見出し画像

ピンポン

その建物の前を通るたび

ピンポン~

と音がするのである。

するとまるで

何かに当選したような気持ちになり

るん! と気持ちが上がるのである。

魔訶不思議。

その古びた建物の正体は、なんのことはない

N市の水道局であった。


どうして『ピンポン~』って言うのですか?

奇しくも高齢者が多い地域でもあり

当然のことながらに耳の衰えの否めない市民が増えるなか

「ここです! 水道局はここですって!」

―― という親切な仕掛けみたいなものなのでしょうか?

そう尋ねてみたくても

いつの間にか水道局は新庁舎に移転となり

この質問は宙ぶらりんになってしまった。

今日もその古く薄暗い建物の前を通ったが

ピンポンは聞こえない。

だから私にできるのは

心のなかでピンポンと呟くこと。

ただ残念なことに

いくらピンポンと呟いても

気持ちは、るん! とは上がらないのである。

サポートいただけたらとっても嬉しいです。励みになります。 「読んでいて楽しいな」と感じていただけるよう、 言葉を紡いでいきたいなって思っています。 クリック、よろしくお願いいたします。