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#映画感想文277『ウェルカム トゥ ダリ』(2022)

映画『ウェルカム トゥ ダリ(原題:Daliland)』を映画館で観てきた。

監督はメアリー・ハロン、脚本はジョン・C・ウォルシュ、出演はベン・キングズレー、バルバラ・スコバ、クリストファー・ブライニー。

2022年製作、97分、アメリカ・フランス・イギリス合作。

本作はサルバドール・ダリとその妻ガラとの結婚生活、ビジネスとしての創作活動が描かれている。ダリはシュールリアリズムで最も成功した画家(アーティスト)だが、妻に愛されることを願ってやまない夫の悲哀が物語の中心にある。

社会的に認められた夫婦であり、ビジネス上の関係が強固であっても、二人はお互いに孤独で、愛し合ってはいない。

妻は夫と離れたくて、現実逃避するかのように若い男たちの無心に応じて、金を与えて関係を作る。若い男性のコントロールに汲々とし、みっともない。

一方の夫は創作するときのかたわらに妻がいることを望んでいる。自分を叱りつけて励まして、ほめてほしい。一番そばにいてほしい存在なのだが、妻のガラはそんな夫のダリにうんざりしている。

ダリにとってガラは、すべての役割を担ってほしい存在なのだ。妻、母親、恋人、友人。ガラにとってダリはもはや単なる金づるに過ぎず、なるべく離れていたい。ただ、ガラ自身も離れられないことがわかっている。

ダリは指を切っただけで死ぬと大騒ぎをして寝込んで創作をやめて、ガラを自分のところに呼び戻したりする。そんなとき、ガラは収入源であるダリを無下にはできず、仕方がなく心配をしているふりをして慰める。駄々をこねるダリと、役割をまっとうするだけのガラ。

この映画の狂言回しとして、ジェームズという若い男性が登場する。彼はダリに魅了され、翻弄され、犯罪行為にまで巻き込まれてしまうのだが、後味はそれほど悪くない。

ダリは自分の絵画を売るために、ただの白い紙にサインをして、そのサインの上に絵を印刷をして高値で売りまくっていた。これはアートの粗製乱造であり、過剰供給で、立派な詐欺行為である。いずれ、値崩れすることは目に見えている。ダリは自壊に向かって突き進んでいく。

また、ダリは乱痴気騒ぎをして、ホテルで暮らしていた最後の画家でもあるだろう。ただ、彼はたくさんの人に囲まれながらも、いつも寂しさと孤独に耐えているように見える。

いやはや、夫婦になっても、富を得ても、安心や安定はやってこない。やはり、人間関係は固定的なものではなく、非常に流動的なものであり、パワーバランスはいともたやすく崩れ、パワーゲームはいつまでもどこまでも続いていく。

しかしながら、関係を断ち切るという選択肢がない夫婦は、やはり強いのではないか。離婚しない夫婦、離婚できない夫婦は、ある種の運命共同体であり、一つの生命体のような強さがある。

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