魔女みたいな先生のおもいで

高校のときに魔女みたいな数学の先生がいた。その先生に出会うまで、学校の先生というものは明るく元気なタイプか、真面目なタイプの2種類だと勝手に思っていたので、初めて授業を受けた時は衝撃だった。こんな負のオーラを漂わせたミステリアスな、暗い先生が存在するんだ、と思った。ちびまる子ちゃんのキャラクターでいうなら野口さんみたいな人だ。失礼な例えかもしれないが、そういう部分が本当に好きだった。そんな雰囲気ではあるものの、聞き取りやすい声・きれいな板書で分かりやすい授業をしてくれた。その先生が授業担当だった高2から、わたしは数学が大好きになった。言うまでもなく万人受けはしておらず、私みたいに大ファンの生徒もいれば、かなり苦手だと言っている生徒もいた。

高3のクラス発表で、担任がその先生に決まって小躍りした。進学希望先別のクラス分けだったため、友人達が同じクラスにならないということも分かりきっており、なんの期待もないクラス替えだった。そんな私への唯一の朗報だった。先生は始業式の朝、HRでの挨拶もそこそこに、「今年は受験で書類のやりとりがたくさんあるかと思います。あなた方の提出が遅れたら、その日数分、こちらも書類発行も遅らせるので、よろしくお願いします。」みたいなことを言っていた。他にもいくつか、結構厳しい注意事項を話していて、私は能天気に「マイルドな女王の教室だ〜」などと考えていた。

最初の進路面談で、開始早々「女子大に行くと就職支援も手厚いし、なにより高学歴な男と結婚できる可能性が上がる(合コンがあるので)。○○大とかいいわよ」と大真面目な顔言われた。この女子大進学→高学歴男子との結婚というルートを推奨するのは、当時の無知な私でもなんとなく問題なのでは、と思った。それでも、あまりにも真剣な表情から本気で私のことを考えてくれてるっぽいことは高校生なりに感じとって、不快には思わなかった。
自分が社会人になって、女性だから受ける理不尽みたいなものをいくつか経験した今、その発言の真意も当時より読み取れるようになった。正論とか全部抜きにして、私個人が楽に、確実に、幸せになれる提案をしてくれてたのだと思う。10年ほど前の話なので、今よりずっと、理不尽が多かったというのも想像に難くない。今ほど問題が取り沙汰されてもいなかったから、社会の辛い部分を皆まで高校生に説明するのは得策でもないようにも思うし、あけすけにそういう勧めをするのも理解できる。
しかしながら、当時経済的に私大進学は無理であり、なんとなく進学したい大学も決まっていたので、恐る恐るその旨を伝えた。するとあっさり、「じゃあ頑張りましょう!あなたなら大丈夫だと思います。」と明るく返してくれて、心底安心したのを覚えている。

その後も、授業中に数学科のネガキャンをする/「夫がどのくらい家事をするかは妻の腕次第」発言/授業中に“さようなら”と黒板に書いて静かに職員室に帰る 等、いろいろな波乱をみせてくれた。自由奔放で、ちょっとめんどくさいキャラクターが最高だった。それに、今まで出会った中で、一番強かな女性だった。女性が受ける理不尽を諦観しながら、それを利用してうまいこと戦っているような人だと思う。しかもそれを全く隠さない人だった。同じ学年担当の男性教師陣も少し怖がっていた記憶がある。

過去形で書いているが、私がここ数年一切会っていないというだけで、まだ現役で教師をされているはずだ。わたしは彼女のおかげで第一志望に合格できたが、それに伴って高校から少し離れた場所に引っ越したのと、不真面目な大学生に落ちぶれてしまったのとで、卒業後会ったのは一度きりだ。高3のクラスに個人的に連絡を取るほど仲の良い人もおらず、近況も特に知らない。ただただ健康に過ごしてくれていればいいな、と思う。

今は到底無理だが、胸を張れるような人間になったら、また会いにいきたい。

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