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#映画感想文214『ボーンズアンドオール』(2022)

映画『ボーンズアンドオール(原題:Bones and All)』(2022)を映画館で観てきた。

監督はルカ・グァダニーノ、脚本はデビッド・カイガニック、主演はテイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ、ほかにマーク・ライランスが出演している。原作はカミーユ・デアンジェリス。

2022年製作、130分、アメリカ映画である。

18歳のマレン(テイラー・ラッセル)は、ある日、高校の友達にパジャマパーティーに誘われる。夜の外出は父親から禁止されていたのだが、好奇心もあり出かけてしまう。マレンは友達に「このオレンジって、オレンジ過ぎない?」とマニキュアの色を見せられる。指を凝視していたら、衝動が抑え切れず、その子の指にかぶりつき、食いちぎってしまう。

指を食いちぎられた女の子は流血し痛みに絶叫し、ほかの女の子たちもパニック状態で泣き叫ぶ。阿鼻叫喚のパジャマパーティーを抜け出し、マレンは帰宅する。口の周りを血まみれにしている娘を見て、父親はすぐに事態を察する。父子は警察が来る前に荷物をまとめ、夜逃げをする。逃げるのは今回が初めてではない。何度も、逃亡生活が繰り返されていたことが明らかになっていく。

逃亡先の家で、ある朝、目覚めると父親がいないことに彼女は気付く。人喰いの娘に耐えられず、父親はテープレコーダーとマレンの出生証明書だけを残して、行方をくらます。マレンはテープに録音された父親の独白を聞きながら、出生証明書を頼りに母親を探す旅をスタートさせる。

駅で雨宿りをしていると、同じ人喰い人種だという老人手前のサリーという男に出会う。彼曰く、匂いでわかるのだという。行き場もお金もないマレンは、彼の家に泊まり、余命僅かだという女性を二人で食べてしまう。

この作品はR18なのだが、過激な性描写はほとんどなく、問題は人間の皮膚に食らいつき、内臓を啜るような描写があるからなのだろう。生肉を貪り食う人間を正視するのはきつい。しかしながら、血抜きをして、人体を解体して調理していたら、それはそれでドン引きだろう。

(まあ、わたしは鶏肉、豚肉、牛肉を食べているので、人喰い人種を全否定することもできないのだ。そのままで食べるほどワイルドではないけれど)

マレンは、同じ人喰い人種ではあるものの、サリーを気味悪く感じ、次の街へと旅立つ。そこでリー(ティモシー・シャラメ)と出会う。マレンがスーパーで万引きしていると、輩っぽい男性客にリーが喧嘩をふっかける。彼も同じ匂いがする。案の定、その輩の男はスーパー付近にある倉庫のような場所に連れ込まれ、リーに殺されて食べられてしまう。孤独な若者であるマレンとリーは、お互いの秘密を共有することで距離を縮め、恋人となっていく。

その後、母親に再会し、真実を知るマレン。人を殺さないために自らの両腕を斬り落とした母親。母親は他人に危害を加えさせないために娘を殺そうとするが、マレンはそれを受け容れることはできず、走って逃げる。母親が娘の死を望んでいたのだとしても、死ぬわけにはいかない。ただ、「こんな生活を60年70年も続けるのだと思うとうんざりする」という本音を吐露するシーンもあった。人喰い人種に限らず、わたしたちはクソみたいな人生を生きていかねばならない。

ほかの人喰い人種に誘われ、河原で夜な夜な飲んでいると、こんなことを言われる。

「骨ごと(Bones and All)食うとまた違うステージに行けるぜ」

これがタイトルの『Bones and All』ということらしい。「骨ごと愛して」「骨まで愛して」という邦題にしてもよかったのだろうけれど、演歌チックになってしまうので、選ばれなかったのだろう。

マレンとリーは一度は別れたものの、よりを戻し、普通の人みたいに暮らそうよ、と若いカップルとして同棲生活を始める。しかし、マレンに執着するサリーがやって来てしまい、物語は終焉を迎える。

ルカ・グァダニーノ監督のインタビューに大島渚の名前があり、ちょっと納得してしまった。『愛のコリーダ』的なものだと言われれば、ああなるほどね、と思ってしまった。

「美というのは、人によって基準が異なるものですから、僕は用心しているのです。絶対的な美というのは、ファシスト的な考えに繋がりかねませんしね(笑)。むしろ、僕にとって大事なのは実験性、そして大胆であること。僕が大好きな映画監督のひとりに大島渚がいるのですが、彼は偉大なパンクの監督だと思います。ほかと異なることを負って立ち、個人的な特質を過激なほど発展させました。僕もつねにそうありたいと願っています

GQ

これはもちろんメタファーの物語である。人類の食肉文化を批判する意図もあるだろう。また、共同体では到底受容されない欲望というものもある。暴力衝動、殺人衝動、性衝動、ドラッグやアルコールだって度を越せば問題になる。他者に理解されない欲望を抱えた孤独な人間が自分に似た人を見つけたら、恋に落ちるのは当然の流れだ。

人を喰う極限の行為を見せられると、万引きなんか取るに足らなくなるし、セックスなんかとても平凡な行為に見えてきてしまうから不思議だ。ただ、正直なところ、この映画を二度は見たくないし、ルカ・グァダニーノ監督との相性はそんなによくないかもしれない、ということもわかった。

シャラメは相変わらず美しい。

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