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【白猫イネスの日々】3話:犬のような我が家の猫

 猫が犬だなんて、一体何を言い出したのだと思う方もいるかもしれない。
 けれどうちの猫の行動を見ていると、どうも猫ではなく犬なのではないかという疑念がわいてくる。
 例えば猫を飼う前に友人に「猫は水平よりも垂直の運動をする生き物」という教えを受けた。つまり走り回るよりも、棚の上にジャンプしたりキャットタワーなどで上下に動いたりすることの方が大事だというのである。
 けれどもうちの猫を見ていると、上下の運動はほとんどなく、よく廊下を走っている。たまにとてもうれしそうな顔をして耳をバタバタと振り乱して体が空中に浮かんばかりの速度で走っている犬がいるけれど、それに近い勢いで走っている。それもわたしが紙とマスキングテープで作った小さなボールを追いかけ回して走っている。その姿を見ているとどうも猫に見えないときがある。

 さらに猫は犬と違って気まぐれだというのも、猫という生き物を語る上でよく使われる表現ではないだろうか。彼らは良い意味で自立しており、唯我独尊というイメージが強い。けれどもイネスはどうやら群れで生きたい気持ちが優っているようなのである。
 わたしが昼寝をしているとわざわざベッドに飛び乗ってきて体がくっつく位置で体を丸める。彼女を起こしてはいけないからと身動きが取れなくなったわたしはたいへん寝づらいのだけれど、側で寝てくれるなんて信頼されている証に違いないから、まんざらでもない気持ちである。
 そして起きるときももちろんタイミングを合わせてくる。わたしの顔色を伺いながら「にゃー!」と一叫びをして一緒に起き、その後もキッチンや洗面台にいるわたしの横にちょこんと座っている。
 とにかくくっついていたいし一緒にいたいらしい。夜などはわたしが寝る前からベッドに上がり、中央で丸まっている。わたしの寝る場所などお構いなしである。抱っこでもしてどかしても良いのだけれど、せっかくぐっすり眠っているのになんだか可哀想で、結果わたしは壁に埋もれんばかりに端っこに身を寄せて眠ることになるのだ。
 さらにこんなこともあった。
 ある朝のこと、どうも体が重く、息苦しさで目が覚めた。めずらしくうつ伏せで眠ってしまっていたから肺が圧迫されたのかなと思い、腕立て伏せをするようにして体を起こそうとすると、思いも寄らないところから「にゃー」と聞こえてきてぎょっとした。そして予期していなかった重量に押し潰されるようにして、わたしは今一度ベッドに体を沈めることとなった。ここで、どうやら背中に猫が乗っているらしいと気がついた。暖を取りたかったのか理由は定かではないけれど、イネスはわたしの背中の上で丸まっていたらしい。彼女は4.7キロだ。重いはずである。

 その他にも、飼う前に猫は自分で食べる量を調節しながら食事をすると聞いたことがあった。そのため犬のように都度都度ご飯を用意しなくても良く、一泊くらいの旅行であればお留守番もできてしまうらしい。けれどもイネスが自分で食べる量の調節をしているところなんて見たことがない。あげたらあげただけよく食べる。さっさと全部平らげてしまうから、わたしが旅行になんて行ったら空腹で気が狂うのではないだろうか。
 友人の家の猫はイネスとはまったく違い、家のどこにいるのかもわからないほど人と距離があるらしい。たまに玄関で見かけると「ラッキー」と思うほど、いつも身を隠し、ご飯やトイレのときだけ姿を現すという。
 そんな友人からすると構いがいのある我が家の猫が羨ましいらしいけれど、猫がもっとクールな性格で犬よりも手間がかからないと思っていたわたしは少しだけ腑に落ちない心持ちである。
 十人十色と言うように、猫にもいろいろなのがいる。つまりそういうことなのだ。

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