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さようなら、ひとりぼっち

ボクの学校にはたくさんの先生がいる。

黒板にいろんなことを書いてボクたちに教えてくれる"黒板先生"。
大好きだけど、宿題を忘れたり、話を聞いてなかったりすると、怒られるから、ほんのちょっとだけ怖い。

「わからないな」と思ってたボクの隣にこっそりと来てくれて、ボクがわかるまで教えてくれるのが"助っ人先生"。黒板先生の助っ人でもある。
校長先生が"助っ人先生"になってくれた日は、黒板先生が怖くないから、"ラッキーな日"とボクは呼んでいる。

お昼の時間になって、大食堂に行くと、ゾロゾロと集まってくる近所のおじいちゃんやおばあちゃんは"人生先生"。
いつもボクの話を楽しそうに聞いてくれるし、楽しい話をたくさんしてくれるから、ものすごく大好きだ。

夜でも朝でもいつでも入れる”みんなの自由室”に行くと、いつもモクモクとお勉強やお仕事をしている"お勉強先生"や"お仕事先生"がいる。
うるさくすると怒られるけど、テストで100点とれる方法を教えてくれるから、ときどき話かけちゃう。

学校の廊下や校庭でいつもスヤスヤ寝ている猫や犬の"動物先生"は、飼い主が見つかるまでの間だけ、学校に住んでいる特別な先生だ。いつも人生先生が面倒をみてる。他の先生もボクも友だちもみんな、動物先生をなでるのが大好きだ。


ボクの学校にはたくさんの人がいる。
どこの教室をのぞきこんでも、廊下を歩いていても、誰かがいる。
お父さんやお母さんは「たくさんの人と知り合えて、たくさんのことを学べる、とてもいい学校」だと言うけれど、
ボクは、ちょっと怖いと思った。


ある日、ボクの友だちが「お勉強先生にムカつくことを言われた」と言って泣いていた。

「やっぱりこの学校は怖い」

そう思ったボクは泣いている友だちを連れて、校長室へ急ぐ。

校長室をガラガラガラッといきおいよく開けたら、
校長先生が抱えてた猫がビックリして、校長先生の手からストンと降り立ち、走って行ってしまった。

ボクは校長先生に言った。

「ごめんなさい。あの、その、えっと」

「どうした?」

校長先生は優しい声でボクに近づく。

「猫は怒って引っかくかもしれない。ボクはこの学校が怖いです。どんな人がいるかわからない。人殺しだっているかもしれない」

ボクがそう言うと
校長先生が悲しい顔になった。

「そうかもしれないね。
でもそれは、どこに行っても同じじゃないかな。遊園地に行っても、スーパーに行っても悪い人に出会う可能性はみんな平等に持っている。
人がたくさんいるせいでこの学校はその可能性が高くなっているように思えるけど、この学校は飛行機に乗る時みたいに、君たち生徒以外はみんな、荷物のチェックをしているし、警備員だってちゃんといる。
未来をまかせる君たちを簡単に傷つけさせたりはしないよ」

「でも、ムカつくことを言うやつがいる。この子はそのせいで泣いてるんだ。大人のくせに、子どもにいじわるするなんて最低だよ」

ボクが泣きそうな声で伝えると、校長先生は優しい顔でボクと友だちの頭を交互になでた。

「私が呼んだ先生が悪いことしたね。もうしわけない。
体は大人でも、心が大人じゃない人はたくさんいるんだ。
そういう人は心がとてもさみしい人だから、そういう人がこの学校に、もっと来て欲しいと私は思っているよ。
そして、君たちや先生たちが、さみしくないようにお話してあげてほしい」

ボクの友だちが泣きながら言った。
「でも相手は大人だよ、力があるから怒ったら怖い」

校長先生は優しく言った。
「そのために、たくさんの先生がいるんだよ。
友だちや大人の誰かが間違ったことをしたと思ったら、大声で言いなさい。校長先生が間違っていると思っても、大声で言いなさい。
必ず誰かが助けてくれる。
君がムカつくことを言われた時、誰も助けてくれなかったかい?」

「人生先生の1人がピシャンとその人をビンタして、周りにいた何人かの人生先生たちと順番に説教してた」

校長先生は嬉しそうに言った。
「みんなが、ひとりぼっちじゃなくなって、周りに知り合いがたくさんいれば、この世界は怖い世界じゃなくなるんだ」

ボクは言った。
「でも、ひとりぼっちになりたい時もあるよ」

校長先生はハハハと大きな声で笑って言った。
「その時は、この校長室を貸し出しするから、いつでもおいで。ひとりぼっちだけど、部屋のすぐ外にはたくさんのステキな知り合いがいるから、安心して好きなだけステキなひとりぼっちができる」


次の日、ボクは友だちと小さなことでケンカした。

ひとりぼっちになるために校長室へと行くと、ドアに「ステキなひとりぼっちをしたい人は5回ノックをして、30秒後にお入りください」と書いてあった。

5回ノックして、30数えて入ると、テーブルの上にはドーナッツが1つ置かれていた。
ドーナッツをじっと見ていたら、5回のノック音が聞こえてきた。
「どうしよう、どうしよう」
と、迷っている間に、さっきケンカした友だちが入ってきた。

友だちはボクがいることにビックリして、校長室から出ようとしている。

ボクは
「待って」
と言った。

そして、ボクはドーナッツを半分に割り、友達に半分を渡した。
ボクと友達は背中を向けて、ステキなひとりぼっちをしながら、ドーナッツを食べた。

食べ終わったあと、「ごめんね」と言い合えたらいいな。

いつもお付き合いいただきありがとうございます。