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#TOKYO発酵めぐり vol.2 70年の時を超え復刻された“江戸味噌”のはなし

発酵大国と言われる日本。全国どこに行ってもご当地の発酵食品に出会うことが出来ますが、東京にも発酵蔵/醸造所が存在することを知る人は少ないのではないでしょうか。東京に点在する発酵スポットをめぐり、その魅力を紹介します。


皆さんこんばんは!
meguruの発酵担当よねです。

TOKYO発酵めぐりの第2回、今回は江戸のまちで愛された『江戸味噌』を70年ぶりに復活させ販売しているという「東京江戸味噌」社長の河村さんにお話を伺ってきました。

ぜひ1回目、番外編の愛知編も合わせてお楽しみください!

※第1回「​​#TOKYO発酵めぐり vol.1 東京の発酵文化と甘酒屋さん」はこちらから


※前回「#愛知発酵めぐり尾張と三河のめくるめく発酵文化」はこちら


▽『江戸味噌』って知っていますか?


味噌と言えば信州味噌、仙台味噌などは聞いたことがある方も多いと思います。
実はその昔江戸時代には、江戸のまちで食べられていた『江戸味噌』なるものがあったそうです。

以前味噌について調べていた時に発見した『江戸味噌』。
しかも、明治以降徐々に衰退し、戦時中の製造禁止を機に完全に世の中から無くなってしまったとか。。

それを70年ぶりに復活させたのが今回お話を伺った河村さんでした。

▽「東京江戸味噌」に行ってきました


日比谷線広尾駅から徒歩5分ほどの場所にある「東京江戸味噌」
こちらは大正8年創業の株式会社日の出味噌醸造元が運営するお店です。

※東京江戸味噌HPはこちら
https://www.edomiso.jp

社長の河村浩之さんは3代目。
ご自身が跡を継がれてから、偶然見つかった味噌の技術書の中で『江戸味噌』の存在を知り、数年の試行錯誤の末70年ぶりに復活させた方です。

photo by 東京江戸味噌


わたしは、“昔は多くの家庭で味噌を手作りしていた”と漠然と思っていました。
しかし、爆発的に人口が増えた江戸では家が狭く、作って保存しておく場所が無かったため、”味噌は買うもの”だったそうです。

そして味噌を売る醸造家にとっても、大量に作って長い間発酵熟成させるスタイルは場所を取るため、短期間で出来る江戸味噌が生まれました。

塩を減らし、米麹を多めに使用することで短期間(10日〜2週間)で味噌が完成します。塩分濃度が低いため通常より日持ちのしない味噌を、街中に180件(!)もあったという小規模の醸造元から少量ずつ買い、短期間で消費するというサイクルだったそうです。

今の23区内より狭い範囲に、180件も味噌屋さんがあったなんて。。
なかなか想像し難い光景ですが、発酵好きとしてはワクワクが止まりません。。

江戸味噌のお店を今の場所に出店したのも、人が住む街の中にお店があることで、江戸時代のように必要な分だけ買いに来れるような店にしたかったから、と河村さんは仰っていました。

なのでお店では定量をパッケージに詰めて売るのではなく、欲しい分だけ購入してもらえる100gからの量り売りで販売されています。

地域に寄り添うお店の在り方がとても素敵だと思いました。

こんな味噌屋さんが近所にあったら、より味噌が身近になるし、暮らしが豊かになりそうですよね。


▽味噌が江戸時代の食文化の中心だった!?


河村さんのお話を伺いながら、お味噌汁の試食もいただきました。
こちらで購入できるお味噌は、「江戸味噌」「江戸甘味噌」「仙台味噌」「田舎味噌」の4種類。

※写真左から、「江戸味噌」「江戸甘味噌」「仙台味噌」「田舎味噌」


江戸味噌は見た目は色が濃いのですが、短期間で発酵させているためアルコール発酵による独特の味噌臭さはなく、濃厚でとても飲みやすい味わいでした。

味噌汁の後は、「煮貫(にぬき)」という江戸の万能調味料と言われたつゆをいただきました。

こちら見た目はよく知る「そばつゆ」なのですが、なんと江戸味噌から出来ているそう。
味噌を水で溶かし、煮詰めてから濾したものを酒を入れて再び煮詰め、鰹節を入れてから更に濾して作ります。

その味わいもそばつゆそのもの!しかも市販のそばつゆよりもクリアで香りが良く、思わず「おいしい!」と言ってしまう味わいでした。

「でも、そばつゆって醤油・みりん・酒が使われているものなのに、なんで味噌でこの味が・・?」とわたしは少し混乱気味でした(笑)

河村さん曰く、醤油が一般的になったのは江戸時代の後期なので、今のそばつゆの作り方は、元々あった「煮貫」に近づける形で出来たものと考えられるそうです。

煮貫は、1643年発行の日本最古の料理本と言われる『料理物語』にも登場しています。
日常的にお味噌汁に使用するだけでなく、煮貫としても江戸味噌が使われていたんですね。

今ほど色々な調味料は無かった江戸時代。
醤油が普及するより前は、江戸味噌が基本の、そして主な調味料として使われていたことが想像できます。

江戸の食文化の中心としてあったと言える江戸味噌を、しっかりと伝え、残していきたいと河村さんは熱く語ってくださりました。

▽伝統を守り、伝えていくということ


“江戸の庶民が愛した江戸味噌が70年ぶりに復活した!”という強烈なイメージに引き寄せられるようにお店に伺った今回。

河村さんにその背景にあるストーリーを丁寧に教えていただき、日本の食文化のおもしろさ、奥深さをまたひとつ知ることが出来ました。

江戸の街で「味噌」は想像を遥かに超える重要な存在であり、文字通り江戸の食文化を支えていた存在だったんですね。

味噌が栄養価も高く、美味しい、素晴らしい発酵調味料であることは十分認識していましたが、今回新たな一面を知ることが出来ました。

良い意味で身近すぎて、あまりそれについて考えることもない「味噌」にそんなストーリーがあること、400年前にもこの東京の地では愛されていた調味料であることを読んでいただいた皆さんにも知ってもらえたら嬉しいです。

「東京江戸味噌」のお店では、お味噌汁の試食や丁寧な説明も聞くことができます。
近くまで行かれた際には、ぜひお店に立ち寄ってみてくださいね。

写真・文 / 米村さおり
Instagram https://www.instagram.com/saori_yonemura/


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