しみながら、歴史の重みと自然の脅威を感じ取ってみていただきたい。

夏に訪れる際は、日差しを遮ってくれるものが全くないため、暑さや紫外線への対策をお忘れなく!




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